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ブナ探索山行 第27回
当間山(新潟県)   ブナ林がずっと続く山

新潟県のブナ林を探している中で、当間山(あてまやま)という山の存在を知った。
今回初めて登山したわけだが、1028mという十日町市で一番標高の高いこの山は、ほぼ全山がブナ林となっていた。
全体の山行記録は一般のページに記している。

広大な斜面に大きなブナ林

ブナの多い新潟県でも、ここまでブナに覆われている山というのも珍しい。同程度の標高の大蔵・菅名、五頭山、光兎山、越後白山もブナの山だったが、ブナ林以外の景色も印象として残っている。ブナ林の密度で言えば、刈羽黒姫山がかなりいい勝負である。
当間山も標高800mを超えると低灌木帯が分布する部分があるが、その後もまたブナの森となって、印象としては道中ずっとブナを見ている気がした。


当間山のブナ林 [拡大]


どうしてこのような全山ブナの山ができたのか、自分なりに考えてみた。大きいところは、傾斜が緩く一定であるということだ。当間山は、魚沼丘陵の北西面に横たわる広大な斜面の一角である。信濃川と魚野川の間に位置し、丘陵の一部にはスキー場が建設されている。
飯豊や朝日連峰に見られるように、ブナの生育に適した多雪の山でも、やせ尾根や急斜面はブナの着生はあまり芳しくなく、ヒメコマツやダケカンバなど、不安定な地形でも生き延びられる樹種にとって代わられやすい。雪崩の起きやすい地形は特にだ。

しかし今回歩いてみたところ、当間山登山道のある斜面は至って穏やかで、急坂や崖のような場所がなく変化に乏しい。尾根自体も幅広くやせ尾根を形成していない。雪の多い年でも雪崩が頻発するような地形には見えなかった。
先にあげた同標高の山は堀の深い山地形となっており、やせ尾根の登山道が多い。登山道付近は全山ブナにはならなくても不思議ではないが、変化があって登山として楽しい側面がある。

また、雪が多いことも他の樹種が入り込みにくい大きな要因であることは間違いない。十日町市は豪雪の地であり、アメダスで積雪量がいつも上位に食い込む津南町がすぐ近くにある。
当間高原にはゴルフ場ほかスキー場も建設されているが、この当間山に至る登山道周辺のエリアは手をつけず、自然を残すようにしたらしい。

下草までもがブナ
当間山のブナ林には大木や老齢樹がなく、特に展望台より下では樹齢100年未満の若い木がほとんどである。一番歳のいってそうなのが山頂近くの山親父と名づけられたブナだろう。
樹姿はごつくてちょっと曲がっているが、直径は1mもなく他の山で見るような巨樹ではない。それでも山頂に近いエリアは全体的に樹齢は少し高いようだ。

林床にはたくさんのブナの幼樹が成長している [拡大]

ブナの回廊を下っていく。足元を眺めると驚いたことに、今年発芽した双葉のほか、たくさんの幼樹が下草となって地面を埋め尽くしていたのだ。昨年は開花・結実の多かった年なので、発芽したブナもやしがたくさん出ているのはわかる。それ以上に2年生、3年生の幼木がうじゃうじゃ伸びている。
普通の山なら新潟でも、登山道脇にはカエデやオオカメノキなどの幼低木が多く見られるのだが、ここはそれがブナになっている。幼木の高さはまだ20cm程度下なので、笹が生育していれば隠れてしまい、成長は難しいだろう。しかし当間山のブナ林には笹が生えていない。
これまでずいぶんブナの山を歩いてきたが、下草がブナの幼樹というのは初めて見た。

これが全部成木になるのなら、当間山はブナのジャングルになってしまう。だが成木になるのはせいぜい50本から100本に1本か、さらにそれ以下かもしれない。幼木以上の若いブナももちろん見られるが数は若干少ない。それでも他の山に比べればブナの生育率はかなり高そうだ。

ブナの実生や稚樹の生育過程を見る上で、当間山は格好の研究材料なのではないか。しかし当間山を調べた文献もあまり見ない。ブナについての学術的な研究は1990年から2000年にかけての一時期に集中して行われてしまい、今は積極的に調べる学者先生もいないのかもしれない。
ある当間山の紹介文によると、「樹齢間もない幼樹から5年生、10年生、20年生、60~70年生、原生林といった生育プロセスを観察できる場所」とあるがまさにその通りである。
温暖化によりブナの今後の行く末が懸念されている現在にあって、当間山のブナ林は今まさに成長しているブナ林といえるだろう。



2019年5月26日(日) 探索
ルート:当間リゾート駐車場-ブナの回廊分岐-当間山三角点-山親父-当間山-ブナの回廊-駐車場





駐車場から登山口にかけては、開けた高原地

高原地

山中には年毎の最深積雪量を記録した柱が立っている

積雪計測柱

今年発芽したブナが多い

発芽多い

登山道は緩やかで歩きやすい

歩きやすい

イワウチワ

イワウチワ

スラッとした長身のブナ

長身

山親父と名づけられた巨木

山親父

標高を上げると残雪が出てきて登山道を隠す

残雪は上のほう

山頂の案内板にはビニールシートが被せられていた

山頂は地味

マルバマンサクは花とともに葉も出始めている

マンサクの花と葉

芽吹きの新葉は瑞々しい

新葉

双葉が至るところに

至るところに