ブナ探索山行 第21回
吾国山(茨城県) カタクリを見守るブナ巨樹
茨城県・笠間市/石岡市の吾国山を、ブナ100名山に加えることにした。
ブナは山頂西のカタクリ群生地付近に10本程度見られ、登山道からは外れるがその北斜面にも生育しているようだ。見れる範囲はブナ林と呼べる規模ではないが、まるでカタクリを見守るように立つその姿には風格があり、一度見たら忘れない巨樹である。
難台山~吾国山の縦走記録は
一般のページに記している。
「アガリコ」状態のブナ [拡大]
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低山にこれだけのブナが
雪国でもない、温暖な地域の標高500mそこそこの低山にブナがあることだけでも珍しいのだが、茨城県内にはこういう低山帯のブナが何か所かで見られる。
筑波山、八溝山、加波山のほか、雨巻山にもあった。那珂川近くの御前山には標高100m台で数本見られるという。また、吾国山-愛宕山縦走路の最高点である難台山にも、数本だがブナがある。
茨城県は太平洋側からの湿った東風により水分を得られやすく樹林の生育に適している上、極端に気温が高くならないことが、内陸の栃木や埼玉に比べてブナが育ちやすい理由の一つであろう。
また酸性雨の原因となる大きな町や工場が風上側にないこともいい方向に働いているのではないか。
もっとも、昨今の気温上昇に伴い、冷温帯の樹林の子孫が太平洋側で育ちにくくなっている事情は、茨城の山でも例外ではない。
吾国山のブナは、直径1mを超えるアガリコ型の巨樹が1本、カタクリ群生地の番人のように鎮座している。それに匹敵する巨木も近くに数本ある。
ブナ以外にも、シデやカエデ、アオダモ、杉など、背の高い大木がここには集中している。吾国山南方の縦走路上の雑木林の尾根とは、樹林の様子がまるで異なっている。吾国山山頂だけ、別の時間が流れているようである。
カタクリのお花畑にどっしりと立つ [拡大]
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太平洋側ブナの開葉は遅い
ブナは本来、他の樹木よりも開葉が早いと言われる。新潟など日本海側のブナ林の開葉はたしかに早く、4月中旬くらいにはもう新緑と呼んでいいくらいの、萌黄色から緑色の葉をつけている。
一方、今日歩いてきた雑木林の尾根では、ヤマザクラやイヌシデはどどんどん芽吹きが進んでいたのに、吾国山のブナはほとんど芽吹いていなかった。日本海側のほうが気温も低いのに、逆ではないかと不思議な気がする。
太平洋側のブナの開葉が遅いのは、生活を共にする他の植物の存在が影響しているのではないか。カタクリは、ブナ林など栄養肥沃な落葉樹の林床に群落を作ることが多いが、早春、樹林が葉をつけ始める前に発芽・開花・結実を済ませて、周囲が新緑になる頃には葉しか残っていない。いわゆるスプリング・エフェメラル(春の妖精)である。葉が茂って林内が暗くなる前に、活動の大半を終えようとする。
吾国山で見られるブナは、林床のカタクリが活動を終えてから葉をつけるように、意識的にずらしているようにも見える。また、下部に中低木の落葉樹があれば、それらを先に開葉させて光合成の機会を与えてから自分たちは芽吹く、という図式も成り立つ。自然の奥深い一面を見る気がする。
ここのブナが本格的に芽吹くのはカタクリの開花終了、すなわちだいたい4月の最終週あたりからと思われる。
下部の植物の芽吹きや開花結実を待つ、という事情は日本海側も同じだが、多雪地帯であれば春先、地面は雪に埋もれているから、林床植物の活動を待たずに木のほうが先に開葉するのだろう。
ブナの開葉が早いのは雪の多い地域だからこそ、と言える。
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2019年4月16日(火) 探索
ルート:岩間駅-愛宕山-難台山-吾国山-カタクリ群落地-福原駅
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新緑を迎えた吾国山
(2019年5月3日記)
2週前の難台山からの縦走の際、吾国山のブナの存在感に圧倒された。4月下旬になり芽吹きもしただろう。筑波山を下山ののち、萌黄色の葉をまとった吾国山のブナをもう一度見に行く。
今回の目的地は吾国山の山頂部だけなのでできるだけ短い行程でいく。道祖神峠から少し上がった洗心館跡まで車で行けそうなので、そこにカーナビを合わせる。実際はもっと上の切り通しまで上ることができた。ここからなら10分で山頂だ。山頂へは急登で、迂回路もあったがそのまま行く。
山頂下のカタクリ群生地は2週前とは一変、鮮やかな新緑となっていた。こぶこぶの老ブナも開葉している。一方地面のカタクリはすでに花は終わっていた。明るい光が必要なカタクリの開花が終わるのを見届けてから、ブナは葉を空間いっぱいに広げたということだ。こういう植物相互間で作り上げた生活サイクルが、ここではもう何十年も繰り返されてきたのだろう。
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2019年4月28日(日) 探索
ルート:切り通し-カタクリ群落地-吾国山-迂回路-切り通し
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