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ブナ探索山行 第20回
浅草岳(新潟/福島県)   会津只見の深いブナの杜

尾瀬から発する只見川流域は日本で最も山深い自然郷のひとつで、只見川付近の山はどこも豊かな樹林に恵まれている。
会津の志津倉山や博士山、御神楽岳、朝日岳、未踏の日尊の倉山などブナの名山がひしめく一方、奥深い山域ゆえ夏道がなく、一般登山の対象とならない無数の峰がある。交通の便が悪く、近寄りがたい場所のため昔から自然がよく残されてきたのだろう。
浅草岳は越後側のネズモチ平や桜曾根ルートを登るのが一般的だが、只見側から入山する入叶津ルートもあり、ブナ林はこちらのほうがより発達している。というか段違いである。今回歩いてみて、田子倉駅から登る只見尾根ルートに比べても山の深さやブナ林のスケールは全然違った。登山口のある叶津川は只見川の支流で、そういう意味では浅草岳は会津のブナ名山でもある。

入叶津口からの浅草岳山行は、一般のページに記している。


平石山付近のブナ林 [拡大]


低標高でもブナが満載

入叶津の登山口から入山する。堰堤を渡り、叶津川眺めから本格的な登りとなる。栃の木清水までは里山の雰囲気の残る部分だが、二次林と思われるブナが現れる。標高の低いところからすでにブナ満載である。多くは根元曲がりしており、すでにこの標高で冬は積雪がかなりあることを物語る。

また只見町付近は朝方濃い霧に包まれることが多く(この日もそうだった)、山間地は低標高でも多湿な環境が保たれ樹木には恵みとなるのだろう。

山神の杉、及び上部には浅草岳北麓の秘境「沼の平」に下れる分岐がある。広大なブナ原生林があるとのことで「ブナの山旅」著者の坪田寿人氏を魅了したところだ。しかし昨年ここで大きな崩落があり、沼の平の通過が原則禁止になってしまった。2つの分岐にはトラロープがかかっている。
沼畔へ下りることはできないが、その手前のブナ平までは行くことができ、巨樹「ブナ太郎」「ブナ次郎」も見られる。今回立ち寄ったところ、直径1m30cmくらいあるブナ太郎は、人間の身長より少し上のところで幹が折れていた。
折れたのはどうも10年近く前のようだが(詳細は不明)、登山道を塞ぐ直径1mを超える倒木をずっとそのままにしておくことに、あるがままに自然を維持しようとするという、登山道整備にあたる方の思いが表れている。



沼の平分岐付近。背の高いブナが多い [拡大]


美しいが短命なのか
沼の平に入れなくても、入叶津ルートは尾根筋のブナ林も圧巻だ。平石山からから1kmあまり続く平坦な地は「ブナの杜」と名づけられ、すばらしいブナ林となる。

腰の高さに照葉樹の低木が茂っている。赤い実をつけているのでモチノキだろうか。日本海側の山の場合、紅葉のブナ林は上部に黄金色、下部に照葉樹の緑色の2つの帯が続く。
沼の平上分岐からはブナは少し減るせいか照葉樹も見られなくなる。それに代わりマンサクやコミネカエデ、ミヤマナラなどの低木が腰下を彩る。

ブナは太くても直径1m程度のものばかりで、1mを超えるような老樹は稜線上にはほとんど見られない。
今年1年ブナの山を集中的に歩いて、太平洋側と日本海側のブナを見比べてきた。現在の太平洋側の気候はブナの生育に合っていないのかもしれないが、昔はよかったようで樹齢何百年も経ていそうな巨樹があちこちに残っている。それに比べて日本海側にはそういう老樹は、思ったほど見られない。
鳥海山や和賀山塊の山麓近くに日本一、二を争う巨樹があるらしいが、いずれもアガリコという人の手の入った老樹で、山の稜線にあるものではない。人が山仕事を行う範囲にあったブナである。標高の低い分、長く生き伸びられる要因はあったはずだ。

他方、山上や稜線のブナとなると日本海側はやはりその気象的条件ゆえ、太平洋側ほど長命にはならないように思う。
しかし日本海側のブナは美しい。春や秋はひときわ鮮やかな新緑と紅葉をの彩を放つ一方、それがゆえに生命のエネルギーは太平洋側ほど長続きできないのかもしれない。美人薄命ではないが、同じような原則が自然界にもありそうだ。

地面にはブナの実が落ちた形跡はあまり見られない。今は10月下旬、実が落下する時期のピークは過ぎたようだ。ブナの実は落ちたあとすぐに葉が落ちて実を隠すという。葉をどければ見つかるかもしれない。これだけブナが生育していれば、来年の春はおびただしいほどのブナの赤ちゃんが地面を埋め尽くすだろう。

今回見たブナで一番太かったのは「ブナ太郎」だった。枯れていないものに限ると平石山に登る手前の斜面に120cmくらいの巨樹があった。沼の平にはもっと様々な大きさ、樹齢のブナが見れることだろう。崩落を改修し、ぜひとも一般に入れるようにしてほしい。

浅草岳登山ではないが、同じ入叶津から発する登山道として、八十里越えというのもある。元は国道289号が新潟の三条市まで接続していたもので、山深さのため現在は車の通行ができず徒歩による通過しかできない。
目下新国道が建設されているところだが、もしこの国道が昔から通っていたのなら、これほどの自然は残っていたのかわからない。
八十里越えの登山道もブナの宝庫のようである。会津只見から新潟下越にかけての部分は、21世紀を20年近く経てもなお、人の手が入っていない原始の森が残っている。
登山として歩いてみることはそう簡単なことではないかもしれないが、来年以降もブナの山を求めて、時間と体力があれば訪れてみたい場所である。



2018年10月21日(日) 探索
ルート:入叶津登山口-叶津川眺め-山神の杉-平石山-沼の平上分岐-すだれ岩上-避難小屋跡-浅草岳-山神の杉-ブナ平(ブナ太郎、ブナ次郎)-入叶津登山口





入叶津登山口

入叶津登山口

叶津川眺め付近。低標高にもかかわらずブナが密集している [拡大]

密集

苔のびっしりついた巨木ブナ

苔厚い

平石山に上る手前の斜面に、直径120cmのブナ巨樹が立つ [拡大]

直径120cm

平石山からは、平坦なブナの杜となる

ブナの杜へ

平石山~沼の平上分岐間のブナ

色彩豊か

平石山~沼の平上分岐間のブナ [拡大]

黄葉一番

沼の平上分岐。沼の平方向にはトラロープがかかっている。文字による立ち入り禁止の看板などは立っていなかった

トラロープが

沼の平上分岐以降の低潅木帯になっても、ブナは多く生育している

青空に伸びる

浅草岳山頂

浅草岳山頂

樹皮に文字が彫られた跡が多く痛々しい。昔は自然保護の意識が今ほど高まっていなかったことの現れであろう

文字彫り多い

コミネカエデの紅葉

コミネカエデ

午後は霧が晴れ、山に囲まれた只見町方面の町並みが見下ろせるようになる

只見町が

黄葉に包まれた登山道が続く

黄葉の登山道

黄葉に包まれた登山道が続く

黄葉の登山道

ブナ太郎の折れた幹は、もう何年も登山道上に放置されている

倒木はそのまま