広島県庄原市・比婆山連峰のブナの純林は国指定の天然記念物である。
学者の定義を引用すると、天然記念物とは『その土地に古来から存在し、天然のままで残っているか、あるいはほとんど人為の影響をうけないでいるもの、すなわち、天然林・天然原野または固有の地質・岩石・動物など』となる。森林関係で言えば、名木、巨樹、老樹、畸形木、代表的原始林、稀有の森林植物相が該当してくる。
何となくこの日本ブナ百名山の選定方針と似ている気がする。このサイトで自分がやっていることも、あながち見当違いではないだろう。
しかし、それほどの「すごい」ブナ林とはいったいどんなものだろう。今日はその天然記念物を確かめに、比婆山連峰を縦走する。ルートの詳細は
一般のページに記している。ここでは比婆山のブナ林に絞って書いてみる。
双葉ブナ（ブナ平） [拡大]
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ブナ平に世代更新のサイクル
縦走路全体にブナは生育していたが、ハイライトは御陵からその南東側かけての稜線沿いとなる。その中で御陵のちょうど東側付近のブナ林はまさに天然記念物の名に恥じない、原生林そのものであった。
出雲烏帽子山から鞍部に下っていくと、「ブナ林を経て管理センター2.8km」と書かれた分岐がある。御陵（比婆山）登頂の前にそこに寄り道する。下りになるがそれほど高度を落とすわけではない。比婆山の東直下をトラバースする道だ。
今までの行程がブナとその他の樹林との混合林が主だったのに対し、ここはほぼブナの純林だ。巨樹あり、老樹あり、双葉の1年生ブナや稚樹もたくさんあり、圧巻の図である。大山と同様、ここは世代更新のサイクルが回っている。なお坪田和人著「ブナの山旅」では、ここをブナ平と称している。
太平洋側のブナ林にも双葉の赤ちゃんブナを見ることは多いが、それがそのまま成長することはまれで、途中で枯死してしまうのが普通だ。そのため、成木になるまでの途中段階の木（稚樹）がほとんど見られない。温暖すぎる気候や乾燥、増えすぎた動物・昆虫による食害などがその原因と考えられる。このまま行くとブナは他の樹木に取って代わられる可能性もある。
他方、日本海側のブナ林に行くとそんなことはなく、各成長段階の木が見られることが多い。昨日の大山もそうだった。1日しか見ていないので乱暴かもしれないが、今日の比婆山も安定した更新ができているように思われる。
ﾋﾉｷ植林帯に立つﾌﾞﾅ巨樹 [拡大]
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広島県の山は、気候的に太平洋側、日本海側どちらの影響をより受けているのだろうか。比婆山は広島県の山と言っても島根県との県境にあり、いわば中国地方の脊梁山地となる。こういうところは同じ山でも南に面している方と北に面している方で植生が異なるとも考えられる。
しかし南には四国山地があり、それが太平洋型気候の温暖・冬季乾燥傾向を打ち消しているかもしれない。スキー場があるので雪は多いはずである。日本海側のブナのほうが世代更新が進んでいると言われるが、そういう意味で比婆山は日本海型気候の影響を多く受けていると考えられる。
残された自然
またこの縦走路には、出雲烏帽子山の手前にヒノキの植林帯がある。しかしそんなところにも直径10cmもいかないブナの稚樹があった。あたりを見渡すと、30m先に今日見た中で最大のブナ巨樹が屹立している。
さらに登っていくと、ヒノキ林に混じって大きなブナが連続して出てきた。一番立派なのが幹周り275cmもあったので、樹齢200年を越えているだろう。ここを植林するときはすでに大きな存在となっていたはずである。太いブナだけは恐れ多くて伐採できず、残したのだろうか。
西日本の同標高の山が全てこのように、ブナを始めとした広葉樹林が豊かだとは限らず、他の山域と同様、過去に大きな伐採があったのだろう。蒜山然り、隣の吾妻山然りである。
比婆山は御陵があり信仰の対象となっていたため、伐採が禁じられて昔からの自然が残されてきたと考えられる。
御陵付近は、ブナ平とはまた趣を変え、奇妙な形をした巨樹が林立していた。箱根三国山の奇怪なブナを連想させる。低いところから主幹と同じくらいの太い枝を伸ばしているのは太平洋型ブナの特徴である。
大ざっぱにまとめると、ブナ平は日本海型、御陵周辺の稜線は太平洋型のブナが主に存在するということになろう。
同じ中国地方でありながら、昨日の伯耆大山のブナ林とは全く違った様相を見せられ、自然の奥深さを感じずに入られない。氷ノ山（兵庫）や和泉葛城山（大阪）、石鎚山（愛媛）のブナも見比べてみたいものである。
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2018年5月12日(土) 探索
ルート：広島県民の森-毛無山-出雲烏帽子山-ブナ平-御陵-池の段-立烏帽子山-県民の森
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