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ブナ探索山行 第5回
越後白山(新潟県)       越後の霊峰は全山ブナの山

越後白山は新潟県五泉市・村松地区の伝統ある古刹、慈光寺の霊山として崇められてきた。標高は1000mを少し超えたくらいだが堂々とした風格で越後平野を見下ろしている。
霊山であったことが山中の開発を避けさせ、深い自然が守られてきたのだろう。まずは慈光寺山門前の、樹齢300年とも言われる荘厳な杉並木に迎えられる。

山中は、3合目から上はほぼブナ林である。純林もあり、直径10cmほどの若いブナや、壮年期のブナ、また天狗の腰掛という老樹など、様々な時代のブナが育っている。また、登山口との標高差があり、残雪の山頂部の雰囲気がよく深山の趣がある。豊富な花やブナ林でよく見かける中低木層との階層構造が見られるなど、ブナの山の要素をすべて抱え持っていると言っていい。


白山のブナ純林

日本ブナ百名山を検討するとき、新潟の登った山はどこもブナがすばらしく、リストが新潟の山だらけになってしまうので、新潟の山は少し基準を厳しくし、他の地域の山を入れるようにしていた。しかしこのブナ林を見てしまっては、越後白山をブナ100に入れないわけにはいかない。入れないと逆に不公平になりそうだ。
なお、白山全体としての山行記録は一般のページに掲載した。

虫こぶに見るブナ林の多様性
こんな豊かなブナ林の中で、若葉についた虫こぶ(虫えい)を多数見かけた。これは虫の寄生で、ブナの葉の場合は主にタマバエという虫が中に幼虫を産み付けているそうだ。よくブナの葉が丸い形でくり抜かれたようになっているのを見たことがあるが、これはこの幼虫が葉を食べた跡なのだろう。
しかしこんな出たばかりの若葉にタイミングよく寄生するものだ。もしかしたら、芽のうちから入り込んでいるものもあるのだろうか。

ブナの葉に寄生する虫は西口親雄著「ブナの森を楽しむ」(岩波新書)で23種に分類されている。
この分類表を見ながら、白山で見たブナの虫こぶを自分なりに判別してみた。
写真 タマバエの種類 形状、色
ブナハスジドングリタマフシ 尖帽子状 淡緑
ブナハタマフシ 玉形(りんご状 緑→赤)
ブナハマルタマフシ 半球形(りんご状 緑→赤)
ブナハアカゲタマフシ 球形 淡紅 軟毛

でもブナにとってはこれも害虫の一種であり、異常発生してことごとく食われてしまってはたまらない。虫こぶとは関係ないが、過去にも白神山地で、蛾の一種であるブナヒメシンクイが大量発生し、その幼虫がブナの実を一気に食べてしまった例もある。
ブナに限らないが、植物・生物の間での加害者・被害者の力関係は実に微妙で、ブナはそういう敵の大量発生を予測して開花、開葉の量を年ごとにコントロールしているという説もある。逆に、全部が害虫とは限らず、ものによってはブナに栄養分を与えてくれる、共生関係にあるものもあるという。
ブナの研究本を読むと、虫や菌のことで全ページの半分近くを占めているものが多い。それだけ樹木と虫の関係は密接に絡み合っているようだ。
ブナの若葉に見られる虫こぶは、そうした森を構成するものたちの複雑な関係を垣間見ることができる。

白山でのブナの開花状況だが、箱根の金時山、三国山、昨日の村上市の大平山同様、樹冠で多くの開花(雄花、雌花とも)が見られた。馬の背のヤセ尾根では、尾根の縁で外に向かって伸び出した枝で、日当たりの良いところで特に花の数が多かった。低い位置はもっぱら葉の展開のみである。
大平山のページで書いたように、東北林野局の開花レベルで言えば、秋の結実予想は3年ぶりに「豊作」、またはそれに近いレベルになりそうだ。地面にはおびただしい数の雄花が落ちており、樹種は違うが高尾山(東京)のイヌブナの森も同じく、登山道は雄花で埋め尽くされていた。この傾向は各地で同じようである。

異彩を放つ「天狗の腰掛」
白山のブナのもう一つの目玉は、田村線7合目にある「天狗の腰掛」という一本ブナである。幹回りは390cm、すなわち直径125cmくらいだが、その数字以上に歴史を感じさせる老樹である。

天狗の腰掛 [拡大]

樹齢ははっきりとしたことはわからないが、おそらく300年くらいはいっているだろう。伐られた枝からまた枝が生え、四方に枝を伸ばした、いわゆる奇怪な「アガリコ」状態になっている。
不思議なのは、ここ7合目の地点を含め、一帯に同じような巨樹、老樹が見当たらないことだ。周りに直径50cm以下の壮年期のブナが立ち並ぶ中で、ひとり異彩を放っている。
天狗の腰掛は登山道を塞ぐようなところに立っており、地面は平坦だ。左右の斜面に比べれば立地は安定して、風も弱そうである。これが長生きした原因なのか。
切られた形跡があるにしても、かなり過去のことである。他の老樹は伐採されてしまった過去があるのか。霊山は禁伐かと思っていたのだが、そうではない時代もあったのかもしれない。慈光寺のサイトによれば、開山は室町時代(1403年)とかなり古い。その後の騒乱や政変による寺門廃絶や再興が繰り返されてきたという歴史がある。

田村線を下りきって慈光寺上のお堂に下り立つ直前、ここにも太いアガリコブナが2本あった。見ようによっては天狗の腰掛以上にインパクトがある。切られた枝の跡がこの山の長く深い歴史を物語っているようにも思えた。

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2018年4月29日(日) 探索
ルート:黄金の里会館-慈光寺-尾根線-越後白山-田村線-天狗の腰掛-慈光寺-黄金の里会館
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登山口の慈光寺には雪が残っていた

慈光寺

ブナはイヌブナと違って株立ち(ひこばえ)状になりにくく一本立ちするものだが、こうした株立ち状態のブナもあった

株立ちもあり

開葉直後は赤い色が残っているものもよく見る

赤い葉と雌花

ブナの純林(5合目付近)

ブナの純林

6合目の馬の背付近は雪が消えたばかりで、樹林がまだ半倒れの状態になっていた

雪が消えたばかり

7合目付近のイワウチワとブナ林

イワウチワとブナ林

8合目から上は雪上となり、ブナの切り明けが見られた

切り明け

白山山頂はまだ残雪多い。ブナも生えている

白山山頂

雪の消えたところはから開葉している様子。残雪上のブナは芽吹き前

雪でくっきり

開花間もない状態。雄花の花粉はまだ飛んでいない

雄花が出たて

田村線の7合目、天狗の腰掛

天狗の腰掛

慈光寺への下山直前、2本のブナ巨樹があった。天狗の腰掛と同世代か

同世代かも

下山後、村松地区から見上げる白山

堂々とした山容