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ブナ探索山行 第7回
伯耆大山(鳥取県)       西日本最大のブナ林

伯耆大山に登る前に、「大山・蒜山のブナ林」(橋詰隼人氏著/今井書店鳥取出版企画室,2006年)を読んでいた。著者は鳥取大学の元教授で、30年間のブナ林研究の備忘録的位置づけとして記された著である。
それには、西日本で最大の規模を誇る大山のブナ林を含め、西日本のブナ林は氷期には乾燥のためほとんど存在しなかったが、温暖・湿潤の時期を迎え北陸地方から移住してきたとされている。歴史的には新しい森林帯と言える。
なお、伯耆大山全体としての山行記録は一般のページに掲載した。

大山と蒜山
大山は昭和11年という早い時期に一帯が国立公園に指定されたにもかかわらず、戦前戦後の拡大造林や観光地開発の余波で一時期は広葉樹林が伐採の憂き目にあった。戦後日本の拡大造林の流れは、東北地方のブナの森をことごとく駆逐していったことで知られているが、西日本でも大きな面積のブナ林が失われていた。しかしその後、大山周辺では自然保護運動が高まりを見せ、残りのブナ林が保護地域に指定されたという。

夏山登山道にて [拡大]


元谷付近にて [拡大]

一方、蒜山のほうも元々ブナを中心とした樹林が豊かな山域だったようだが、観光地開発やスキー場建設のため、南麓の樹林はほとんどが伐採された。現在蒜山に残っている比較的広いブナ林は鳥取大学の演習林のみだそうだ。あとは、上蒜山の西の稜線沿いにブナ林があるとのことだが、一般登山道がつけられておらず、藪こぎで縦走した人の山行記録を時々見るのみだ。ブナを求める登山として現在の蒜山は向いていないかもしれない。

前出の書籍は蒜山演習林のブナ林をこと細かに解説しているので実際見てみたかったのだが、一般の人が登山目的で入った記録が見当たらなかったので、今回は蒜山登山を諦め、比婆山のほうに足を伸ばした。

若々しいブナの森
大山の夏山登山道、元谷ルートを実際歩いてみると、この本の通り、巨樹と言えるブナは余り見られず、比較的若いブナが目立った。また、大山寺へ下っていく樹林帯には双葉の1年生や直径1cmくらいの稚樹、10cm前後のブナなど各世代のものが見られ、結実→実生→生育のサイクルが毎年のように行われているのを目の当たりにした。大山のブナは世代更新が安定して進んでいるように思える。

日本ブナ100名山を始めて、新潟から箱根までいろいろな山域の山のブナを駆け足で見てきたが、世代更新という意味ではここ大山のブナ林が一番盛んで、若々しさがあるように思えた。
温暖化の進行により、西日本のブナはこの先滅亡していくのではないかとの観測がある。しかし見た限りではブナ林は元気である。

また、大山や明日登る予定の比婆山のブナ林は、日本海側と太平洋側のブナのそれぞれの特徴を併せ持っているという。これは樹木そのものというより、森全体の構成に着目しているようだ。すなわち日本海側のブナ林のように純林もあれば、他の高木と共に林冠を形成しているところもあり、これは太平洋側のブナ林でよく見る姿だ。
大山のブナそのものは白い樹皮に地衣類が発達し、高木が多い。丹沢のブナと似た印象を持つ。地衣類がつきやすいのは海に近く、湿気があるからだろうか。丹沢やこの大山に多く見られるのも納得がいく。

夏山登山道もブナは多いが、急傾斜のヤセ尾根であることと土壌の薄さが原因なのか、根が地上に露出しているものが多かった。ブナはもともと根を土中に深く侵入させない(浅根性)樹木で、その代わりに水平方向に広い範囲に根を張り巡らす性質がある。
ただどちらかと言えば急斜面やヤセ尾根よりも、地盤の安定した平地や鞍部のほうが暮らしやすいように見える。

登山道も土留めや木段が多く、山自体の崩壊や、もともと土壌の薄い山地にオーバーユースな登山者の入り込みによる登山道の破壊を、人の手により食い止めているようだ。「一木一石運動」など、ボランティアの方や登山者の努力により山頂付近の緑は復活してきたようだが、下部の樹林帯のほうの保全が今後の課題になってくるのではないか。

今回は行かなかったが、大山の北方にある船上山~勝田ヶ山、甲ヶ山周辺は山としての歴史が古く、巨樹のブナも多いという。宝珠尾根ほか、南側の烏ヶ山もブナの巨樹が多いそうだ。それぞれ地形にも変化があり、ブナが目的でなくても、1日の登山コースとして楽しめそうである。

「ブナの山旅」著者の坪田氏の大山登山は夏山登山道を歩かず、南側の文殊越から入山し、鳥越峠を越え駒鳥小屋に宿泊。翌日振子沢を登り山頂には向かわず宝珠尾根を下っている(その翌日は船上山~勝田ヶ山を往復している)。大山でのブナ林山行の一番のハイライトは、この鳥越峠ルートかもしれない。
西日本最大のブナ林を抱えていることからもわかるように、伯耆大山は山稜そのものが大きく、いくつもの尾根を起こし谷を刻んでいる。したがって山頂に上るルート以外にも、バラエティに富む見所をたくさん提供してくれている。次にこの山域に来たときにもコース選びにまた迷ってしまうだろう。



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2018年5月11日(金) 探索
ルート:夏山登山道入口-行者谷分れ-伯耆大山(弥山)-石室-元谷入口-大山寺-夏山登山道入口
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夏山登山道のブナ。白い樹皮は日本海側のブナの特徴

白い樹皮

土壌が薄いせいか、根が露出しているブナが見られた

根が露出

夏山登山道、元谷コースいずれも双葉の1年ブナが見られた

1年生ブナ

夏山登山道は土壌流出や崩壊を防ぐため、土留めや木の階段が続く

土留めと木段

山頂付近は緑が復活してきているそうだ

緑が復活

大山の下部は広いブナの森になっている

下部はブナの森

ブナの若葉が鮮やか

若葉が鮮やか

元谷付近。ブナの幹の間から、三鈷峰が見える

三鈷峰が覗く

直径1cm前後の細木だが、ブナの葉をたくさん展開している

?年生

元谷入口から、大山北壁を一望

大山北壁

胸高直径10cmくらい。樹齢でいえば50歳前後か

自分と同い年?