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ブナ探索山行 第4回
大平山(新潟県)       ブナ開花の謎を考察する

東北、北陸の山は標高が低くてもブナに覆われている。冷温帯のブナは湿潤な気候を好み、乾燥した地域ではあまり見かけない。雪と相性のよい樹木でもある。
雪は単に降水量の多さを表すだけでなく、積もることによってその場所を多湿な状態に保ってくれる。残雪の期間が長ければブナの生育にとって好条件となる。他の落葉樹林に雪への耐性が備わっているのはあまりなく、多雪地域の山は、気温や地形にもよるがブナの一人勝ちとなる。特に新潟県や山形県などの豪雪地域で、ブナの多い山が集中している気がする。

新潟県の、山形県に近い村上市はブナの豊かな低山が多い。戦後の高度経済成長を支えた拡大造林時代は、需要の求めに応じて、木材に適さないブナなどの広葉樹林をことごとく伐採して杉・檜の植林の山に変えていった時代である。豪雪地帯の山はその気象条件ゆえ、造林もそれほど盛んではなかったようで、自然林がたくさん残されている。杉を植林しても雪の重みで曲がってしまい売り物にならないので、敬遠されていたという背景もあろう。
今回登った大平山(おおだいらやま)は標高560mで、下部には杉の植林地があったが、上のほうは深く豊かなブナの原生林となっていた。


若葉の間にブナの雌花が覗く

なぜ林冠で開花するのか
登山ルートは南大平ダム湖公園からの一周コースである。山行記録は一般のページに掲載している。

下部の樹林帯はヤマザクラ、オオカメノキ、クロモジ、カエデなどの落葉広葉樹、その後杉の人工林沿いを登っていく。
ブナは標高300mくらいから現れる。胸高直径は平均30cmくらいの比較的若いものが多いが、中には巨木あり、10cmもいかない子供ブナ(と言っても30歳くらい?)ありで樹齢範囲はかなりの幅がある。足元には高さ3cmくらいの、細い枝からブナの葉を出している稚樹もあり、おそらく世代更新は盛んなのだろう。

ブナとともによく目につくのは、高木ではトチ、人間の背の高さにハウチワカエデだ。ハウチワカエデは赤い小さな花をたくさんぶら下げている。そして腰上くらいの高さを見ると右にユズリハ、左にユキツバキと照葉樹が見事に棲み分けており、日本海側のブナ林の典型的な姿はこういうものかと納得する部分が多い。
直径1mのブナの巨木の先、ブナの倒木があり樹冠の上部が目の高さで見られた。雄花、雌花をたわわにつけている。雄花は花粉を出しきって役目を終えたのか、茶色くなっている。
大平山山頂もブナに囲まれているが、北東側がわずかに開かれていた。

山頂から先、花をつけたブナを低い位置で見れた。ヤセ尾根になっていて、尾根の下部の斜面に根を張っているために林冠が近くで見られるということだ。少し行ったところに再び倒木があって、ここでも花が目線の位置だった。
今年南関東で見られたブナは林冠でのみ花が見られたが、新潟も同じである。低いところは若葉は出ていても花はなかなか見られない。

ブナは雌雄同体であり、雌花の下に雄花が数本垂れ下がる形になる。風媒花のブナは、雄花(花粉)が受粉先を目指すのは風任せのため、低いところに花をつけてもあまり成果は得られない。林冠近くの方が雄花を遠くに飛んでいけるので、自家受粉を避けるために有利に働くことになる。東北地方森林管理局のサイトでは、ブナ開花のレベルを5(豊作予想)、3(並作予想)、1(凶作予想)、0(無開花)の4段階に分類している。5は樹冠全体に、3は樹冠上部のみに花がつくレベルということだ。大平山の花のつき方を見たところ、樹冠全体とはいかないが、かなりの数が咲いているので、今年の秋のブナ結実度は「豊作」に近い量が予想される。
以前、同じ新潟の新保岳で見たのはもっと低い枝に花が咲いていた気がする。このとき2015年はブナ結実度で「豊作」の地域が全国的に多かった年だ。見ている山が違うので比較にはならないかもしれないが、今年は2015年ほどではないかもしれない。それでも、2016年のようにほとんどが無開花・無結実の年もあるので、ブナという木は結実度の差が年によって著しく大きいのがわかる。
また、開花は盛んでも結実しない、さらに結実しても中身が空(シイナ)のケースもあるので、開花量イコール結実量とならないのも、自然の奥深いところである。

開花する年としない年
なぜ年によってこんなに差があるのか、真の原因は実際まだわかっていない。ただ樹木のもつエネルギーの蓄積・消費量のバランスに左右されるということがわかっている。
樹木は普通、光合成によって年々内部にエネルギーを貯め、木自身の成長や開葉でエネルギーを消費していく。開花にも大きなエネルギーを消費するが、水を注ぎ続けるコップから最後に水がどっとあふれ出す、そのあふれ出る分が開花のエネルギー消費として使われるという考えだ。開花・結実のピークが数年に1度あるという現象を、これはうまく説明できるという。

また、気候変動や害虫の発生量をブナ自身が予測し、自己防衛のために開花・結実量をコントロールしているという説もある。これについてはのちの山行で考察したい。
林野局による東北地方のブナ開花・結実量の推移は一般にも公表されており、過去の年ごとの推移が把握できる。しかし新潟県は関東林野局に属しており、詳細な調査結果は公表されていない。


351m点のブナは枝が切られ、そこから新枝・新葉が勢いよく伸びる

351m点ピークにはブナの大木が2本あるが、太い枝が途中で切られ、新しい枝が何本も伸びてアガリコのような奇怪な姿となっていた。原生林の山もこのあたりは過去に山仕事で人が入った形跡がある。
しかし、切られたところからは新しい枝が伸び、ほとばしるような新緑模様となっていた。生命力の強さに圧倒される。

351m点からダム湖公園に下っていく登山道は、標高300mを割ってもまだ樹相のいいブナがまだ見られた。

大平山は評判に違わず、さすが豊かな原生ブナの山だった。倒木が多かったとはいえ花を近くで見られたことが大きい。また、多種多様な種類の中低木で構成された「ブナ林の階層構造」を目の当たりにできた。
ブナの密度、樹齢の幅、容姿のバラエティ度から言えば高坪山のほうに軍配が上がるだろう。いずれにしてもこの標高でこれほどの原生の自然が保たれているのは日本海側、北の山であるからこそ、と強く実感した。

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2018年4月28日(土) 探索
ルート:南大平ダム湖公園-臥牛展望-大平山-3市村境界-坂東沢ピーク-南大平ダム湖公園
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南大平ダム湖公園が登山口となる

南大平公園

若葉と雌花

若葉と雌花

枝をダイナミックに広げている

枝を四方に

ブナは直径10cmから1mまで、さまざまな樹齢のものが生育している

幅広い樹齢

新葉を出したブナの稚樹。これで2,3年生くらいだろうか

ブナの稚樹

低木層のユキツバキ、中間層のツツジ・カエデ類、高木層のブナと階層構造となっている

ブナ林の階層構造

出たばかりの葉はまだ赤い

葉の展開

倒木の林冠部には雄花と雌花がたくさんついていた

雄花と雌花

開花直後の姿

開花直後

直径1mくらいのブナ巨樹

巨樹は1mくらい

低い部分にも萌芽枝が葉を展開しているが、花は見られない

低所にも展葉

ブナの若葉は葉脈に沿って波打ち、質感があってみずみずしい

みずみずしい若葉

ムラサキヤシオ

ムラサキヤシオ