2019年も押し詰まった。今年は山中でほとんど宿泊しなかった一方で、日帰り登山が増えた。高尾山の魅力を知ったことが大きく、年間の山行日数はいままでで最多となった。
宿泊が減ったのは家庭の事情にもよるが、やはり年を取ると何となく下界の生活が気になって、泊まれる余裕があっても下山してしまう。いろいろな面で不安感と対峙した1年であった。自分と同年代の人は、おそらくこの状況と心理を理解してくれるはず。
そんな中で印象に残った山で一つ上げるとすれば栗駒山の大クロベとブナだろう。吾国山や筑波山など、茨城県の山も新鮮さがあった。ブナの山では新潟の当間山、そして「天城(のブナ)越え」の伊豆山稜線歩道といったところか。高尾山は別格である。
下山地のさわらびの湯では、十月桜がきれいに咲いていた [拡大]
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令和元年最後の山として奥多摩の高水山から棒ノ折山を歩き、快晴の下展望の稜線を満喫した。
軍畑駅で降り、朝日で赤くなった山里を見下ろしてから出発する。冬のきりっと引き締まった大気の中、川沿いの平溝通りを歩く。平成26年豪雪のときはこの辺りも1メートルを超える積雪で、ガードレール外の歩道に雪が大量に積まれていたのを思い出す。今年の台風でも影響はあったかもしれないが、今はそんな爪跡も見られない。
高源寺の山門脇の細道を登り、堰堤沿いの高水山登山口から入山する。
緩やかな林間の道からジグザグの急登に転じる。人工林を抜け、ススキの穂が立つ斜面を登りきって支尾根に上がる。さらに少し登ると背後の展望がよくなり、樹林越しながらスカイツリーがよく見えた。
高水山は東京の西部・武蔵野台地の丘陵が標高を上げて山地となっていく境にあたるので、東側には高い山が見られず、だだっ広い平野があるのみである。
杉・ヒノキの人工林につけられた登山道には合目石柱が立っている。8合目で上成木からの道を合わせ、山頂下の平坦道になる。斜面には数日前に降った雪が残っていた。
落葉樹林の中にブナが1本、ひときわ高く伸びていた。いや、以前は2本あったのかもしれないがうち1本が倒れていた。標高700mを少し超えた地点でのブナは奥多摩では珍しい。以前見た大岳山馬頭刈尾根・高明山のブナは760m付近だったため、奥多摩でブナを見た低標高の記録が更新された。
高明山も高水山も信仰の山ゆえ、古い木が伐られずに残されているのだろう。
常福院からさらに一段上がったあずまやからは、相模湾が光るのが見えた。もう少し進んだところが高水山山頂。山頂付近にもブナが数本見られた。
山頂から急下降し、歩きやすい尾根を行く。随所で北面が開け、奥日光の雪山が見えた。今日は1日限定で、北関東北部の山も晴れているようである。
急坂を登ってすでに登山者の多い 岩茸石山山頂へ。南側を除き大きな眺望が得られる。
奥日光の男体山、女峰山、日光白根山。奥武蔵ののっぺりした図体の武川岳や二子山の後ろに見える真っ白な山は谷川岳か。西には川苔山の後ろに少し雪化粧した雲取山。今日の最終目的地である棒ノ折山はほぼ真北の台形の山である。
岩茸石山は東側の眺めもよい。筑波山ほか、高水山の山頂の上の地平線上にはスカイツリーも見える。
名坂峠に下って、小さなコブを上下しながら棒ノ折山まで縦走する。
1年か2年ごとに1回、しかもだいたい同じ時期に歩いているので、植生など特に新たな発見も得にくい。かえって標識などの人工物の変化が目につく。次の比較的大きなピークである常盤の前山には新しいベンチができていた。大岳山と御前山を結ぶ稜線の上には、富士山も頭だけ出している。
すぐに南面が伐採で明るい逆川ノ丸に出る。高水山と岩茸石山が並んでよく見える。
アシビの多い稜線を緩く上下し、ミズナラの木が見られると黒山山頂となる。樹林に囲まれているが明るい山頂だ。
さらに北上を続けると、標高差100mの人工林の急登となる。今日一番の頑張りどころだ。上がりきったゴンジリ峠で、ここで登山者の年齢層が急に変わり、若い人の声が多くなった。前に歩いた時も感じたが、棒ノ折山は若い人好みの山なのかもしれない。
棒ノ折山への直登の道は、尾根筋が荒れて危険なため、左側の樹林帯の中に登山道が敷かれている。こうなったのは10年くらい前からか。この間のコースタイムも、地図上の記載よりは余計にかかるようだ。
着いた棒ノ折山は約束の大パノラマ。しかし地面はこれまたお約束の田んぼ状態である。いや、これでもまだいいほうで、もう1ヶ月くらいすると足首近く沈み込むくらいぬかるむはずである。
谷川岳、朝日岳の上越国境の山のほか、平ヶ岳や尾瀬の燧ヶ岳まで見ることができて満足のいく眺めである。また、武甲山や大持山から東に伸びる長い稜線が、関東平野に没していく様がよくわかり興味深い。
高水山から棒ノ折山、これを縦走できれば今年の山歩きも首尾よく締めくくることができる。奥茶屋への登山道が台風19号の影響で通行止めとなっているので、今日も滝ノ平尾根で河又名栗へ下る。
滝ノ平尾根ルートは岩茸石や白地平などのビューポイントこそあるものの、全体的には特徴のない、長く単調な尾根道である。しかし下山地に温泉がある魅力は捨てがたい。
白地平は木製の展望台が組み立てられているが、関係者以外立ち入り禁止の表示がある。もう10年くらいこの状態のままである。立ち入り禁止の展望台なら、いっそ解体してしまったほうがいいと思うのだが、関係者とはいったいどういう人なのだろうか。いつも不思議に思う。
河又名栗地区に下り、さわらびの湯に寄っていく。建物前の広場では、十月桜がきれいに花をつけていた。桜並木が傾きかけた西日に当たって白く輝き、まるで満開のソメイヨシノのようだ。
風呂上りのビールの後、バスと電車で帰路につく。