上成木から高水山への登路は昔の表参道で、かなり前に一度歩いたことがある。2018年初頭の山として、山頂の常福院に初詣のお参りを兼ねて登り、その後は棒ノ折山まで縦走することにする。
棒ノ折山山頂に立つヤマザクラ
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東青梅駅の北口から少し歩いてバス通りに出る。左折して50m程の所にバス停があった。バス停の北側に小高い丘があり、眺めが良さそうだ。
北小曽木経由でバスは終点の上成木へ。静かな田舎の住宅地といった感じだ。
橋を渡った最初の角で左折し、ほどなく鳥居のある登山口へ。古い字体というか、象形文字のような「高水山」の文字が書かれた標石がいかにも古い参道の雰囲気をかもし出している。
杉木立の道は急なところもなく歩きやすくて、所々で丁目石を見る。登山者は軍畑駅から歩く人がほとんどだと思うが、この上成木道もよく整備されている。トレイルランのルートになっているからだろう。舗装道を2度横断し、高度を上げていくと小さな橋の手前で迂回路に入り、ほどなく常福院手前の林道に出た。
階段を上がって山門をくぐり、常福院の前に立つ。狛犬があるので一応、干支の山と言えなくもない。奥多摩には山頂付近に狛犬のある神社が建っている山が多い。狼のように見えるものもあるが、ここ常福院のは普通に犬の姿だった。
高水山山頂に上がり、小憩の後尾根伝いに行く。右手は自然林で所々眺めが開け、奥日光の山がよく見える。
急坂を経て岩茸石山に立つ。展望はさらに素晴らしく雲取山や奥武蔵の山、奥日光や遠く筑波の山々がいつにも増してはっきりと見える。高水山の上にスカイツリーも健在だ。
正面に伸びる尾根筋の最後の高まりが、今日の目的地となる棒ノ折山である。尾根道はアップダウンの連続で初めのうち、特に岩茸石を超えるあたりははなかなか辛い。緩やかな登りが続くほうがかえって楽だったりする。
左手が急崖になっていて短い手すりのあるところからは大岳山、御前山を結ぶ稜線に富士山の頭が出ていた。
ひとしきりの登りをこなすと右手に登山道が分岐しており、「日鉄住金物産ロード」と書かれていた。紙パルプ、セメントや電力会社ならわかるが、山に鉄鋼会社の名前を見るのは珍しい。この分岐は道は企業の作った私道のようにも見えるが、下の林道に通じているようだ。
どんな事業を手がけているのかとWEBで調べてみたら、『東京グリーンシップ・アクション』という社会貢献活動の一環ということのようである。企業側のサイトにも「東京都の条例に基づいて指定された青梅上成木地区の森林環境保全活動を行なう」という記載があった。事業との直接的なつながりはなさそうである。現代の日本に君臨する大企業ともなると、社会的責任の一環からこのようなことも手がけているのだろう。
それにしてもこの2つの鉄鋼会社、いつの間に合併していたのだろうか。最近は経済の動きにもうとくなって、恥ずかしながら全く知らなかった。
「常盤の前山」と手書きされている指導標を過ぎると逆川ノ丸となる。南面の樹林が伐採されて高水山と岩茸石山がよく見えるようになった。
アシビやリョウブの木が目立ち始め、低山ながらも次第に山深さが感じられるようになる。明るいピークの黒山に着く。番人のようにそびえ立つ巨木はミズナラだろうか。
黒山から先の登山道は東京都と埼玉県との境、いわゆる都県境尾根となる。自然林から再び杉檜の森、そしてここからは標高差100m近い急登となり、今日一番の頑張りどころである。これを登りきるとゴンジリ峠でようやくの感があるが、棒ノ折山へはさらなる急坂となる。
ここは登山者の踏みつけによる荒廃が進み、部分的に隣の樹林帯に迂回路がつけられていたのだが、ついに坂のほぼ全体が迂回路になってしまった。滑りやすい坂より樹林帯の木の根を縫った道のほうが歩きやすいことはたしかだが、登山道が広がってしまう典型的なパターンであり、自然に対するダメージが懸念されるところだ。
ゴンジリ峠から先はようやく登山者も増えてきたのだが、棒ノ折山山頂は今日一番の賑わいの地になっていた。広い頂上には雪もなく、展望は大きく、今日は特にクリアである。奥日光男体山と女峰山、白根山、谷川連峰など白き峰々、武甲山や大持山など奥武蔵の山、そしてスカイツリーと都心のビル群もよく見える。
奥多摩の山からの展望の魅力は、幾重にも連なる山並みと富士山、南アルプスが見えることであるが、棒ノ折山からの眺めはその要素はひとつもない。それでもこれだけ満足のいく展望を提供してくれる。人気がある道理である。
風もそう冷たくないので、ゆっくり腰を下ろして遅い昼食をとった。
下山は滝ノ平尾根とする。ゴンジリ峠から岩茸石を経て長い尾根下りに入る。林道を何度か横断し、白地平など展望が開けるところもあるがこのルートは長い。
尾根が麓の河又地区に没する最後ギリギリまで登山道がつけられている。例えるならしっぽまでアンコがはいったタイヤキである。
運動不足になりがちな冬場にはいいコースなのだが、下部は急坂で路面が硬く、足任せに下るとくじいて怪我でもしそうである。この日も、小さい子どもを連れた家族が何組か、苦労して下山していた。
名栗川が見えてきて、ようやく河又の登山口に下り立つ。いい運動になった。上成木から登るにせよ、軍畑駅から歩くにせよ、都県をまたぐルートは低山でもかなり充実した山行になる。
さわらびの湯に寄っていく。狭い館内でいつもは混み合う日帰り温泉も、冬の日はややゆとりがある。アルカリ泉らしい肌ざわりと香りにホッとする。温泉の外には、十月桜が少し花をつけていた。
バス停まで3分ほど歩き、飯能駅行きのバスで帰る。ほんのわずかではあるが、日足が伸びてきたような気がする。