北陸地方は前々日まで大雪が降り続け、前日は谷川岳ロープウェイも計画運休となった。そして今日土曜日、晴天の予報を信じてその谷川岳に向かう。
前日の天神平の積雪は何と680cm。どんな異次元な世界が繰り広げられているのだろうか。
天神尾根から望む主脈稜線がひときわ白い [拡大 ]
|
そんな谷川岳の登山道に、トレースは果たしてつくのか気になる。トレースがないと一般の登山者は歩けない。前日が事実上登山不可能だったので、トレースがつくとしたら今日、朝早いうちだけだ。
ロープウェイは8時半運行開始だが、あまり早く行くとトレースがない。かと言って家を遅く出発すると高速が渋滞になるので、いつも通り早出して途中のサービスエリアで時間調整する作戦である。
赤城高原SAで時間をつぶしていると、正面に見えている谷川岳や武尊山は、雲が取れて青空のもととなっていた。
水上ICからみなかみの町に入る。真っ白の谷川岳に近づくにつれ、周囲の道路脇の積雪もどんどん厚みが増していく。湯檜曽温泉を過ぎたあたりでは、人間の背丈を超えるほどの雪の壁ができていた。
これほど白ずくめのみなかみ町は2015年以来だ。雪目にならないようにサングラスをして運転する。
9時、谷川岳ロープウェイ土合口駅に着く。駐車場はもうかなり車が入っている。行き交う人を見ると、ほとんどが登山姿で、スキーやボードの人はあまりいない。登山者たちは、トレースがついているのか心配ではないのだろうか。
背中を見ると、スノーシューや輪カンをザックに縛りつけている人が多い。自分でトレースをつける覚悟だろうか。そういう自分も輪カンを持っていくことにする。
6階のチケット売り場はそう混雑してはいなかった。もっと登山者であふれていると思ったが、少し拍子抜け。天神平の積雪表示は480㎝になっていた。昨日から2メートルも少なくなっているのは、どういうことなのか。
それでも、2015年の450cmを超えて今までで一番の積雪量での登山となる。
ロープウェイで上がった天神平は真っ白、無垢の雪面が広がっていた。谷川岳もひときわ白い。猫の2つの丸い目はそれでも黒々としていた。
登山ルートにはすでに、数珠つなぎの登山者の列が頂上に向かっている。どうやらトレースはもう、しっかりついているようだ。あんなに行列ができているのなら太いトレースになっているだろう。
天神峠に上がるリフトはまだ整備中だった。スキーやボーダーの数が少ないのは、そのためかもしれない。
アイゼンとストック2本で、多くの登山者と一緒に出発する。尾根に上がる最初の急坂は多量の雪で、登りづらい。
その後の斜面につけられたトレースも雪が深く、今までとは少し違う歩きにくさがあった。しかしこんな奥深いトレースが、この1時間くらいでついたなんて信じがたい。先行者のバイタリティーに頭が下がる。
尾根の背に乗って快適になってきた。小ピークからの下りの難所は何ともない。ここは雪が少ないとアイゼンを岩角にひっかけやすく、逆に危険となる。
正面に谷川岳の2つのピークを見据え、気分が盛り上がる。熊沢穴の避難小屋は完全に雪に埋まり、その部分が少しへこんでいるだけで建物は見えなかった。
天狗の留まり場への急登となる。ボードを背負った人や、スノーシューの人が多い。逆にスキーを背負っている人をあまり見ない。
冬の谷川岳を始めて歩いてから7年、登山者のスタイルもずいぶん変わった。それよりも、登山者の数が激増したのが印象深く、今日などはこの先のルートがずっとアリの行列のように山頂まで連なっている。おそらくこの1年歩いた山の中で、今日の谷川岳が一番の混雑ぶりだ。北アルプスや八ヶ岳の夏山の比ではない。
もっともここ数週間はなかなか登山日和の天気になってくれなかったので、今日一気に人が集まった感じだ。
天狗の留まり場で休憩。爼倉の真っ白な稜線も目線の位置に近づいてきた。雪が例年になく多いせいか、白さが際立っている。尾瀬・日光方面や赤城、浅間山、そして眼下には水上市街地も白さが目立つ。
四方全開の登りが続く。人の列はつながっているが、その先頭、ゴールはまだ先。だんだんと顎が上がってきた。雪質も意外と水分が多く、足への負担も少なくない。山頂下の肩の小屋や、西黒尾根分岐の標識もなかなか見えない。
最後は休み休みの登りになってしまった。雪が多かったせいもあるが、やはり年々体力が落ちているのを痛感する。もっとも今年はほとんど歩いていないため、例年通りの歩きを期待するほうが虫が良すぎた。
肩で息をしながら肩の小屋に到着。万太郎から仙ノ倉、苗場山方面の上信越の山々の眺めが大きく広がった。やはり白さが際立っている。この雪山模様が見たくて今年も登ってきた。
体力はいっぱいいっぱいだが、登れたことに満足である。トマの耳山頂への緩い登り。完全に疲れてしまい、いつもの倍の時間がかかってしまう。それでも山頂から見渡す白銀の山岳景観。馬蹄形の稜線や茂倉岳も真っ白だ。巻機山、遠く守門、火打なども。
オキの耳へ行く元気が残ってないので、肩の小屋へ下りる。小屋の裏で再び、主脈稜線のパノラマを前に休憩する。1年に1度の贅沢な昼ごはんである。
後から後から登ってくる登山者を見ながら、下山とする。雪が深くでこぼこして歩きにくい。
下山者は、登りのトレースは使わないのが暗黙のマナーになっている。この時間になると、登りほどはっきりしてはいないが、下り用のトレースが何本かできつつある。
初めのうちは若干の急坂なので、ピッケルを使っていく。バランスを崩してお尻で滑っている人もいる。最近は、冬山初心者でも比較的登りやすい山に谷川岳は思われているが、下山はほかの山と変わらず一定の技術が必要である。
急斜面が少ないから大事にはならないものの、今後下手な事故でも起こらないことを祈る。
斜度が緩くなって再びストックに持ち変える。輪カンは使わないことになりそう。
午後の日差しを浴びる谷川岳は、朝の順光の下で見る姿とはまた違い、微妙な陰影を呈して美しい。下りも体力的にいっぱいいっぱいで、登山者に何度も先に行ってもらう。
天神平のゲレンデが見えるところが最後の展望台。谷川岳の雄姿を見納めして急斜面を下る。ここが今日の一番の難路だった。雪が深く、あちこちに登山者のつけた穴ぼこがある。その上これから登っていく人とのすれ違いも厳しく、何度も尻もちをつく。見ると、周りの下山者もみな尻もちをついたり、よろけたりしていた。
天神平に着く。最後は大変だったが、今年も何とか雪山の恩恵にあずかることができて満足だ。北の方はこれからも雪深い時期が続くが、南関東ではそろそろ早春の花を探しながらの山歩きの季節に移っていく。
以前のように毎週歩いているわけではないので、季節の移ろいをあまり肌で感じることは少なくなったのが残念。日々の生活に潤いを増やすために、少しずつでも山を歩く回数を増やしていきたい。