冬の谷川岳は5年前、2年前に続いて3度目となる。
暖冬の今年、各地で雪の少なさは記録的だ。登山口となる天神平スキー場の積雪量は、5年前が450㎝、2年前が310㎝だったが、今年は何と160㎝。
大学生時代にスキーをやっていたが、その頃よく言われていたのが、50年後の日本は雪が積もらなくなりスキーができなくなる、という予測だった。最近になって、これがにわかに現実味を帯びてきた気がする。
積雪が少なくブナがかなり低い位置から見えている(熊沢穴付近) [拡大 ]
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高速の渋滞を避け、朝早く車で出発する。9時ぐらいまでは谷川連峰は雲がかかっている予報なので、赤城のサービスエリアで少し時間をつぶす。
ここから見る谷川岳は確かに雲の中だ。今歩いていたらおそらく暴風、ホワイトアウトだろう。しかしゆっくりめながら、空模様は好転の兆し。最近の天気予報はよく当たる。
水上ICから一般車道で北上する。町中に雪はほとんど残っていない。アメダス計測値ではみなかみの積雪は3㎝で、次の日はゼロとなった。5年前に来た時は身長以上の雪壁が道の両側を占めていて、雪目になりそうだった。
積もり過ぎるのも地元の人は困るだろうが、冬に上越国境沿いに来たらやっぱり雪国の風景を見てみたい。
大穴の交差点で多くの車は右折していき、土合口方面へ行く車は自分だけになった。土合口ロープウェイ下の駐車場で停め、支度してロープウェイ乗り場へ。
時間も遅いのでチケット売り場は行列かと思ったが、意外にも待ち時間はなかった。周囲を見渡すと、何となく人がいつもより少ない。
乗り場へ上がりゴンドラに乗り込む。天神平のスキーゲレンデに出ると、谷川岳はすでに雲から脱し全貌を見せていた。しかし、山肌は純白ではなく黒い斑点模様がちりばめられていた。
もともと絶壁の東面には雪が付きにくいはずなのだが、それでも例年は真っ白になるからこの山の雪の多さがわかる。それが今年はさすがにあばたの姿だ。
アイゼンを履き、ダブルストックで登山口へ向かう。ピッケルと、それに一応輪カンもザックにくくりつけた。他の登山者と列をなして急斜面を登っていく。スキーゲレンデとはロープで仕切られている。
谷川岳の冬コースは、歩き始めて10分後に天神尾根に取りつく。このコースの最大の急登でじっくり行くべきなのだが、後ろに登山者が歩いてきているので、焦ってつい早足になり息が切れてしまった。
尾根に上がって一息つく。谷川岳の2つの耳が大きく見えてきた。空はまだ白っぽい青空ではあるが、ここからは天空の雪道。
雪の下はブナ林となっており、前回・前々回と比べて幹の出ている部分がずっと多い。おかげで、ブナの冬芽を目の前でよく見ることができる。やはり積雪100cmと450㎝とでは、登山道の見える景色も随分違う。
熊沢穴の避難小屋も、ほとんどの部分が雪から出ている。450㎝のときは完全に雪中に没し、雪を掘って入口を探している人がいた。
熊沢穴からは一本調子の登りとなる。どんどん高度を稼いでいくと、ようやく目の前は白一色となる。東側のチシマザサの斜面を埋め尽くす雪、左のマナイタグラの荒々しい稜線、この先の景色は例年通りになった。
雪質は少し水っぽく、パウダースノーといった感じではない。蹴り上げる足も疲れがたまりやすい気がする。
それでも目の前に展開するパノラマの眺めは、他の山域ではお目にかかれないダイナミックさがある。赤城、浅間山や八ヶ岳、苗場山など有名どころも多く見られる。しかしやはり目の前の谷川主脈のうねる山並みが、自分は好きだ。夏のチシマザサの山肌もいいのだが、冬の白い姿となるとディテールな部分までがあらわになり、ドキドキするくらいである。
風が強くなってきた。突然の強風に備え、とりあえずストックをピッケルに持ち替えていく。
それにしてもこの雪山で、若い人はチェーンスパイクで登っている。もっとも、このくらいの雪の柔らかさであればチェーンスパイクぐらいがちょうどいいかもしれない。しかし山頂について、稜線が凍っていてもそのままチェーンスパイクなのだろうか。
肩の小屋を経てトマノ耳に登頂。相変わらずすごい眺望。隣のオキノ耳、一ノ倉岳と茂倉岳、朝日岳、清水峠方面や巻機山にかけて白い稜線が続いている。マナイタグラから万太郎山にかけての主脈も真っ白。下のほうはさすがに黒い部分が多いが、そのコントラストが際立っているのも雪の少ない今年ならではの眺めかもしれない。
オキノ耳まで行くと凍っている部分が多くなり、前回たくさんあったシュカブラ(風による雪上にできた紋様)も、このあたりでようやく目にすることができた。
オキノ耳から先もトレースがあったので、少し行ってみる。鳥居のある奥の院まで来ると、「ノゾキ」の絶壁がぐっと近くなり、さらに高度感のある眺めが得られた。この先もトレースがついているが、大きく下ることになるためここで引き返す。
肩の小屋に戻って休憩し、下山とする。雪質の違いは下りでより感じるもので、サラサラの雪に比べ足へのインパクトが大きい。そのせいか、熊沢穴までの下りは意外なほど長く感じた。
尾根上のブナ林を見ると、根元部分の積雪がずいぶん少なくなっており、切明け状態になっていた。木はこんな季節でも一定の温度を保ち、周囲の雪を溶かしている。
振り返ると午後の斜光を受けた谷川岳が輝いている。光と影のコントラストが美しい。雪の谷川岳は今の時間が一番きれいに見える。
登山口の天神平に戻ったのは15時を過ぎた。スキー客やボーダーの数が、2年前や5年前に比べてかなり少ない気がする。特に、南側の高倉山方面のゲレンデはガラガラだ。
雪が少ないからなのか、それとも新型肺炎の影響なのだろうか。例年大挙押し寄せる外国(特に中国)からの来訪客が、今年は激減しているとも考えられる。
さらに帰りの高速。いつもなら夏の時期以上の激しい渋滞になるのだが、電光掲示板には「渋滞〇km」の表示は全くなし。練馬までスイスイとストレスなく運転できてしまった。これは外国人というよりもむしろ、国内の車利用の行楽客数が減っていることを意味している。
渋滞のないのはうれしい反面、雪の少なさよりも人の少なさが気になった今回の谷川岳だった。