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土日を2回含んで9日間の休みが取れたので、今夏は少し長めの北アルプス山行を計画した。プランは3つあたためていた。 ①祖母谷温泉から白馬岳、朝日岳、栂海新道(5泊) ②爺ケ岳から鹿島槍、その後北方へ縦走(6泊~7泊) ③笠ケ岳から雲の平・高天原回遊、薬師岳、 出来れば立山まで縦走(5泊~7泊) テント山行として面白いのは②だが、難所があり重い荷物では少々不安だ。①も魅力あるコースだが半分が避難小屋泊まりとなり、純粋なテント山行と言えなくなる。白馬岳付近はかなりの混雑も予想される。 ③は4年前の雲の平山行と重なる。しかし難路が比較的少なく、コース伸縮がある程度自在である。それに何といっても高天原の温泉に入れるのがポイントだ。運良く夜行高速バスが予約できたのでこのプランをとることにした。 今まで一番長いテント山行は3泊。これを軽く越える長い縦走となる。北アルプスは山小屋が充実しているが、テントで「生活」する以上全て自炊で通したい。
新穂高温泉には6時着。やや睡眠不足気味だが、体調はまあまあ。夜行バスアプローチで、一日でに2800m地点に上がる行程で体調の悪化が心配だったが、これならどうにか大丈夫だろう。 朝食と準備運動を済ませ、2年ぶりの林道を歩き出す。上部はモヤってはいるが、すでに笠ケ岳方面の稜線が覗いていて、北アルプスに入ったことの喜びを感じる。 笠新道の入り口にはわさび平から引かれた水場があるとガイドに書かれていたのに、パイプから水は出ていなかった。 これから8時間近い登り。水がなくては始まらないので20分ほど先のわさび平まで汲みに行く。 笠新道に入ると最初の5分ほどはなだらかだがすぐに急登となる。何しろ今日はテント・シュラフに6日分の食糧を担いでいる。1時間ほどで腰にだるさを感じてくる。 北アルプス一の急登もペースをしっかり守れば大丈夫と思っていたが、やはりそんな甘いものではない。1時間ほどで登っては休み、を繰り返すようになる。
杓子平でハクサンイチゲ・シナノキンバイなどのお花畑に出会う。クロユリも見られる。荷物の重さに耐えかねてザックを下ろし、写真撮影をする回数が増える。 杓子平から先の急登もさらにきつい。そして背後に見えるはずの槍ケ岳や穂高は雲の中。随所にある指導標は標高が書かれており励みにはなるが、「ここからは槍や穂高の眺めが一望できます」というコメントはむなしい。 それでも、なんとか笠新道分岐に到達、稜線に乗る。 槍ヶ岳の方面から雷鳴がとどろく。こちらの稜線まで雷雲が来ないことを祈りつつ、ガスの中歩を進める。晴れて展望があれば素晴らしい稜線歩きになるはずだ。 抜戸岩(ぬけどいわ)を過ぎ、さらに2,3の小ピークを越えていく。大きな山体の笠ケ岳が眼前となる。 最後のやせ尾根の急登。笠新道を登り切った疲労が蓄積してつらい。頂上直下、もう一息のところでついにで雨に降られる。前後の登山者と歩調をあわせるように雨具を着る。 ハイマツの広々した緩斜面となり、すぐに笠ケ岳テント場。今まで幕営した中では一番標高の高い所となるテント場は、残雪を利用した水場が近くにあっていい。 幕営申し込みとビール調達のためこの先の小屋まで上がろうとする。すぐ上に小屋があるはずなのだがガスで何も見えない。石の敷き詰められた斜面を登っていくのはかなり骨が折れる。 この日の夕方、大天井岳で落雷事故があったとラジオのニュースで知る。昼間の雷鳴がそうだったのか。自分もその時はすでに森林限界上の稜線に達していたので同じ位の危険度があったはずだ。 こちらも夜半になって恐ろしいほどの雷雨となった。雷のほうは最初のうち、ピカピカと光るだけで音は届いてこない。しかしそれがかえって不気味だ。ピカピカはそれこそ15秒に1回くらい、閉じた瞼を透かして目に入ってくる。 そのうち近くで落雷の音が聞こえるようになる。耳栓をしアイマスクをつけたいが、それだと状況がわからなくなり不安な気もする。いつでも避難できるように、テントの中で雨具を上下着ていることにする。 金属のポールで組まれているテントは危ないかもしれない。しかしテント場に雷が落ちたなんて話は聞いたことがない。変な安心感をもち雷雲が過ぎるのをひたすら待つ。 雷雲が去り、やがてあたりは静かになった。しかし昼間の疲れがたまっているにもかかわらず、興奮してなかなか眠りにつけない。 |