~名峰を道連れにもうひとつのいで湯へ~
タイトル

にゅうとうさんたきのうえおんせん
2007年10月6日(土)晴れ

6:20国見温泉-7:00横長根7:05-7:45男岳分岐-8:20横岳8:40-8:50焼森-9:55湯森山10:05-11:25笊森山11:50-12:50乳頭山13:40-14:55白沼15:00-15:55登山口16:00-16:05滝ノ上温泉(滝峡荘 泊)
歩行時間:7時間45分

マップ
1 2 3 4 Home


●乳頭山から山奥の秘湯へ (乳頭山~滝ノ上温泉)
笊森山-乳頭山間の鞍部にある湿原と池塘
笊森山-乳頭山間の鞍部にある湿原と池塘

さて、いよいよ縦走最後のピークを目指す。千沼ヶ原には寄らず直接乳頭山に通じる道を行く。
こちら側、つまり岩手県側から見る乳頭山は左右均等な、端正な山容である。一方秋田県側からみると、頂上部が乳首のように突き出ているのが特徴的だ。
乳頭山という呼び名は秋田県側のものであって、岩手県側では烏帽子岳と呼ばれている。

滝ノ上温泉への道を分け、ガラガラした岩場を上がり乳頭山頂上(1477m)に立つ。東側は断崖絶壁で、座る位置に注意が必要な所だ。
北側は田代平の湿原を挟んで裏岩手縦走路がたおやかに延びている。大白森の山頂部の湿原が黄金色に紅葉し、山が輪切りにされたように見えて面白い。

田代平の左下、乳頭温泉方面まで見下ろせる。芝地が見えるがたぶん、昨日の登り出し地点の乳頭スキー場(休暇村)だろう。
休暇村からここ乳頭山までは最短で3時間ほどで来れるところを、わざわざ反対側の国見温泉に下りて2日がかりで登ってきた。登山とは経済学的に見れば、究極のムダ作業と言えるだろう。結果を早く求めることなく、そこに至るまでの過程を大事にし楽しむ。今回は急がば回れの見本のようなコースである。


烏帽子形の乳頭山

田代平、遠く森吉山

裏岩手縦走路を眺める

笊森山

また、この山域は笊森山や乳頭山を境に植生が少し変わるようで、これまでの広葉樹一辺倒から、田代平方面はアオモリトドマツの針葉樹林が目立つ。
来し方を眺めると笊森山が大きく立派だ。乳頭山より笊森山のほうが少し標高が高いのがよくわかる。
岩手山の稜線を見れば、明日登る予定の三ツ石山が、頂上付近を真っ赤にして待っている。水が不足気味なのだが、これから下る道も長い。お湯を沸かしてラーメンを作った。

さて下山だ。先の分岐まで戻り、依然として展望優れた稜線を行く。ケルンのある小乳頭までは歩き易い道であるが、その先は樹林帯でぬかるみやデコボコが多くなる。
湿地帯に入り展望が開ける。白沼かと思ったが、指導標によるとまだ0.6km先のようだ。ガレ場の急坂に入るところは道がわかりづらくなって少々手ごわい。テープに従って慎重に足を運ぶ。
なおここはマムシ坂といってマムシが多いところらしいが、運良く顔をあわせることはなかった。

モリアオガエルの住むと言われる白沼は神秘的な雰囲気。ブナ林を経てさらに長い下り。次第に、何とも言えない乾いた機械音が聞こえてくる。何か工事だろうか。
樹林帯から煙が上がっている。滝ノ上地区には日本でも最大級の地熱発電所がある。音はここから発せられているものだった。
滝ノ上登山口に下りつく。みやま荘の横を通って車道に出た。時刻はもう4時前。思った以上のロングコースであり、早発ちしていて良かったと思う。国見温泉でのんびり朝風呂にでも入っていたら、日のあるうちに下れなかったかもしれない。

少し大きめの旅館、滝観荘は右に見える。左に折れすぐ先の橋を渡る。今宵の宿、滝峡荘の裏山には何本もの湯煙が立ち上っていた。


白沼

滝峡荘

もうもうと立つ湯煙

滝峡荘は、以前国民宿舎だったものを現在のご主人が買い上げた、素朴な木造の自炊宿である。
何と言っても白濁の温泉が素晴しい。なめらかで上品な香りだ。他の宿に泊まる人もわざわざここに日帰り入浴しに来るほどだ。
宿の部屋は5つほど。自炊用の調理器具が揃っており、登山でなく食材持込でのんびり温泉に浸かりに来る客も多いと言う。車で来るならそれもいいのだが、バス便はなく、公共交通機関を使っての登山者としては、今回の行程のように下山後宿泊、かつ翌日登山というパターンで利用する以外にない。もちろんタクシーを使えばいいのだが。

でも、それほどまでしても入ってよかったと思う温泉である。先週の大雨で源泉のある山付近が崩れ、3本あるうちのまだ1本の源泉口しか通っていなかった(それでも湯量は多かった)が、じきに3本とも復活するとのことだ。

夜遅く、ご主人さんとお風呂がいっしょになり、話す機会を得た。
ここ一帯は国立公園敷地内のために、宿の看板を道に掲げることが出来ない。そのために、ここに来るまで道に迷う客が多いとのこと。たしかに自分も、登山口に下りたときにどっちの方向に進んだらいいか、よくわからなかった(奥の道に入ったのは山勘)。
以前、車で来た1人の女性客が、真っ暗の車道で宿がどこにあるかわからなくなって、近くの駐車場で夜を明かしたということがあったそうである。

付近はブナ林で、紅葉時期はけっこう混み合うようだ。最盛期には女性客が多くなることに配慮して、普段は大きいほうの風呂を男性用としているのを、この時期だけは女性用に変えるそうである。
この10月2週目あたりでは、滝ノ上地区の紅葉はまだまだ。あと1週間から10日もすれば静かな滝峡荘も混み合う事だろう。
滝峡荘はもっと多くの人に知られてほしいものだが、あまり有名になってもらいたくもないところである。
ご主人さんが風呂の窓から空を見上げる。満面の星を見て明日もいい天気ですよ、と言ってくれた。



前のページ Home