奥多摩150山で未踏の1000m峰も数えるほどになった。八丁山にしようかと思ったが、簡単ではないルートのようで、今回は別の山にする。
倉掛尾根で三頭山に登るルートは昔の道で、今は舗装された林道が通っているためほとんど歩かれていないようだ。倉掛山も忘れられた存在である。
三頭山は昨年登ってなかったので、このルートを使って久しぶりに登ることにした。
標高800mを越える、倉掛集落最上段の民家。この民家の裏手に登山道が続いている
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自宅を早朝出発し、武蔵五日市駅から6時台の藤倉行きバスに乗る。奥多摩の山もすっかり新緑になった。鮮やかな広葉樹の緑が山の斜面に広がると、杉や檜林も不思議と色合いが生き生きしたように見える。
藤倉で下車。一緒に降りた女性二人連れは陣馬尾根の方に登っていった。倉掛尾根へはまだ少し車道を歩く。標識は倉掛尾根方面を全く示しておらず、少し心細い。
進行方向、山の斜面の中腹に民家が貼り付いている。まずはあそこ目指して登っていくようだ。落合橋を渡ったところに「月夜見入口」というデマンドバスの停留所があった。その上にジグザグについた山道の登りにかかる。急坂に息を弾ませ高度を上げ、振り返るとまばゆいばかりの朝の陽が谷間を照らし始めていた。
民家の横から山の神を見て登山道に入る。炭焼き跡や石垣が見られ、生活の匂いがする。昔の(といっても15年前くらいだが)奥多摩でよく見られた山上集落がここにはまだ残っている。
ジグザグ登りは始めのうちつらいが、じき穏やかになる。山腹を回り込んできた舗装林道を横断し、やがてその林道も尾根の背に上がってきたので、いったん林道歩きとなった。きのこセンター越しに眺めが広がり、緑鮮やかな御前山がよく見える。デマンドバスはここ白岩まで来ているようだ。
林道を歩いていくと、民家の前に犬が寝ていた。登山道はその家の裏手から続いている。そっと遠巻き気味に横道に入ろうとすると、その犬が後をついてきたが、登山道までは来なかった。
またすぐに林道に戻る。ショートカットの道を探しているうち、どうも変なところへ入ってしまったようで、いつの間にか尾根を外れ、水道タンクのあるところで行き詰まった。
標識は全くないわけではなく、たまに倉掛山や藤倉方面を指し示しているものに出会うのだが、標識の現れ方が中途半端だと、逆に惑わされてしまうものである。
しばらく林道を歩くと、ようやく倉掛山への取り付き口を見つける。そこから倉掛山山頂までは実にあっけなく、ほんの5分足らずだった。
北側は杉林、南側は広葉樹の山頂で、いったん木が刈られて展望が得られたようだが、その後樹林が伸びて、今のような葉の茂った時期はほとんど眺めはない。しかし久しぶりに登った奥多摩1000m以上の未踏峰でもあるので、腰を下ろしてゆっくりする。
倉掛山を降りた後は、林道に戻らず登山道を行く。土の道はいったん途切れるがすぐに復帰し、高度を上げるにつれミズナラやシラカバなどの広葉樹林の気持ちよい道になる。
車やバイクのエンジンの音が大きくなってきた。奥多摩周遊道路が近くなってきたのだろう。そのまま尾根伝いに進み、アンテナ施設を見て回り込むと林道に下り立ち、すぐに奥多摩周遊道路と合流した。ここには風張(かざっぱり)峠駐車場がある。周遊道路からは東側の眺めが広がるが、何しろ車やバイクがスピードを緩めずに何台も通っていくので、落ち着いて眺めを楽しめない。
駐車場の裏手に再び山道が通じており、ひと登りしたところが風張峠だった。この場所は御前山からの縦走などで何度か通過している。
三頭山へは、都民の森のエリアの北の端を歩くことになり、道は格段によくなった。鞘口峠までの登山道は、きれいな新緑や杉の植林をかすめたり、また北側の山腹をへつったりしてなかなか変化がある。
途中で雲取山が見られる切り開きがあった。展望地図を見ると、鷹ノ巣山からの石尾根縦走路の山がずっと並んでいるのだが、七ツ石山が雲取山の左に位置しているのは不思議な気がする。普通なら、石尾根の山の並び順として、七ツ石山の次(左)に雲取山があるのが当たり前と思ってしまう。しかし地図をよく見てみたら、たしかにこの風張峠~鞘口峠間だけ、両山の位置関係が逆になって見えるとわかった。18年奥多摩の山を歩いていて、これはなかなか貴重な発見である。
三頭山方面からけっこう登山者がやってくるが、この方向に歩くのは多くは御前山へ縦走するのだろう。自分の場合、奥多摩三山(大岳山、御前山、三頭山)はいつもひとつずつ登るだけで、複数の山を縦走したことは一度もない。
それぞれの山はボリュームがあり、2つの山を一度に登るのは大変のように思っていた。しかし、どうも世間の解釈はそんなこともないようである。
ひとしきりの下りを経て、登山者で賑わう鞘口峠に着く。ここから三頭山までは、標高差300m以上の登り返しとなる。高度を上げるにつれ、ブナやミズナラの大木が多くなる。標高1300m、1400mとなっても新緑のラインは留まることはなく、どこを見ても鮮やかなグリーンである。
三頭山山頂が近づくころ、ようやく新緑も淡い感じになり、空が明るくなった。東峰への道を分け、奥多摩湖からの道を合わせ階段道をひと登りして、三頭山(中央峰)山頂に着く。通算19回目の登頂だ。
新緑は山頂まで達していた。5月に三頭山に登るのはこれで9回目だが、山頂が新緑に包まれるのはだいたい5月15日ごろである。今年はだいたい1週間近く早いだろうか。休憩する人も相変わらず多い。もう12時を回ってしまったが富士山も見えていた。
下山は鶴峠とする。今日は藤倉バス停からほぼ真西に、東京のへりを渡り歩くことになった。鶴峠から乗るバスにはまだ時間的余裕があるので、奥多摩湖方面に下って北面巻き道を歩くことにした。
北面巻き道付近は、三頭山の中でも原生林が残されている数少ないエリアと言われている。登山道としても危険なところはない。巨木が多く緑に染まってしまいそうな道である。ルイヨウボタンやシロバナエンレイソウが咲いていた。
標高を上げも下げもせず、ひたすら長い。50分ほどで鶴峠のコースに合流した。ここも新緑たけなわ。通常の道ではなく稜線伝いに歩いて余沢分岐、そこから15分ほどで尾根を外れる。
鶴峠に下りてバスを待つ。上野原行きが先に来たならそのまま帰ってしまってもよかったが、小菅の湯行きが先に来たので、立ち寄り入浴していくことにした。
小菅の湯には今、村営バスだけでなく奥多摩駅行き、上野原駅行き、大月駅行きの3系統のバス路線がある。便利になった気もするが、今の時間に入浴すると帰りのバス便が早すぎるか遅すぎるかになってしまう。村営バスしかなかった頃のほうが、ゆっくりお風呂に入れたように思う。この日は入浴時間が50分しかなく、少し忙しかった。
小菅の湯から1時間以上バスに揺られ、上野原駅に着く。