自炊小屋で軽く食事を取り、雲取山荘を6時に出発する。あたりはまだ闇の中だが、東の地平線が赤く染まり始めている。頭上で風がビュービュー舞っている。
雲取山から望むご来光
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北斜面の急登を10分ほど歩いた頃、右足のアイゼンが外れてしまった。と、ほぼ同時にヘッドランプが切れた。電池切れである。
アイゼンはベルトを本体につなぎ止める金具が伸びてしまったのだった。以前も同じことがあった。さらに昨年の北アルプスでテントのポールが折れて苦労して以来、小さなペンチを必ず携行するようにしている。
しかしこんな場所でザックからペンチを出して応急処置しようとすると、体が凍えてしまいそうだ。登山道の凍結の程度はそれほどでもなく、登り道でもあるので、そのまま片足アイゼンで登り続けることにした。周囲が明るくなり始め、ヘッドランプがないとあるけないほどではなかったことも幸いした。
雲取山山頂に着く。ちょうどご来光の時間で、グッドタイミングだった。山荘で同じ部屋だった人もすでに上がってきていた。石尾根の少し左(北)側から真っ赤な太陽が顔を出す。
日の短い1月なら石尾根の真上に登ってくるのだが、1ヶ月もたつとずいぶん登る場所が違ってくる。避難小屋につけられた寒暖計を見たら氷点下11度だった。ただ、もっと気温は低いと思った。
昨晩の避難小屋の宿泊者は5名と、休日にしては空いていたようだ。5名くらいだと夜はけっこう寒かったのではないか。ちなみに山荘は80名の宿泊だった。
アイゼンを着け直し、奥多摩駅に向けて出発する。体力的にもつかどうかわからないがとりあえず奥多摩駅を目指す。富士山の東斜面には雲が湧き立ち、奥秩父の山々にも雲が多い。関東地方以外は荒れた天気のようで、南アルプスは見えなかった。
奥多摩小屋を過ぎ、ブナ坂から七ツ石山に登る。水分の多い雪の道は歩きにくく、思った以上に体力を要する。ペースを落しつつ七ツ石山山頂へ。雲取山や奥秩父の眺めがいい。富士山は何故か、日が当たらずに輝きが鈍い。
ペットボトルの水を飲もうとしたら、飲み口あたりが完全に凍っていて飲めなかった。この気温の低さは半端でない。
以後はペットボトルをジャンパーの胸ポケットに入れて歩くことにした。冬の山歩きは、おにぎりなども体に密着できる場所に入れておくと、意外と凍りにくい。ザックの中はダメである。冬山では、人間の体が一番の保温機だ。
なるべく体力をセーブして縦走を果たしたいのだが、千本ツツジは今回も巻き道ではなく稜線側に足が向かってしまった。南関東、甲信の山並みが一望できるいい場所だ。
高丸山や日陰名栗ノ峰を正面に、足跡の少ない雪面を下る。両峰は登らずに巻き道に戻る。しかしこの巻き道は(いつもながら)思った以上に時間がかかり、疲れる。背中が痛くなってきて、長い距離はちょっと難しいかな、と考えるようになる。
鷹ノ巣避難小屋のベンチでひとまず休憩。ペットボトルの水は溶けて飲めるようになっていた。パンとコーヒーで小腹を満たすと、少し元気が戻ってきた。
鷹ノ巣山には登っておこう。稜線に雪はそれなりについており、雪山の雰囲気がある。40分ほどの登りで鷹ノ巣山山頂。三頭山、御前山、大岳山など奥多摩の山が近くになった。時折り雲がお日様を隠し、山頂は極寒の地となる。
ブナ、ミズナラなどが多い城山付近。道はここから急降下となる
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城山付近 |
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寒かった山頂 |
登山道の続く三ノ木戸山北面は雪道だが、反対の南面には雪がない
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南面は雪なし |
奥多摩駅へ車道を下る。杉林がオレンジ色を帯び、花粉の季節も近い
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奥多摩駅へ |
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雪の少ない東斜面を下る。不思議だが、歩くにつれにわかに体に元気が湧いてきた。
水根山からブナ、ミズナラの林を歩き城山の先で急降下。南側の急斜面は半分以上土の道になり、アイゼンをもてあます。しかし凍結箇所が多いので外すわけには行かない。明るい尾根から高度を落し将門馬場の鞍部。立ち止まって息を整える。六ツ石山への登り返しは、北面のため雪がそれなりに深い。石尾根縦走の最後の頑張りどころである。
指導標のある分岐で右に折れ、六ツ石山の頂に立つ。人はいない。大休止して味噌煮込みうどんを作る。水を少しカップにあけ、うっかり数十秒ほどそのままにしていたら凍っていたのにはびっくりした。
暖かいものを食べたにもかかわらず、片付ける間に体が冷えてしまい、早く歩かねば凍えてしまいそうだ。稜線に戻って縦走を続ける。寒々とした片側が植林の稜線を抜け、雪のまだらについた急斜面を下っていくと、先ほどまでのの凍えるような寒さが嘘みたいに、気温が上がってきた。
右手の御前山が次第に仰ぎ見るような位置に。三ノ木戸山が近づくと南斜面はほとんど雪が消える。三ノ木戸山は北面を巻くので再び雪道となる。凍結しているといやなので、アイゼンはつけたままだ。冬の石尾根縦走は、アイゼンを外すタイミングが難しい。ヤセ尾根ではないので、やはり三ノ木戸山の手前で外すのが石尾根を歩くときのマナーかもしれないと思う。
縦走もいよいよ仕上げに入る。薄暗い植林帯を抜けて、ここでアイゼンを外した。落ち葉のラッセル道を過ぎると雰囲気はもう里山である。大岳山が高い位置にそびえている。
羽黒神社の奥社を見て、左手斜面のはるか下に奥多摩のセメント工場を見下ろす。高度は1000mを少し切ったくらいであり、まだまだ下りは続く。
舗装の林道に下り立ったところが石尾根登山口。その下で再び未舗装の小道に入ると、しばらくで羽黒神社の境内に出た。
久しぶりに、石尾根縦走を果たすことが出来た充実感に満たされる。氷川地区の里道にはロウバイがよく咲いていたが、梅は蕾さえも固い状態。春はまだ少し遠いようである。
奥多摩駅近くの三河屋で温泉に入り、2日間の登山の締めとする。