奥多摩で12月に50cmも雪が積もるのは久しぶりだ。最高峰の雲取山を目指す。
冬はいつも雲取山荘に泊まるのだが、今回は冬用シュラフを担いで避難小屋泊とする。最近は体がなまっていて体力的に不安な面もあるので、小袖乗越まで車で上がって登りの消耗の軽減に努めた。
シュラフは氷点下20度くらいまで問題ないものなので、震えながら寝るようなことはないだろう。普段使っている夏用に比べて、大きさも重さも2倍以上あるのだが、雪山では雪で水を作れるので水を何キロも担ぐ必要がない分、相殺される。
小雲取山の肩から、雲取山山頂を目指す [拡大]
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国道を折れ、小袖乗越まで舗装林道を上がる。前日冬用タイヤに代えておいたが、凍結はそれほどでもなくノーマルタイヤでも大丈夫そう。
小袖登山口の駐車場は、7時過ぎの時点ですでにほぼ満車状態だった。敷地の奥の方がロープで仕切られていて、以前に比べて半分の広さしか駐車できないようになっている。おまけに、駐車できる場所にも「売地」の看板が立っていた。
この駐車場は元々私有地であり、登山者が勝手に使っているか、あるいは使用を黙認されているのだ。もしこの駐車場が使えなくなったら、登山口まで路上駐車の長い列ができてしまうだろう。
支度をして歩き出す。水を背負っていないと、心なしか軽く感じる。登山口からの登りは凍結していたがアイゼンはつけずに行く。しばらくはまだらに雪が残る道を登る。遠望する石尾根の稜線は真っ白だ。時々下ってくる人とすれ違いながら高度を上げ、水場を過ぎたところに小休止できる平坦地があり、立ち木に標高1150mの標識がかかっていた。
思ったほど寒さは感じないのは、風がほとんどないからかもしれない。あまり張り切り過ぎてオーバーペースになるのが恐いので、努めてゆっくりめに歩く。前を歩く人との距離が縮まらないようにする。
堂所から先は雪道となる。道が折り返す場所で富士山を望み、樹林帯の急登から再び片倉川側に出ると積雪は増えた。七ツ石分岐から七ツ石尾根を回り込んでいく。
木の桟橋を渡って緩やかに高度を上げていくとさらに積雪量が増す。日差しがいっぱいの道は冬木立の林の向こうに富士山、大菩薩嶺、奥秩父山塊と視界がどんどん開ける。そして南アルプスの白いラインも見えてきた。
ブナ坂で石尾根縦走路に合流する。土の出ている場所はまったくなく、一面の銀世界だった。山小屋の人がつけてくれたと思われるトレースがあって歩きやすい。荷物は重いが風がなくどんどん歩いていける。
前後を行く登山者も、ザックがいつもより一回り大きい。かと言って、宿泊装備を背負っている人はあまりいないようである。この時期は、小屋が混雑するよりもむしろ、人が少なくて室内が寒くなるほうを避けたい。
ヘリポートは積雪50cmほどの大雪原になっていた。澄み渡る青空の下、右手に小雲取山と雲取山の2つのピークが形よく並んでいる。奥多摩小屋の前のテント設営地には、すでに数張り張られている。
主稜線のヨモギの頭には登らずに巻き道に入る。まだトレースが踏み固まってなく、やや歩きにくい。ヨモギの頭からの主稜線を合わせるあたりで植生は針葉樹林一色となり、気温も一段下がる。疲労気味になってきたころの小雲取山への急登はかなり堪えた。新雪は目に眩しいが、意外と水分の多い雪で重く、その影響も足にきている。
休み休み高度を上げ、小雲取山の肩へ。小雲取山へは踏み跡が何本か、雪上についていた。雲取山頂上の避難小屋が、いつもより遠い位置にあるように感じる。いつもならここから20分くらいの道を一気に歩ききってしまうのだが今日はそうもいかない。ちょっとの登りでも足が止まる。
最後はこらえて、真っ白な雲取山頂上へ。振り返り見る展望が疲れを忘れさせてくれる。いや、今日は少し疲れのほうが勝っているかも。避難小屋に入って靴を脱ぐ。アイゼンを全く使わなかったのに気がついた。
汗のにじんだ下着を取り替え、シュラフに入る。薪ストーブなどの暖房器具などはない小屋であり、頼りになるのは持参のカイロとコンロ、シュラフの暖かさくらいである。
太陽のさんさんと輝く昼間で外の気温は氷点下5度だった。小屋の中はおそらく0度前後であろう。初めのうちは手足の指先が冷たかったが、スープなどを飲んでいるうちに自然と暖かさが体から湧き出てきた。不思議なもので、人間の体はそれ自体が発熱機のようなものだということを、こういう寒いところにきて改めて実感する。
雪を溶かして水を作るが、コッヘルが小さいのでまとまった量を作るのに時間がかかる。小屋に到着してから夕食まで、水作りばっかりしていた気がする。
日が傾くにつれ宿泊者も増え、6~7人になる。もう少し来てくれると部屋も十分暖かくなるが、これだけいれば寒くて凍える夜にはならずに済みそうだ。
4時半過ぎ、南アルプスの稜線に日が落ちる。10分ほどして小屋に戻ると、もう中は真っ暗だった。食事をして横になる。まだ6時前だが、他にやることがない。ヘッドランプの電池ももったいないため、寝ることにする。