今年もあと2ヶ月を残すのみとなった。紅葉の山巡りははそろそろ終盤戦。北関東や上信越の山巡りもひと段落し、奥多摩に戻ってきた。
平日に休みを取ったはいいが、利用予定の峰谷行きのバス便が、平日だと早い時間になってしまい、都心からの早朝発では間に合わない。前夜の車中泊なども考えたが、今回は睡眠を十分に取りたいため、立川のカプセルで一泊してから朝早い青梅線で行くことにした。
カラマツ黄葉の石尾根から、連なる山並みと富士山の眺め
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奥多摩駅を6時15分発の峰谷行きバス。乗客は終点まで自分ひとりだった。平日は氷川の営業所にあるバスを山間地に運んで、地元の通勤・通学客を奥多摩駅に送るために、この時間のバスがあるのだろう。
峰谷からひとり歩き出す。日の出の時間は過ぎているが、谷間の山村は日が差し込まずうすら寒い。里道を上がり、標高800mの奥集落まで上がるとようやく太陽の恩恵。青空の中の急登を前に、一枚脱いで登山口を出発する。
浅間神社の雑木林はまだ緑。枝から覗く石尾根の稜線は茶色でもう冬支度をしている。杉、檜の急坂をじっくり登る。この先、広葉樹の森が頭上に見えてくる。どんなカラーで迎えてくれるのか期待したが、まだ緑色のほうが優勢のようだ。2001年10月下旬のときの浅間尾根の紅葉は下部ですでに素晴らしく、植林帯の向こうにオレンジ色のカーテンがあって、その中に飛び込む気分だった。
緑まだ濃い樹林帯も、少し高度を上げるとだんだんと赤、黄の色づきがよくなってきた。枯れ笹が現れ、道が傾斜をおびてくると、ブナやミズナラ、カエデの紅葉と青空とのコントラストがいっそう鮮やかになる。ただこのあたりは高木が多く、紅葉を見上げ続けていると首が痛くなってくる。
錦繍の道がひと段落し、鷹ノ巣山直下の水場に着く。水の出はよかった。鷹ノ巣避難小屋に上がる手前で、木の間から富士山を見る。雪はこの時期にしては多く、見映えがする。
鷹ノ巣避難小屋前のカエデは真っ赤だった。やはり11年前のときよりも紅葉は遅れている。今日は鷹ノ巣山への登頂はカットして隣りの日陰名栗ノ峰から登ることにする。
石尾根に入るとカラマツの黄葉もきれいだ。今年6月末に歩いたときにはマルバダケブキの葉で埋め尽くされていた尾根道も、今はほとんどのっぺらぼう状態だ。
カヤトの原が伸びやかな日陰名栗ノ峰の山頂手前に着く。富士山がひときわ美しい。そして東西に幾重にも連なる山並みも。ここからは奥多摩湖も少しだけ見ることができる。
高丸山は登らず巻き道に入ると、カエデなどの紅葉がまだ残っていた。千本ツツジ手前で再び稜線に戻る。尾根上はカラマツの色づきはいいが、広葉樹はほとんど落葉していた。
三頭山や大菩薩嶺を中心として、南関東の山々が無数の尾根筋を刻んでいる。七ツ石山に登ると、カラマツに彩られた石尾根と雲取山、飛竜山が眺められる。
遠く南アルプスは赤石、荒川岳、間ノ岳、北岳の山頂部がわずかに白くなっている。ここ数年、富士山よりもこれら南アルプスの高峰のほうが先に白くなる年が続いていたが、今年は標高の順番のようだ。
ブナ坂に下りると、左に鴨沢からの登山道、右に唐松谷林道を合わせるが、唐松谷林道のほうは通行止めになっていた。桟橋架け替え工事のためで、翌週には通行可になるとのことである。
そういえば雲取山を取り巻く他の登山道は、ここ数年で通行禁止の道が急に増えた。後山林道はかなり前から車の乗り入れが禁止、大ダワ林道は崩落箇所で死亡事故が発生して以来、整備されないまま通行禁止が2年間続いている。また、酉谷山への小川谷林道は東日本大震災の影響で通行止め。他には、三条ダルミから雲取山荘に通じる巻き道も、歩けないようになっている。
いずれも通行禁止になってからある程度時間が経っている。なぜ整備しないのだろうか。不景気のあおりを受けて、登山道整備に回るお金がないのか。あるいは安全な登山道に整備費用をあえて集中させているようにも思える。すなわち、登山人口が増えればそれだけ事故頻度も多くなるから、危険を伴う道は廃道にして、登山コースを絞り込む傾向があるのかもしれない。
平日にもかかわらず、下山してくる登山者が多い。奥多摩小屋のテント場にもすでに数張、張られていた。水場に下りて水を2.5リットル汲む。ここから山頂まではその分荷物が重くなってしまうがしょうがない。
ヨモギの頭への急登、ペースがガクッと落ちる。2.5kgの重量プラスは半端でないのだ。
それでも背後の広い展望に励まされ小雲取山の肩、そして雲取山山頂へたどり着く。距離は長かったが、朝早い分、早めに着くことができた。富士山はすでに逆光気味なものの、周囲の展望は相変わらず素晴らしい。奥多摩三山の向こうには都心のビル群や、埼玉の市街地も広く見下ろせる。
山頂の展望盤を見る。ここに載っている山でまだ登っていないのは赤久縄山(西上州)、聖岳、光岳(南アルプス)、そして浅間山の4座のみとなった。
今日は1年半ぶりに避難小屋に泊まらせてもらう。小屋の外の寒暖計は6度だった。日が落ちると氷点下はいくだろう。
寒い日の避難小屋泊まりは、同宿者の人数がその日の夜の暖かさを決める。満員だと冬でも汗をかくくらいだが、今日は平日のため、夜の寒さ対策はしっかりしておかねばならない。持参したシュラフは夏用だが、重ね着で乗り切る。Tシャツと開襟シャツの他にヒートテックの肌着とフリースを2枚、そして足の指先対策として、つま先にカイロを張りその上からもう1枚靴下を重ね履きする。これが効果てきめんだったようだ。シュラフにくるまるといつも真っ先につま先が寒くなるのだが、この日はいつまでもぬくぬくとしていられた。
夕方になると、急にガスが出てきた。雲取山頂はたちまちのうちに白一色となってしまう。
この日の宿泊者は4名だったが、意外と寒さは感じなかった。