50歳代も半ばに差しかかり、体力的にきつい山が増えてきた昨今だが、2015年の山行記録は数字的にはそれほど落ち込みはなく、例年通りコンスタントに登ることができた。
今年印象に残った山と言えば、北関東の八溝山、福島県喜多方の飯森山、新潟の焼山など、長年課題にしていてようやく登れた山が多い。どれも、その山でなくてはならない個性と土地の臭いが感じられ、日本の山というのは本当にいろいろあるものだなあとつくづく感心させられた。
それと、今年は年初から早春にかけて東京や埼玉の低山によく足を運んだのも、今後の新たな山行のスタイルを示したものとして意義深かった。2016年も何か新しいテーマを携えて、怪我なく歩き続けられたらいいと思う。
今日は丸山に登るつもりだったのだが、西武秩父駅に着くと、乗るつもりだった定峰行きバスが年末ダイヤで走っていなかった。芦ヶ久保まで戻って駅から歩いても丸山に登れるのだが、今日はもうひとつプランを持ってきているので、その別の山にした。
杉ノ峠への下りで秩父御嶽山を望む
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御花畑駅から秩父鉄道で三峰口駅まで行く。秩父御嶽山は10年前に一度登っているが、今回は登降とも前回と違ったルートを取ってみたい。
登路は古池から猪狩神社、猪狩山から尾根通しで御嶽山に至る。古池までは朝一の電車で来ていれば町営バスに乗れそうだったが今日は無理。もっとも年末はこの便もないようで、バス停に年末年始用の時刻表が貼ってあった(ホームページには掲載されていない)。
三峰口駅から歩く。年末とあって駅前は閑散としている。散歩中の地元の人と挨拶を交わす。日当たりのいい山の斜面で猿が日向ぼっこしていた。
秩父往還の県道に入り、贄川(にえがわ)の宿場跡のある街道沿いに見覚えのある町分登山口があった。
なおも県道を歩いていく。車一台がやっと通れるトンネルを抜ける。マッターホルンのような鋭い山が見えるが、あれが猪狩山だろうか。
駅から40分ほどでようやく古池(バス停)に着く。大きな屋敷と手打ちの蕎麦屋を見て、猪狩神社の鳥居をくぐる。すぐ先が猪狩神社である。
日本武尊がこの地を荒らす猪の群れを退治したと言う故事にちなみ18世紀に建立されたということで、大きくはないがどっしりとした構えの社殿がある。ほかの多くの奥多摩・秩父の神社と同じく、ここも信仰の対象は狼であり、境内前の狛犬は狼の顔をしていた。
本殿の横には付近の神社の末社が祀られていて、稲荷神社・秋葉神社・熊野神社・諏訪神社・菅原神社を表す5つの小社が立ち並んでいる。ひとつの神社の境内にほかの神社があるのは奇異に思えるが、実際はよく見られるものだそうである。
猪狩山登山口は社殿の裏側にあった。急坂をジグザグに登っていくと林道に出合い、さらに上のほうにまた林道のガードレールが見えたので、薄い踏み跡を拾いながらさらに急な斜面を登る。
この2つ目の林道出合からが、猪狩山への本格的な登りとなった。本格的、と言ったらまだ表現が甘く、ここは超の3つくらいつく急登である。植林帯や雑木林の中、踏み跡はジグザグについているのだが何しろ傾斜が半端ではない。うっかりしているとひっくり返って転落しそうである。
手を使いながらしゃにむに高度を稼いでいくと、途中から補助ロープが現れた。このロープがないと通過が難しいところもある。
そろそろ山頂近いかと思って顔を上げても、目の上にあるのは樹林帯のみで、この急斜面の終わりがなかなか見えない。どんどん高度が上がり、振り返ると秩父盆地がずいぶん下に見えていた。神社から50分ほどでようやく傾斜が緩くなり、猪狩神社奥宮に到達した。
木に囲まれてはいるが、さすがに登頂の達成感があり、腰を下ろしてしばらく休憩する。猪狩山のピークは尾根通しの少し先に見えていた。
なお、家に帰ってカシミールで調べたら、猪狩神社から奥宮までの間は平均傾斜が何と37度だった。ちなみに奥多摩屈指の急登で知られる稲村岩尾根は約22度(稲村岩基部~鷹ノ巣山間)、奥茶屋登山口~棒ノ折山山頂間は約27度である。また北アルプスの笠新道がだいたい35度(登山口~杓子平間)だった。
ヤセ尾根を下って登る。両側が切れ落ちているが、木が茂っているので高度感はそれほどでもない。猪狩山までは2つほどダマシのピークがあった。いったん未舗装の林道に下りる。さっき横断した林道の続きなのか。
猪狩山へは再び急な登りが始まる。しかしさっきまでの登りに比べればここは「普通の急登」であった。
猪狩山山頂はアシビと杉林の地味な山頂である。薄暗いので少し下った雑木林の稜線で休憩する。
御嶽山山頂から、和名倉山(右)、飛竜山(中央左)、雲取山(左端)を望む
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南面の展望 |
杉ノ峠への下降路は、上部では明るい自然林の道となる
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気分よい尾根道から |
杉ノ峠へは、途中で高度感のあるヤセ尾根を下っていく
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一転して急降下 |
鉄塔ピークからは西方向に秩父湖が見えた。バックの山は白泰山
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秩父湖 |
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ミツマタ |
強石登山口に下り立つと、熊倉山の立派な山容が見上げられた
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熊倉山が大きい |
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ここからは尾根通しに御嶽山を目指すことになる。時々標識を見るが、右手の支尾根に引き込まれやすい場所があり、そういう所では立ち木のテープに導かれたりする。
左下に先ほどの林道が、尾根に沿うように続いていた。作業用の林道と思われるが、あれほどの急坂の難路を登ってきたのにこんなものを見ると興ざめである。
尾根筋は展望が開ける場所はないものの、右側はだいたい自然林で、木の枝越しに両神山や二子山が眺められる。小森方面へ下る分岐を示す標識は下半分が引きちぎられていた。これは熊か何かの仕業であろうか。
穏やかな道が続いていたが、一転して岩がちの急登となった。しかしこれも「普通の急登」で、岩を乗り越えて名も無いピークに立つ。ここも展望はない。
さらに尾根を進んでいくと林道が近づいてきて、やがて下から上がってくるもう1本の林道に下り立つことになった。この山はきつく険しい割には林道がかなり上まで上がってきている。そういえば前回も、御嶽山付近に舗装道が伸びているのを見ていた。
切り通し状の林道を横断し、再び尾根道へ。快適な歩きなのだが、左手は常に鬱蒼とした杉や檜の植林で、日が差し込んでこないため歩いていて常に肌寒い。今日は気持ちよい快晴なのにもったいなく思う。
そのうち、尾根の行き着く先に端正な三角錐の山が見えてきた。目標の秩父御嶽山であろう。
やがて町分ルートと合流するタツミチに着く。ここからは道がはっきりし、御嶽山の三角錐もずいぶん近くまで来た。もう一息・・と思いきや、ここから再び急登が始まった。山頂までまだ標高200m以上の登りを残している。
展望があれば気が紛れるものの、南側は相変わらず植林のカーテンだ。以前登った時の記録を見ると、幼植林越しに眺めが利いたようなことを書いているが、今は樹林が生育したせいか、1箇所だけ武甲山が見える場所がある他は全くの展望無しである。
杉ノ峠方面への下山路を合わせ、数分で秩父御嶽山の山頂に到達する。
山頂部付近のみ樹林が刈られている。古池からひたすら登ること3時間、ようやく展望が得られた。北から西面にかけて、関東平野のはるか先に奥日光や上州の山、白い谷川岳、御荷鉾山、赤久縄山、二子山、浅間山が見渡せる。そしてやはり主役の両神山が大きい。
南側は和名倉山から飛竜山、雲取山など奥秩父から奥多摩にかけての稜線が広大なシルエットで迫ってくる。山頂で出会った人は3名。標高1000mを超えた山頂でも今日は風がなく暖かで、1日分の眺望をじっくり味わった。
下山は先ほどの分岐まで戻り、杉ノ峠を目指す。尾根が広がって自然林の明るい散歩道になったかと思うと、ほどなく岩がゴツゴツしたヤセ尾根に変わる。左右ともに切れ落ちていて高度感があり、両側にトラロープがかかっている場所もあった。
植林帯に入り林道を横断すると鉄塔の立つピークがあり、西には秩父湖が見えた。振り返り見る御嶽山はここからも端正な三角錐で立派である。杉ノ峠は薄暗く、杉の大木の下に小さな祠があった。
右折して落合に下り大滝温泉に入るのもいいが、今日は休業なので左に分岐して強石(こわいし)に下る。登山道は細いがけっこういい道だった。
強石登山口から車道をところどころショートカットしながら、国道に出る。強石バス停からバスで戻ってもよかったが、三峰口まで歩くことにした。これで今日は御嶽山をぐるり一周したことになる。
武甲山を見ながら三峰口駅に着く。西武線乗り入れの秩父鉄道に乗車して帰途に着くが、今日は温泉に入り損なったので、途中下車して武甲温泉に寄り道する。
温泉は地元の人なのか、帰省客の家族連れで大いに賑わっていた。