友人がヒメサユリを見たいと言うので、浅草岳に登ることにした。その後、どうせ行くのなら隣りの守門岳にも、ということになり麓の旅館に泊まって両方登ることになった。
さらに、土日だけでは日程的にきついため、前日に休みを取ることにするなど、今回は計画がどんどん膨れ上がっていった。初日に守門岳の保久礼で幕営して翌早朝から守門岳登頂する。
県外の登山者の間でも人気のある、越後の名峰2座を巡る。
大岳下のヒメサユリは一輪咲いていたが、固い蕾がほとんど
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15年前の2002年、6月16日に浅草岳でヒメサユリは多く咲いており、今回も計画当初は季節の進みも順調だったため、同じく6月3週に旅館を予約する。しかしその後気温が上がらず雨の少ない日が続いたことが影響して、雪解けが遅れて開花も大幅に後ろ倒しになったようである。
ネットの2日前の山行報告でも、まだヒメサユリは開花していなかった。
初日、保久礼の駐車場まで車で行くのみ。天気予報では朝方雨が残るがその後曇り、となっていたが山の中ということもあって回復は遅れ、霧雨の降る中での到着となる。
当初は保久礼小屋に泊まる計画もあったのだが、宿泊に耐えられる雰囲気なのかがわからない。ただ何となく泊まるのははつらいだろうと予想し、テントを持っていくことにした。実際に小屋の内部を見てみるとやはりカビ臭く、よほど切羽詰まった状況でなければ泊まれない。明日の好天を信じ、この日は駐車場でテント泊した。
夜から未明にかけて、車が何台か到着する。あたりが明るくなると雲は無くなっていた。守門大岳の山頂部も滝雲が絡みながら何とか見えている。車はかなり来そうなため、濡れたテントを撤収してから青空の中、出発した。保久礼小屋は1分ほど緩く下ってすぐに着く。
小屋からの登路は、最初から遊びのないだらだらの階段登りである。おまけにぬかるみがすごく、足を取られやすい。天気の良いのを慰めに登る。
水場で水を補給し、キビタキ小屋への分岐に入る。キビタキ小屋は、守門初登頂の折泊まった思い出深い小屋である。保久礼小屋に比べると小さく頼りないように見えるが、中はしっかりしていてカビ臭さもない。周囲はブナ林が見応えある。
保久礼コースはブナ林帯のへりを歩くようになっていて、片側の眺めが時々得られるものの、守門岳の売りであるブナに囲まれた登山道にはなっていない。
直線状の登りは続く。一人の登山者がもう下ってきたが、3時に駐車場に着いた人だろうか。足元にはコイワカガミ、頭上はタムシバやオオカメノキの白花が鮮やかだ。
西側の展望が何度か開けるうち、樹林の背が低くなってくる。西方向がさらに大きく開けたところが第二展望台。この先は常に頭上に青空を意識しながら歩けるようになった。
不動平に着くと右手が今度は開け、守門の何本もの尾根の先に越後三山や荒沢岳の白き峰が見えた。守門の稜線も青空にくっきりと姿を現しているが、大岳の山頂部はいまだガスが取り巻いている。
守門大岳に着く。以前ここで見たヒメサユリは見当たらない。大雪庇の場所に行ってみると、壁のような稜線がまさにガスで隠されようとしているところだった。休憩している間もガスはどんどん上がって来て、せっかくの青空も霞んでしまった。この時期の日本海側の天気は、一旦回復してもすぐ悪天がぶり返してくる傾向があるように思う。
守門岳(袴岳)に向けて稜線歩きに入る。網張までは急坂を下っていく。標高1320m付近でヒメサユリの蕾を発見、そしてそのすぐ先に一輪、咲いていた。開花したのは昨日か、もしかしたら今朝だったのかもしれない。
守門でヒメサユリが主に見られるのは大岳の山頂付近とこの下り斜面であり、周囲は他に蕾も見当たらず、今日見られるのはたぶんこの一輪だけのようだ。それでも一つも咲いてないのとは大違いで、とにかく見れてよかった。
他に花は多い。コイワカガミは相変わらずあちこちに群落を作り、ショウジョウバカマ、ミツバオウレン、キクバオウレン、ナエバキスミレ、ウラジロヨウラク、ムラサキヤシオ、ゴゼンタチバナ、アカモノなどを見る。季節の進みが遅い分、今は春の花がひと通り見られそうだ。
網張から先、今度は下った分だけ登り返しとなる。残雪やぬかるみ、越後の山特有の大きな段差など、なかなかきつい行程が続く。
雪解け間もない斜面にはカタクリやシラネアオイも見られる。ニッコウキスゲはまだ緑色の固い蕾である。
二口分岐点あたりは眺めがいいはずだが、もう真っ白になってしまった。しかし頭上に薄い雲を透かして太陽光が差し込むのを感じる。
草原状の青雲岳に到着する。小さな池塘の回りには水芭蕉が咲き始めていた。目の前に守門岳が見えてほしいが叶わない。木道を下り登って守門岳(袴岳)山頂に立った。一瞬だけ大原登山口方面が見下ろせたものの、すぐに乳白色のカーテンに閉ざされる。明日登る予定の浅草岳を見ることもできなかった。
山頂は人が多いため、休憩は青雲岳で取ることにする。その青雲岳へも登山者が後から後へとやって来ていた。展望はなくとも、ヒメサユリは咲いてなくてもいつも様々な年齢層、各方面からの登山者で賑わう山である。
保久礼からのルートは標高差は小さい反面、大きなアップダウンのある稜線を往復することになる。二口の駐車場からの周回のほうが、少し登りが増えるものの変化があって疲れも少ないかもしれない。ただ今日は、大岳下のヒメサユリをもう一度見ていくという理由があるので、結果的に往復でも楽しみはある。
帰路は少しガスが薄くなったので、遠望は利かないものの守門の扇型の稜線を眺めながら歩けた。再びのヒメサユリは、もう一つの蕾がさっきより開き気味になっていた。明日には咲くだろう。
他にある蕾は、1週間くらい前にネットで写真が出ていたのと同じもののようで、まだ蕾のまま残っていた。ヒメサユリは、大きくてピンク色が鮮やかな蕾になっても、すぐに開花するとは限らず、寒い日が続くとなかなか開かないようである。
最後の登り返しを踏ん張り、大岳に戻る。休憩している人がいっぱいいた。大きな雪庇の横だと、日が差さないとけっこう寒い。
保久礼に向けて下山となる。不動平まで来るとあたりは明るくなり、青空が復活してきた。雲に覆われていたのは山頂部や稜線だけだったようである。
朝はジメジメしていた場所もかなり乾いていたため、日はずっと差していたと思われる。登りの時はまだ薄暗かったブナ林も明るく輝いている。
キビタキ小屋付近でキビタキのさえずりを聞いた気がする。動画で音を録音しておき、あとでネットで検索し確認した。青空に溶け込むような、初夏に似合う乾いた声だった。
保久礼に向けて高度を落とすにつれ気温はぐんぐん上昇し、ハルゼミの鳴き声も盛んだ。
保久礼小屋に到着。長い復路だった。小屋の裏手に沢があり、そこから林道で駐車場に戻った。
上の方に目をやると、稜線付近も雲が取れてきている。今日の天気予報は曇りのち晴れだったが山もその通りの天気になった。今日はもう少し早めに出発していれば、ガスに隠される前の大雪庇を拝めたかもしれないし、日が高くなってから歩き出していたら後半は晴れていたろう。でもまあそれは結果論である。
それにしても下の方は、先ほど肌寒い思いをしていたのが信じられないくらい暑い。季節が2つぐらい違う感じだ。
今日はこのまま車で下り、浅草岳山麓、五味沢の音松荘に泊まる。音松荘には13年ぶりの訪問だ。まだヒメサユリの時期には早いために部屋は空きがあった。
夕食はイワナや山菜料理など山の幸が豊富で、お米はちろん魚沼産コシヒカリ。ネマガリダケが山で見るそのままの姿で出てきたのにはびっくりした。自分で皮をむいて味噌をつけて食べると、柔らかくてなかなか美味しい。
部屋の窓から見える景色は山、川と赤い橋だけ。付近には駐車場と数軒の旅館しかなく、民家もコンビニも何もない。静かな夜が更けていった。