当初は会津喜多方の飯森山を予定していたが、直前になって天気予報が悪目に変わってしまった。この土曜日は関東甲信地方もどこも雨模様。唯一晴れている越後の山を目指す。
もっとも午後からは天気が崩れる予想もあり、朝早くから歩き始めたい。会社から帰ったらすぐに出発する。高速に乗る前の一般道で渋滞に引っかかったが、予定通り小出インター直前のPAで車中泊できた。
守門岳は3回目である、残雪で道を見失った初訪、春の雪山を堪能した2回目と、いずれも印象深い山行だった。
青雲岳山頂の草原帯から守門岳を望む
|
ドライブインを朝3時半に出発。小出インターから国道を北上する。日の一番長い時期であり、すぐに空は白み始めた。あたりは晴れて、山がよく見える。貫木から二分地区に入り、二口平駐車場に着いたのは4時半だった。すでに1台、先着がいた。
二口コースを歩くのは初めてである。駐車場からすぐに登山口、緑濃い草むらの中に入っていく。ほどなく急坂に取り付く。まだ日が照ってないので足元がやや薄暗い。
尾根に上がると心地よいブナ林の道となり、やがて護人清水という水場に着く。水は十分持っているが一杯飲んでいく。水の冷たさが喉を通り内臓に落ちていく。さらに登っていくと、先にも増して鬱蒼としたブナ林になった。ここも二次林と思われるが、スラッと伸びたブナの密集度は圧巻である。薄暗い中、ブナの白い幹がわずかな光をとらえ、怪しく光る。ブナの根元に2/10と行程の目安プレートがついていた。
ブナはいいが、朝から湿度が高く、むせ返るような空気である。やはり天候悪化の前触れなのか。高度を上げ、尾根の背に乗ると谷内平という標柱が現れ、その先で樹林が切れて見通しのよい潅木帯に出た。三角点標もある。進む先に守門岳の稜線が見えた。
開けた尾根道はしばらく続き、足元にもアカモノの花が見られた。守門の稜線から太陽が現れるが、進むにつれ再び山の後ろに隠れる。道はなかなか明るくならないけれども、おかげで直射日光からは逃れられている。岩っぽいところを越えていくと、滝見場という場所に出た。標柱には「オカバミ沢の頭 標高1000m」とある。右下に滝の一部が見える。ザーザーといううるさいくらいの雪解けの音は、ここ越後の山ならではのものだ。
このあたりも眺めがよく、振り返ると長岡市や魚沼の平野、そして山々の眺めが広がっている。左方には、昨年春に真っ白な中を登降した大岳への緩やかな斜面。目の前には守門の稜線が近づいてきた。しかしここからはまだ400m以上の標高差を残しており、見上げる位置にある。
再び樹林帯に入ると、その400mの急登が始まった。「長~い登りの始まり」とプレートに書かれている。展望もなくなり、我慢するだけの登りにも思えたが、このあたりから高山植物を多く見かけるようになる。アカモノ、コイワカガミ、マイヅルソウ、シキミなども見る。そしてチゴユリがたくさん咲いていた。
傾斜が緩くなって前方に明るい地平が見え、もうそろそろかと思うとまだその先がある。なかなか稜線にたどり着かない。1時間ほど頑張ってようやく標柱のある分岐点に出た。
左手に守門大岳の大きな姿が印象的だ。この時期になるとさすがに雪庇は見られない。大岳には帰りに登るとして、まずは守門岳(袴岳)を目指し歩を進める。開けた稜線に出るのはもう少し先で、まだ樹林の登りがあった。
左手の斜面に残雪を見るようになるとようやく視界が開け、初夏の越後の山の風景が広がった。木道に沿ってミツバオウレン、コイワカガミが点々と咲き続き、ニガナの黄色も鮮やかだ。ゴゼンタチバナの白花はいつも見るよりやや大きめ。潅木帯にはタニウツギ、ウラジロヨウラクの赤紫が彩りを添えていた。
日当たりのいい場所に出るとニッコウキスゲも花開き始めていた。少し登るとさらに眺めが広がり青雲(あおぐも)岳の山頂となる。木道が敷かれ、その先に守門岳の特徴あるコブコブのピークが控えていた。頭の上の青空がうれしい。
いったん下って登り返すと守門岳の山頂である。11年前と変わらぬすばらしい展望が広がる。南側は前線の影響で一面が白い空になっているが、越後三山や荒沢岳は稜線までくっきりと見えている。権現堂や毛猛山塊、未丈ヶ岳も。今は登ったことのある山もぐっと増えてきた。
隣りの浅草岳は稜線が雲で覆われていた。すぐ近くなのに、今日向こうに登っていたら1日中雲の中だったかもしれない。浅草岳のほうが福島県境に近い「会越の山」なので、悪天の影響が大きいのかもしれない。
守門か浅草か、この地の山に登るときはいつも「究極の選択」を迫られるが今日はラッキーだった。
空模様からは、そう早く天気は崩れそうにない。山頂でゆっくりしてから来た道を引き返す。
今度は北から西方向の山を見ながらの稜線歩きとなる。粟ヶ岳や角田・弥彦の向こうは日本海。遠く米山の形よい山容もよく見える。南半分一面の雲り空でも、こちら側は青空が優勢。現在の日本の天気図をそのまま見ている気がする。
青雲岳を通過して先ほどの分岐点に戻り、守門大岳へ歩を進める。右手が切り立った急斜面になっている箇所を通過する。残雪の溶けたところにシラネアオイが咲いていた。
これから向かう大岳は、この分岐点よりも標高が低い。しかしここからいったん下るため、最後は大きな登り返しが待っている。最低鞍部の網張から見上げる大岳は堂々として高くそびえている。
岩っぽい登りになって、ようやくヒメサユリに出会う。守門岳は隣りの浅草岳と比べれば花数は少ないが、それでもこの尾根で点々と咲き続くのを見ることができた。ニッコウキスゲと並んで咲いているところもあった。
ひとしきりの急な登り。振り返ると守門岳に雲がかかり始めていた。登り切り、守門大岳に到着する。それほど広くない山頂は、周囲を低い潅木帯に囲まれて意外と展望に恵まれない。以前来たときは6月の初めで残雪の時期だったせいか、もっと眺めがよかった印象がある。
山頂には色の濃いヒメサユリも見られ、時間が経つにつれ登山者がどんどんやってきた。
保久礼(ほっきゅうれい)に向けて尾根を下る。下り始めは低い潅木の中の緩斜面だ。昨年4月下旬に登ったときはスキーゲレンデ状態で、今目の前にある潅木は全て雪の下だった。4月は展望もほしいままだったが、今日は背を伸ばしてやっと、越後駒などの眺めが得られるだけだ。
時期的にはほんの2ヶ月程度の差しかないのに、これだけの自然条件の違いがあることは、関東の山ばかり登っていると理解しがたい。
第二展望台で角田山・弥彦山の背後に佐渡ヶ島のシルエットを確認する。その先も樹林帯が続き、道は雪解け間もないせいだろうか、ぬかるみで足を取られ、さらに溝状になっていて非常に歩きにくい。大岳からキビタキ小屋まで50分かかってしまった。
キビタキ清水は登山道を離れて20mほどのところなので寄って行く。冷たくて生き返る、美味しい水だった。
どんどん登山者が登ってくる。守門岳の人気の高さがうかがえる。木段の設置されたブナ林を下っていく。立派な小屋の建つ保久礼に下り立った。ここには林道が上がってきている。
小屋の傍らにバイクが停まっており、駐車場もすぐ近くにあるのだが、二口平登山口へはさらに登山道を行く。初訪時はここを登っていったのだがあまり記憶がない。「二分Pまで20分、二口Pまで40分」との案内柱がある。
急な下りを経て荒れた林道へ。沢沿いに進むと舗装道路に出会い、二分の駐車場に出た。この駐車場、きれいに整備されてはいるが、登山に利用するにしては中途半端な位置にあると思う。ここに車を停めた人は保久礼コースを往復するしかないはずなので。
そこからは舗装された道を20分ほどで、二口平登山口に戻ってきた。出発時は2台だけだったが、今は2つの駐車場とも満車になっている。ここに車を置けば、今回のように効率よく周回コースが取れるのだ。
今日は朝が早かったので、ゆとりを持って回ることが出来た。天気も持ってくれて、上々の越後の山歩きであった。
帰りは守門温泉「青雲館」に寄る。お風呂は小さく、窓から守門岳も見えない場所なのだが、つるつるのお湯で満足度は高い。時間も早いので独り占めの温泉だった。窓の外で繰り広げられている、老人方のゲートボール大会を眺めながら、ゆっくり湯に浸かる。
関越に乗ると、ようやく雨が落ちてきた。たちまちどしゃ降りになる。それでも渋滞時間を避けることができ、すいすいと帰京できた。早起きは三文の得と言うが、今日はそれを地で行った一日であった。