守門岳へは2004年に登って以来、今回が2度目である。前回は6月初旬、電車・バスでアプローチして山中の小屋で一泊しての行程だった。下山時に道に迷い大変な思いをしたが、素晴らしい展望と残雪、ブナ林と豊富な高山植物で越後の山の魅力に惹き付けられた。
以後コンスタントにこの地に足ぶきっかけとなったのがこの守門岳かもしれない。
またこの時、同じ日に守門に登っていた地元のぽぽさんという方から、ホームページを見たとメールをもらった。以後、早春の雪割草、残雪のブナの山など越後のおいしいところの山をごいっしょさせていただいている。
大岳の山頂下から。麓の方向は青空が広がる
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ぽぽさんが言うには、車利用で日帰りで登るのが普通の山を、バスで来てしかも無人小屋に泊まったことが珍しかったようだ。自分としては当時は、大きな山には普通泊まるのが当たり前と思っていたし、当日小屋に他に誰も泊まっていなかったのが不思議だった。
今回は春山の守門のお誘いが会った。春山といっても越後の1500mくらいの山は、まだ全面雪山である。自分に果たして登れるのかと考えたが、2週前に銀山平の山を往復した余勢(?)をかって、果敢に挑戦することとした。
地元のもう一人の方(同じく女性=Tさん)と3名で登る。
春の守門は、一般には二分登山口から大雪庇で有名な大岳を往復するコースが歩かれており、主峰の袴岳へ縦走する人はあまり多くないそうだ。
前日の夕方に出発し浦佐まで入っておいた。
翌朝、浦佐を出発。平地の天気は回復したが山のほうは雲が多い。高いところはまだ荒れていそうだ。
二分(にぶ)登山口の除雪されている地点まで車で入る。すでに数台が停まっていた。しばらくしてぽぽさんとTさんの車も到着。雪の高まりに向かって足を向ける。
二口コースへの分岐から先、すぐに左手のトレースに入る。地面はすでに雪だがツボ足のまま進む。
左、左に進路を取って林道に上がり、広々とした大平牧場の平坦地に出る。夏であれば保久礼(ほっきゅれ)の小屋へ向けて直接車道を上がっていくのだが、雪のあるうちは違う道どりとなる。Tさんによればもう少し雪が多ければ尾根伝いに保久礼に近いコースが取れるとのこと。半端に雪が溶ける今の時期は、沢筋を避けるためにこのように遠回りするしかないという。
大平牧場からはすでに展望が広がる。大岳の丸い山容が、目指す先にそびえているが、空の白色との境目がつきにくい。雲も早く流れ風が強そうだ。あんな高いところに登れるのか、不安に思う。
電信柱沿いに進む。2週前の歩きで雪にある程度慣れたつもりだが、あまり快調には進めない。保久礼小屋へはもう1本尾根を乗っ越すように高度を上げる。ブナ林に入っていったん降下。登り返して保久礼小屋の前に出た。牧場から1時間半もかかってしまった。電車の車両のように見える小屋の屋根には雪が積もってなかった。
行き過ぎる人の多くがスキーを履いているか、または担いでおり、登りも下りも歩きの人はそう多くない、全体の半分くらいか。今歩いているところはザラザラした少し重たい雪で、足が潜るような深さではない。
自分の今日の装備はダブルストックの他、前爪アイゼンとワカンは持ってきているが、果たして出番はあるだろうか。
いよいよ本格的な登りが始まる。急斜面だが尾根は幅広く、恐怖感はない。昨晩はやはり雪だったようで、新雪が少し積もっており、踏む雪面は純白である。
ブナ林を黙々と登り、見覚えのあるキビタキ小屋の前へ。小屋の半分は雪に埋まっていた。最近の写真を見て、立て替えたのかなと思ったが、近くで見ると9年前に泊まった時と同じようだった。戸口付近の雪が除けられていたが、戸を開けて入ることはできないようだった。
再び登り出す。一歩一歩、足が重い。少しダイエットしなければと思いながらサボってきた罰である。Tさんは山慣れた人で、以前は守門の近くに職場?があって、しょっちゅう登っていたそうだ。雪一杯の道を長靴のみでストックも使わず、それこそ平地でも歩くようにスタスタと登っていく。汗もかかないので水もほとんど飲んでいないようだ。
ぽぽさんも自分は亀足と言うけれど息が上がっていない。歩くのが遅い上にハアハア肩で息をし、雪上なのに水をがぶ飲みしているの自分だけだ。
やがて樹林の背が低くなり、だけの世界となる。大岳はいまだ白い空の下。左手の中津又岳の雪庇がここからもよくわかる。
振り返れば麓側には青空が広がり、見渡す限りの越後の山並み、そして町並みである。毛猛山、荒沢岳といった中越の奥深い山、その手前に日光が当たって明るくなっているのは権現堂山とのことだ。長岡方向には低い尾根が横たわっているが、鋸山あたりか。その尾根を境に内陸側に雪が目立ち、海側にはあまり白いものは見えない。
いったん尾根の肩のような場所に上がる。雪は足首あたりまで潜るようになった。風が強くなり、気温も急降下。地吹雪のようなものが舞い上がっているのか、大岳は姿が見えたり見えなかったりする。しかし左の中津又岳の背後には青空も見える。ここまでくれば、念願の大岳登頂が現実味を帯びてきた。太陽はないのでサングラスをしていなかったが、ここで初めてかける。
地面の雪の色が変わってきた。凍っているのだ。それが長く続けばアイゼンをするべきなのだろうが、この気温の低さと強風の下では、立ち止まることがむしろ危険な気もする。幸い守門大岳山頂はそのすぐ先だった。
吹きすさぶ風、ガスで展望なし、空は真っ白でホワイトアウトの一歩手前だ。肝心の大岳の大雪庇は見ることができない。しかし中津又岳の切り立った雪庇が目と鼻の先にあった。
あまりの寒さに、いてもたってもいられない。毛糸の帽子を持参せずにキャップしかなかったのは装備の不備であった。そのうち空が明るくなる場面もあり、大雪庇の方向に光が当たった。その方向に歩こうとしたところ、二人に注意された。歩いている場所も雪庇に近いため、もっと手前から回り込まねばならない。
見たところどこが山頂でどこが雪庇なのか、ぱっと見では全くわからない。初めて登った人は注意が必要だ。少し前にもこの雪庇から落ちたのではないかと思われる人がいて、いまだに行方不明になっている。
こんな日もある、ということで今日は越後の雪山に登頂できたことで満足して、早々に下山することとする。
下りは楽である。一直線の幅広いゲレンデをどんどん歩くのみだ。少し高度を落とすと眼下や周囲の眺めがきいてきて、パノラマの展望を楽しみながらの下山となった。
後ろからビューッとすごい音を立てて何かが通り過ぎていった、スノーボードで下りている人だった。また、スキーの人も多い。スキーは一度滑り降りてしまえばそれで終わりでつまらなくはないか、と思っていたが、人によっては滑った後再度登るそうである。
時間の経過とともに青空はどんどん大きくなり、見事な雪山の眺めが得られた。今は残雪の時期で、標高の低いところは黒白のまだら模様なのだが、もう2ヶ月ほど前の真っ白な雪山のパノラマも、こうなると見たくなってくるものだ。
いずれにしても、登りの段階で撮っていた写真はみな撮り直しだ。麓の天気は好転しても、振り返り見た大岳の上空は、まだ白い空のままであった。
ブナ林に戻り、青空をおかずにキビタキ小屋の前で軽く食事を取る。この時間でもどんどん登ってくる人がいる。今から登る人は好天の下でうらやましいと思う反面、雪上はトレースが多くついて汚くなってしまっている。今日は早い時間から行動したおかげで、純白の雪上にトレースをつけて登れた。
保久礼小屋から少し登り、広い場所に出て振り返ると、もはや大岳も青空の下となり雪山の輝きを放っていた。日差しも強くなってきたので日焼け止めを塗り直す。
大平牧場から林道を下って二分登山口に下り立つ。土の上を歩くようになった途端に歩行スピードが上がったのには笑ってしまった。
見上げる守門岳は全山に雲は無く、青空にくっきりと白い頂を見せていた。