坂戸山は今回が4度目の登頂で、過去は1月、4月、5月に登っている。標高634mは偶然にも昨日の弥彦山と同じである。
同じ標高でもこちらは魚沼という豪雪地帯の山であり、自然条件はずいぶん違う。
4月のカタクリの開花期を前に、今の時期の坂戸山はどのような表情をみせてくれるのであろうか。
坂戸山城坂コースの木々は枝先が色づき、芽吹きの準備をしている
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6時過ぎに六日町の宿を出る。静かな住宅街を抜けて、鳥坂神社のある薬師尾根登山口に着く。平日なのにすでに地元の車が2台駐車していた。
支度をして歩き始める。日陰に雪は残っているが、尾根に出ると白いものはほとんど見られなくなった。3月中の魚沼の山は、例年ならまだ雪に覆われているところが多そうだが、雪の少ない今年は標高634mの坂戸山程度ならそれほど重装備でなくても登れる。
日は上がっているものの、上空には薄い雲が出ていて日差しは弱い。高度を上げていくと周囲の山肌は残雪が目立ち始め、隣りの金城山もかなり白い。花の坂戸山も、今は尾根上で見られる花はマンサクくらいで、それも日が差し込んでこないのであまりパッとしない。
遠望の効く薬師尾根からは、少し登っただけで上越国境の山並みがよく見えるようになる。
初老の男性が1人下りてきたので挨拶する。しばらくしてまた1人。いずれもザックも背負わないジャージ姿で、走るように下っていった。おそらく停めてあった車の主で、坂戸山登山を朝の日課にしている人だろう。
以前登った時、一年で1000回以上この山に登っているという人がいた。1日に平均2.5回の計算である。東京の高尾山で言えば、山麓に住んでいる人なら考えられないこともないが、ここ豪雪地帯の山で年1000回は、東京に住む者にとっては信じ難い数字だ。
どんどん高度を上げていくとさらに展望が広がり、金城山の背後に白無垢の巻機山、平ヶ岳が姿を表す。ユキヤナギを少し見る。
また足元には開花途中のイワナシ、さらにタチツボスミレがいずれも一輪だけ、寂しそうに花をつけていた。
寺ヶ鼻コースを合わせるあたりで、薬師尾根にもようやく残雪が現れた。階段状の道を一気に登り上がり、社の立つ坂戸山山頂に着く。
太陽は雲に遮られながらも、八海山や中ノ岳の雪山が大きく望めた。ぐるりとどこを眺めても山また山の眺めである。
大城まで行ってみる。山頂から大城の稜線にかけてはある程度の雪が残っていた。もう1ヶ月もすればカタクリのピンク色の絨毯になる大城も一面真っ白だ。
少し小高い台地に上がると越後三山、金城山、上越国境の山々がパノラマで眺められた。
しばらくすると雲が切れ始め、坂戸山山頂に戻る頃にはすっきりした青空になってくれた。周囲の山々、魚沼の田園地帯も日が当たり、さっきまでとは全然違う表情に。マンサクも日に当たって黄色が明るく輝く。今まで撮っていた展望写真は、ひと通り撮り直しである。
今更ながら、フィルムで残り枚数を気にしながら撮っていた頃には考えられない、やり直しのきいてしまうカメラライフになった。
標高634mは春のような空気になっても、見渡す白き峰々まだまだ冬の姿そのままである。
今回は下山に城坂コースを使う。数年前の大雪のとき以来、雪崩が原因で通行できなくなっていたが、今は歩けるようだ。
下り始めてからしばらくは登山道も雪の上で、杉林の中につけられた道も白くなっていた。カタクリの花畑になる桃ノ木平も一面が雪である。
ここからジグザグに高度を落としていくにつれ、目に見えて雪は減っていく。芽を出したフキノトウに混じって、カタクリも花芽を伸ばしていた。芽吹きの一歩前か、枝の先っぽが黄色くなっている木がある。
ジグザグをひとつずつ下っていくと、今にも開きそうなカタクリ、さらにひとつ下るとついに花開いているものがあった。傍らにタチツボスミレも。このあたりは標高を少し上げ下げするだけで季節が行った来たりしており、これも雪国の春の山ならではである。
「城坂」の石標のある登り口(一本杉)まで下りてきた。下の斜面で、山菜採りをしている人がいる。その斜面を下りてもいいのだが、林道をぐるっと回り込んで下る。斜面は日当たりがよく、カタクリやキクザキイチゲが咲いていた。
薬師尾根登山口までは特に標識などはないが、道なりに下っていく。途中のカタクリ群生地は開花前だった。
車のある登山口に下り着く。駐車場はさらに車が増えていた。今から登る人もけっこういる。さすが坂戸山も昨日の弥彦山同様、土地の人にとっては身近な存在であり、思い立ったらいつでも登れるふるさとの山なのであろう。
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今日はまだ時間が早いため、もうひとつ登る。登るとは言っても標高は坂戸山の半分以下、321mの六万騎山である。
以前、5月のゴールデンウィークに長森山から縦走してきたとき以来だ。
六万騎山も、何と言ってもカタクリが有名だ。事前にカタクリが開花したと情報を得ており、今日はむしろこちらの山をメインに考えていた。
すっかり晴れ渡った中、坂戸山の登山口から県道を20分ほどで六万騎山の地蔵尊登山口へ。しかし数台程度しか置けない駐車スペースはすでにいっぱい。もうひとつの庚申塔登山口まで行ってみると、10台ほど停められるスペースはまだ十分空いていた。今日はこちらから登ることにする。
庚申塔の石標の台にヘビが日光浴していて、危うく触るところだった。
草付きの尾根道を登っていくと、すぐにカタクリが現れた。尾根通しに咲き続いていて、見事である。
遊歩道化されている登山道を登っていくと一時寂しくなるが、日当たりのよいやせた尾根筋になると再びカタクリが出てくる。今度はすごい。道の両側に列をなすように咲き並んでおり、斜面もカタクリでいっぱいだ。
まだ開花し始めたばかりと思ったのに、これはもう満開に近いのではないか。これ以上まだ咲くとしたら、満開の時期はすごいことになりそうだ。
標高321mの山頂は、すぐに見えてきた。長森山から続く稜線に合流し、八海山を前景に気持ちよい風を受けながら、少しの歩きで六万騎山山頂に到着する。山名標識は現在工事中のようで、鉄パイプで保護されていた。
登山口からの標高差170mくらいしかなく、県道を走る車の音も聞こえるくらいなのだが、小広い山頂は居心地がよい。北方の眺めが開け、魚野川や魚沼の平野の先、権現堂山や守門岳の雪山がよく見える。
地蔵尊登山口に向けて下る。六万騎山も坂戸山以上に気軽に登れる里山で、軽装で登ってきてお昼を食べている人が多い。
カタクリは庚申塔コースほど咲いていない。しかし花芽はいっぱい見られ、前回長森山から下ったときは、すごい群落で目を見張ったので、花期はこれからだろう。小さな山でも、方角や尾根の向きによってカタクリの開花時期が少しずれているのは興味深い。
下り斜面ではオクチョウジザクラが少し見られた。魚沼でソメイヨシノが咲くのも今年はかなり早いかもしれない。
登山口近くの斜面に、昨日の弥彦山では見られなかったコシノコバイモがユニークな花をつけていた。それに何と雪割草も。雪割草は色合いがあまりにも鮮やか過ぎるので、これらは植えたものなのだろうか、よくわからない。
地蔵尊登山口に下り、車の置いてある庚申塔までは、歩いて10分くらいだった。
昨日の弥彦山とはまた一味ふた味違う、雪国新潟の春の低山であった。歩いている間、「北国の春」のメロディーが頭に何度も浮かんだ。
さくり温泉健康館に立ち寄りした後、平日で渋滞のない関越で関東に戻る。