日々まだ肌寒さの残る中、3月も下旬となった。
新潟の里山は雪割草が花期を迎え、カタクリもずいぶん咲いてきたようだ。新潟というと豪雪地帯で春の訪れが遅いかと思いきや、標高の低いところは雪解けと共にいち早く山野草が咲き始める。
今回は弥彦(やひこ)山で雪割草を鑑賞し、次の日に魚沼の里山に登るプランとした。
弥彦山は、隣りの角田山と同様、日本海の海岸沿いから屹立する低山で、山麓に建つ弥彦神社のご神体の山となっている。また、山野草の宝庫で、雪割草が多いことも角田山と同じである。11年ぶりの登頂となる。
鳥居のある弥彦山山頂。北方に多宝山を望む
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日曜の早朝、と言うか夜中の3時に東京の自宅を出る。高速道路が渋滞する時間帯を避けられたため、運転はスムーズである。
小雨模様の北関東から関越トンネルをくぐって新潟に入ると穏やかな朝日が頭上にあった。越後三山や守門岳など雪山が神々しい。北陸自動車道からは、標高1000m台の米山も意外なほど真っ白な姿を見せていた。
三条燕インターで下り、目の前に大きく鎮座する弥彦山に向かって車を走らせる。弥彦神社の横を通り、細くなった車道を少し登ると、通行止めのガードが置かれていた。が、車はそのガードの脇を通って進入できる。すぐにとんび岩林道に入り、その林道終点である八枚沢登山口に着く。
時間はまだ8時過ぎ。10台も停められない駐車スペースはまだ余裕が有る。10名ほどのグループが準備をしていた。
大きな地図の案内板を見て、自分も出発する。すぐに小さな滝に下りて急階段を上る。前回もこの登山口から登ったようだが覚えがない。人に案内されながらの登山だったため、あまり印象に残ってないのかもしれない。
いきなり尾根状の急登である。予定では妻戸尾根を登り弥彦山頂、下山は雨乞尾根と反時計回りで行く予定だったのだが、その妻戸尾根が分岐するのを見落とし、図らずも雨乞尾根を登ることになってしまった。前を歩く団体について行ってしまったのが原因だ。
すぐにカタクリ、雪割草が見られるが数は多くなく、しかもまだほとんどが花を閉じている。朝早く歩き出すとこういうこととなる。
弥彦山や角田山は海側のコースのほうが雪割草が多いとのことで、弥彦山なら西生寺ルートやこの八枚沢登山口からのルートが今の時期にはよさそうなのだが、今のところちょっと当てが外れている。花見の山行は出発の時間を遅らせるか、または下山時にそういう場所を歩けるようなルート取りをしたい。
途中で先行するグループを抜く。そのグループが後ろで「コシノコバイモが咲いてる」と話していたが、どこだか自分にはよくわからなかった。
雨乞山からの稜線が合わさり、疎林で眺めのいい尾根歩きとなる。西蒲三山縦走と言って、国上山~雨乞山~弥彦山~多宝山~樋曽山~角田山と尾根縦走が可能である。雨乞山方面からはそれと思われる縦走者が何人か歩いてきた。
左手には日本海が見えるようになる。「望佐の梨」と書かれた立派な木があった。文字通り佐渡ヶ島と金北山の白い峰がよく見える。そして進む先には弥彦山のピークが大きくなってきた。道の両側にカタクリが咲き続けているが、まだ気温が上がらず花はほとんど閉じている。
そうこうしているうちに、能登見平に到着する。眺めの開けた平坦な地だ。西生寺ルートが合わさる場所で、ここで稜線を外れ、そちらの方向へ下りてみることにした。
残雪の見られる中、オウレンがそこかしこに群落を作っている。それも、おしべの部分がまだピンク色をしていて若々しい。そして雪割草、まだ花を閉じているのが多いがたくさん見られた。たしかに日本海側に面した登山道は不思議と花が多い。この西生寺ルートを登りにとる人もけっこういて、また自分のように八枚沢ルートを登って寄り道するケースも多いようである。
清水平という平坦地まで下りてきたが、さらに途中の分岐を右に入り、そのまま弥彦スカイラインまで下る。3月いっぱいまでは車の通行が禁止されているので静かだった。道路に面したところにはキクザキイチゲが咲いていた。
もう1本の道に入り清水平まで登り返す間には、雪割草がたくさんあった。
能登見平に戻り、改めて弥彦山を目指す。このあたりからも佐渡ヶ島や米山がよく見える。
高度を上げると残雪が目立ってきた。どこか途中で尾根筋に入る場所があったようだがこれを見過ごし、林道経由で 妻戸山分岐に立った。日本海が青々として気持ちいい。
山頂まではもう一息。すぐ先で下山に使う妻戸尾根を合わせ、アンテナ施設を過ぎる。足元は残雪とぬかるみで足を取られやすくなる。標高634mの低山とは言っても、そこは3月の新潟の山。雪がこれだけ残っていても不思議ではない。
鳥居と社の建つ弥彦山山頂に到着。回り込んで日本海の見える草地で休憩する。とにかく展望がいい。佐渡ヶ島や能登半島、内陸側は越後平野越しに越後三山、守門岳。そして足元は胸のすくような高度感とともに広大な田園地帯が広がっていた。
尾根続きの多宝山と2つのピークを連ねたその様は、何となく筑波山を髣髴とさせるものがあり、山頂からの展望も似ている。
弥彦山の標高は東京スカイツリーと同じ634m。見下ろす平地は海抜0メートルに近いから、標高分そっくりの高度感を味わっているわけで、スカイツリーのてっぺんから見下ろしているのとほぼ同じである。
せっかくなので、北方にある九合目まで往復する。稜線はほぼ雪道だが、半分舗装されたような道だ。
この部分には稜線にいくつものアンテナ施設が立っている。新潟県の各テレビ局やFM放送、防災無線の中継局や気象レーダーがここ弥彦山にあるそうだ。見晴らしのいいところだからここに集中しているのだろう。
九合目には弥彦神社から上がってくるロープウェイがあるため、一般の観光客のほうが多い。それも、家族連れに混じって若い男女のペアがやけに多い。最近は東京の高尾山でも時々見るが、弥彦山は地元の若者にとっていいデートスポットなのかもしれない。
それにしても弥彦山にはてっぺん(九合目)にレストランがあるのは特筆ものである。中は巷のファミリーレストランとほとんど変わらない。
そのレストランの屋上は展望台になっており、ここからの眺めがまた素晴らしい。佐渡ヶ島は全体を捉えることができ、真ん中のくびれた部分の奥にある陸地までもが見える。
花、展望、充実した設備。ここまで至れり尽くせりの山もそうあるものではない。弥彦山はたぶん10人が10人、登ってよかったと感じる山であろう。
山頂に戻り、下山とする。妻戸山を越えて妻戸尾根に入ると急に静かになった気がする。マンサクなど雑木林の密度が濃い、急降下の尾根道となる。
少し高度を下げると雪割草やカタクリが多く見られるようになった。清水平と同じ程度、いやそれ以上に群落が多い。標高400mを切るあたりからは、カタクリや雪割草で斜面が埋め尽くされているところもあり、思わず歩みが止まる。日も高くなったので花はどれもきれいに開いている。
朝、この妻戸尾根に取り付く場所を気づかずに雨乞尾根を登ったのだが、これが結果的によかったようだ。もし朝のうちにこの妻戸尾根を登っていたら、こんなに花を開いた雪割草やカタクリを見れていなかったかもしれない。登りであまり花を見られなかった分、この下山路で一気に取り戻した感じである。
守門岳などの眺めがいい三角点を過ぎて一気に下り、八枚沢登山口に下り立った。
弥彦山に来たなら、やはり弥彦神社にも立ち寄っていきたい。麓の駐車場に停めて、弥彦神社にお参りに足を運んだ。
仕事運のご利益があるといわれるこの神社は、本社の背後にご神体の弥彦山がそびえており、自然と調和した大変に立派な神社だった。地元の人々の心に常にある神社、そして山なのであろう。
神社の脇に絵馬殿があり、休憩所として開放されていたので入ってみる、壁を見ると、大正から昭和初期にかけての絵画や写真が掲げられており、ちょっと異様な雰囲気がある。特に日本海に浮かぶ軍船の写真には、「古志郡・長岡市・三島郡 聯(連)合海盟團(団) 大正十四年八月」とあり、当時の弥彦村や長岡市は軍事面での要衝でもあったのかと考えさせられてしまう。後の連合艦隊司令官、山本五十六が長岡市出身であることも何か関係があるのだろうか。
今日は魚沼で宿泊する予定だが、麓でずいぶん時間をとってしまった。六日町に着いたときはすでに暗くなっていた。