暑い日が続く。週末の関東甲信はゲリラ豪雨に見舞われそうなため、安定した天気を求めて新潟の山に行く。自分の車で山に行くのは1ヶ月半ぶりとなった。
浅草岳は昨年も登ったが入叶津登山口からの道はまだ未踏だ。ブナ名山の浅草岳を語るには、ここや八十里越えのブナ林を見ないことには始まらない。沼の平という秘境もある。
東京からえらく遠く、しかもあまり高い山ではないので暑さを避けるためにも朝早い時間に登りたい。前の日の昼のうちに自宅を出発した。
なお、万が一のプランとして、守門岳の大白川コースも調べておいた。
エデシ付近から守門岳山頂部を望む
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道の駅いりひろせで車中泊する。宵の口は暑かったが、夜明けごろは結構冷えた。
只見町の入叶津登山口まではさらに1時間以上はかかる。魚沼は朝から青空が広がったが、福島県境に近づくにつれ雲が多くなる。奥只見湖を過ぎ、只見の町から国道に入りさらに10分ほど走る。道は地元の人たちが総出で山側の斜面の草刈りをしていた。
入叶津登山口には車が一台。この暑い時期に、ここを登山する人が他にもいるのか。少し安心する。
このルートは7月初旬の只見町による浅草岳の山開きで使われるので、草刈りや登山道整備はある程度行われていると思っていた。しかし登山口に入るとすぐに、草の茂った中の登りを強いられる。朝早く、草はたっぷりの水分を含んでいた。叶津川眺めで尾根状になると藪はなくなり、早くもブナ林となる。白くすらっとした樹林が林立し見応えがある。林床には稚樹がいっぱい出ていた。
しかしそんな好ましい歩きもすぐに終わる。栃ノ木清水というところから先はいっとき樹林が切れ、再び藪となる。日当たりのいい場所はやはり藪が深い。
このまま上の森林限界までブナ林が続いて欲しかったがそうもいかなかった。しかもここから先は藪というよりジャングル化している。スパッツなどは全く役に立たず、膝上、下半身どころか胸から顔あたりまでがずぶ濡れになる。どんよりした曇りで乾くこともない。レインウェアを着て登れば少しは違ったかと思うが、この暑い時期に最初からそれは遠慮したい。
地図ではあと100mくらいでまた樹林帯になるようだが、もうやめた。引き返すことにする。
沼の平分岐までさえ達せなかったのは残念だが、やはりここはもう少し季節の早い時期に出直すことにしよう。
少しだけ見られたブナ林から察するに、ここのブナはすごそうである。通行止めとなっている沼の平への登山道も再訪時には復旧していることを期待して、今日は下山する。頭の中はすでに、もう一つ持ってきたプランに占められていた。
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只見町を抜け、再び新潟県に入る。不思議と雲が取れ、夏空が戻った。浅草岳も新潟側はよく晴れている。
大白川駅の分岐から大原スキー場に上がり、大白川登山口(大原登山口)へ。駐車場にはすでに5台ほどの車。もう9時で日差しギラギラだ、最初からここに来ていれば涼しい中での登山ができたはずだが、まあそれはしょうがない。浅草がだめなら守門岳、とはしご登山できるだけでも贅沢なことである。
大白川ルートは守門岳初訪のとき下山路として以来だ。登りは初めてだがかなりの急傾斜で、下山も大変だった記憶がある。
山菜畑を通って入山するとすぐにブナ林の急登が始まった。ブナは樹皮が白く、他の山で見られるような地衣類による模様がほとんどついていない。日本海側、とりわけ新潟の山のブナはそういう傾向があるがここ守門岳は他のルートもみな白いブナが印象的である。
高度を上げるとブナはますます濃密になり、白さも増してくるようだ。根曲りした3本ブナや直径1mを超える巨樹もあった。
急坂のためブナ林帯はすぐ終わってしまい、エデシの岩峰に出る。ここからは中低木が茂る眺めのいい尾根になり、守門岳も見える。ツツジの低木は葉が赤くなってきたのもある。
それはいいのだが何せ日差しが強過ぎ暑い。時々掴む岩角も熱くなっている。体力の消耗は早く、すぐに休み休みの登りになる。今年の夏はこのパターンばかりで、ゆとりをもって歩けたのは先週の飯豊の稜線部分ぐらいしかない。
低木帯でも日陰を作っているところがあるので何度か腰を下ろす。矮小化したブナがかなりの数あった。ミズナラの高山型はミヤマナラと言うそうだが、ブナの高山型はそのままブナなのだろうか。
エデシ尾根は整備は行き届いているものの、高度感のある岩場の急登が随所にあり、慎重さが要求されるところもある。標高1100mを越えるとようやくなだらかになる。沢の水場に出合い、顔を洗うと冷たくて生き返る感じがした。暑くて三ノ芝で引き返そうとも思っていたが、水を十分補給できたので山頂まで頑張ろうという気になった。
沢から少しで草原帯になり、タカネニガナを見る。藤平尾根との合流点が三ノ芝。1500m程度の山であっても稜線に出れば少しは涼しい。
さらにこの先、かなりの数のニッコウキスゲが咲き残っていた。シシウド、オヤマリンドウもある。さらにイワショウブが早くも見られ、季節の変わり目はすぐそこの感がある。
守門岳に最初に登った14年前は6月初旬で、このあたりはまだ一面の残雪だった。踏み跡がわからず苦労した覚えがある。今は全く雪がなく、まるで別の山に登っているようだ。
守門山頂手前の最後の登りまでは開放的な稜線で浅草岳もよく見える。それでもまだ暑さのダメージが残っていて、木陰で休みながら少しずつ進む。
最後の急登を頑張って登り切ると、守門岳山頂となる。さすがに体力がいっぱいいっぱいで、その場にペタッと座り込む。途中で引き返したとはいえ、浅草岳に登ろうとしたその足で守門山頂に立つと言うのは、やっぱり少し無理筋だった。
山頂も暑いが、360度の展望は相変わらずすばらしい。南に続く守門支稜、浅草岳の向こうには荒沢岳、越後三山が雲に隠され気味だがよく見える。飛び交うトンボは黒光りしたビッグサイズで、飯豊で見たものの2倍はあった。
下山に入る。日照りの急坂が待っているが、手前に水場もあるので気が楽だ。幸い山頂の背後からせり出してきた大きな雲のおかげでエデシ尾根は日陰になり、水の消費もなく涼しい中を下れた。
尾根の下部で布引の滝への分岐がある。時間的には余裕だし踏み跡ははっきりしていたので寄っていくことにした。
しかしこれが、エデシ尾根の急坂に輪をかけた信じられないようなヤセ尾根の下りだった。ここに登山道を作ろうとした人もたいしたものだが、不注意だと真っ逆さまに落ちていってしまいそうなところもあって肝を冷やす。
下りついたところは滝方面と大白川登山口との分岐になっていた。さらに1分ほど下ると、深い谷を隔てて細身の布引の滝が糸を引くように落ちていた。全長100m以上はあるだろう。左背後に守門山頂が望め、紅葉の時は一幅の名画を提供してくれそうだ。
分岐に戻る。あとは登山口まで、ほぼ同じ等高線上の歩きを残すのみだ。しかし始めのうちは片側が切れ落ちたヘツリ道で、転落しないよう慎重に歩く。草で地面が見えないところがあるので要注意だ。
しばらくすると穏やかな道に変わり、豊かなブナ林の中となった。登りのときの急傾斜のブナ林を違った角度からじっくり眺められる。白ブナは真昼のむせ返るような白い光とあいまって、一層白く輝いていた。布引の滝への道は苦労したが、そのおかげですばらしいブナ林で今日の山行を締めくくることができた。
大白川登山口に戻る。再び暑い日差しが戻っていた。車の周りをアブが飛び交っているので、なかなかドアを開けられない。しかし隣に駐車してきた車は4つのドアを開け放して空気を入れ替えていた。
不思議に思い、同じく登山を終えた持ち主に聞いてみると、蚊取り線香をたいているから、と言う。なるほど、アブに蚊取り線香か効果あるのかわからないが、全然効かないということもないだろう。今度試してみたい。
守門温泉に立ち寄って、帰途につく。