魚沼の山の紅葉を見ようと、いい場所を探す。
今年は紅葉のペースが早いので、標高1000mくらいでも既に見頃かもしれない。唐松山、権現堂山を考えたが直前になってもう少し高いところのほうが確実と判断、会越の浅草岳まで足を伸ばすことにした。
この山にはヒメサユリの季節に2度、登っている。今回は初めて、福島県側の田子倉から只見尾根で行く。
只見尾根から見上げる、秋色の浅草岳 |
東京からはやはり遠い。前日に道の駅いりひろせまで入っておいたが、翌日も六十里峠を越えるなどしたため、田子倉登山口へはさらに1時間近くかかった。
駐車場は線路の手前と向こう側にあり、手前に停める。六十里峠付近も、ここ駐車場を取り巻く岩壁もすでに、色とりどりの紅葉に包まれていた。低い雲が垂れ込めているが、朝日で赤く染まった浅草岳が大きく望めた。上空はおそらく晴れているだろう。
登山道に入るとしばらくは木道が続き、只見沢を木の橋で渡ると緩やかな登りになる。大きくはないがブナの樹林帯があり、爽やかな森の道である。
小沢を何度か渡ると、いよいよ只見尾根の本格的な登りだ。地図を見るまでもなくここは急登の続く道として知られている。過去来た時、山頂から見下ろす絶壁のような只見尾根が強く印象に残った。
色づきもピークに近いブナ林には「クマの爪跡」というぶっそうな名前が付けられている。そこからひと登りで樹林帯を抜け、明るい岩の稜線上の展望地に出た。足元には広大な雲海が遠くの地平線まで埋めつくしている。そして薄いガスを透かして青空と浅草岳、そして紅葉に彩られた灌木帯の尾根道が、その山頂へ伸びていた。
一休みしてからその錦繍の道へ。しばらくは緩やかな斜度で、雲海から顔を出したダイナミックな鬼ヶ面山の岩壁を見ながらの、気持ちのいい歩程である。
すぐにガスを抜けて雲海の上になるかと思ったが、ガスが上がってくるのも早く、自分の登りのスピードとの競争になる。剣ヶ峰から少し下って再びの急登が始まると、いつしか雲海は遥か下になって、クリアな眺めが広がっていた。
中腹のヤセ尾根てブナが再び現れ、今度は「熊合せ」という文字が書かれていた。昔、マタギがここで熊狩りをしたとのことだ。
しばらくは只見尾根の一番きつい登りとなる。岩場には固定ロープがつけられており危険度は少ない。次第に目の高さにまで下がってきた鬼ヶ面山の稜線、遠く越後三山や燧ヶ岳の姿に励まされて高度を上げる。
あれほど分厚かった雲海も、日が高くなり気温が上昇するにつれまだらになり、眼下に田子倉湖も見えるようになった。空気は温められると、それまで空中に浮かんでいた水蒸気をどんどん取り込んでいくので、雲海は消えていく。 その代わり湿度が上がり見通しが悪くなる。
浅草岳山頂から前岳まで、草原帯を歩く。遠景は守門岳
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守門岳を見ながら |
鬼ヶ面山の稜線の向こうにも、奥只見の山々が波打つようにひしめく
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波打つ山稜 |
只見尾根を上部から見下ろす。剣ヶ峰付近には隕石でも落ちた跡なのか、大きな穴が開いているように見える
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大きな穴が? |
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見下ろす稜線 |
樹林帯上部の展望地まで下り、稜線上の紅葉もここが見納めとなる
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紅葉も見納め |
田子倉の登山道入口からは、浅草岳が大きく見上げられた
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見上げれば浅草岳 |
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薄茶色に染まった浅草岳頂稜部の草原が見えてくると標高もそろそろ1500mを超えて最後のひと登り。登山者で賑わう浅草岳山頂に到着する。
反対側の福島の山も見え、大展望である。田子倉湖側の南面の眺めは登りでずっと見てきたが、山頂からだとやはり高度感が違う。見下ろす位置になった鬼ヶ面の稜線の先には幾重にも連なる山並み、そして越後駒や八海山もよく見える。
ただ狭い山頂は人がいっぱいで落ち着かず、少し休んだのち前岳方面まで足を延ばすことにした。
鞍部の湿原に下りると浅草岳の兄弟分である守門岳が雲を被っている。昨年の初夏に守門岳に登ったときは、山頂から見る浅草岳は雲の中だった。今日は反対である。
木道を歩いて前岳の肩で引き返す。ヒメサユリの6月は、この辺りはまだ一面の残雪だった。今は木道の上を歩くので気が楽だが、木道も滑りやすく、どっちが歩きやすいかということはない。
山頂に登り返して、来た道を下山する。登っているときは、注意が必要そうな岩場の下りが箇所がいくつもあったように思ったが、実際下るとそれほど難儀なところはなかった。
雪の多い地域の山でこれほどの急峻な登山道にしては、すごく整備が行き届いていて感心する。それは特に下りで実感する。ただしスリップは厳禁であることは変わらない。
雲海もすっかり消え去り、登りでは見えなかった谷深くまで今は覗き込めるので、高度感たっぷりの爽快なヤセ尾根下りである。
剣ヶ峰で鬼ヶ面岩壁を見ながら小休止。このあたりまで高度を下げると、潅木の紅葉もきれいでなかなか先へ進めない。
樹林帯へ潜る前の最後の展望地で浅草岳と鬼ヶ面を見納め、後は一気に下る。
田子倉登山口で振り返ると登り同様、秋色の浅草岳が高くそびえていた。浅草岳は初夏のヒメサユリだけでない、秋もまた素晴らしい景観を示してくれる山であった。
車で再び六十里越をして帰路に着く。小出に近づき、国道から少し入ったところの日帰り温泉「神城温泉倶楽部」に立ち寄った後、道の駅ゆのたにで新米の魚沼産コシヒカリを購入。この買い物は、秋に越後の山に来たときの楽しみのひとつである。
道の駅ではぽぽさんに偶然出会うなど、楽しい魚沼の秋の1日であった。