~錦秋の北アルプスを心ゆくまで~ 上高地-横尾-涸沢-北穂高岳-パノラマ新道-上高地 |
●あでやかな紅葉と白い岩峰群 (10/5、涸沢周辺) 寝ている間、テントを雨が打つ音を聞いた気がした。夢なのかなと思ったが、翌日の明け方、はっきりと雨音がした。 天気予報ではたしかに、金曜の夜から土曜の朝方は雨だった。珍しく当たっている。だから雨が降ったのだろう(?)。 穂高の稜線には低い雲が垂れ込めているが、今日土曜日はおそらく、すぐに天気がよくなるはずだ。屏風の耳の横から朝日が差し込んで来て、岩峰の中腹だけを赤く照らす。不思議な光景だ。 カールからも涸沢ヒュッテのテラスからも、大勢の人がカメラを向けている。さすがに今日は、頑丈な三脚や中判カメラを持っている人が多い。ビデオを回している人もいる。 朝日の線は、角度の関係で中腹から下には下りてこない。カールの紅葉に日が当たり始めるのは、前穂北尾根の上から太陽が顔を出すのを待たねばならない。 7時近くになって、涸沢にもカール全体に日が当てって来た。写真をいっぱい撮って、天気がよかったら北穂高岳に登る予定だ。北穂に登る前に、まずパノラマコースを少し上がってみる。カール正面に広がるナナカマドの道で、奥穂高岳に通じている。 登るにつれ、涸沢槍・涸沢岳が大きくなってくる。ナナカマドの葉は近づいても真っ赤だ。 見晴台という岩の突起に立つと涸沢カール全体を見下ろせる。涸沢小屋の方向、北穂東稜下部のダケカンバが日に照らされ、黄色く輝いている。 テントに下りる道でもう一度振り返ると、稜線に涌き出ていた雲が取れている。もう一度来た道を登り返す。真っ青な空と白い岩峰群、赤と黄の帯、まるで原色の絵を見ているようだ。
●北穂南稜を登る (涸沢~北穂南稜の背) 北穂への登り始めは10時近くになってしまった。ナナカマドの赤が続き、背後に前穂がどんどん大きくなってくる。しかしこの登りは急だ。往復4時間もかかるのに水平距離にして3kmあまりしかない。ガレ、岩ザク、スラブ状の岩、鎖場も長い。 前を登る女の人は、足場をなかなか見つけられないで苦労している。奥穂高への登り(ザイテングラート経由)に比べるとずっと険しく思う。 南稜の背に上がり、開けた岩尾根を登って行く。カールにへばりついている無数のテントの花は、米粒のようだ。 標高3000m付近、ちょっと動いただけですぐにハアハア言うようになり、空気が薄くなってきているのがよくわかる。しかしこんな高所にテント場があり、1張り張られている。水は担ぎ上げているのだろうか。涸沢の喧騒を見下ろし、ここは何と静かなテント場だろうと思う。 ふと右手を見ると明日登る予定の屏風の頭、そして北穂東稜のゴジラの背がいかつい。その向こうに常念山脈から蝶ガ岳への稜線が広く横たわっている。
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