翌朝、すがすがしい空気に満たされていた。
天狗岳へは14年前と逆コースで行く。まずは昨日と同じく夏沢峠へ。
早朝のシラビソの森は独特の雰囲気がある。朝日が木の幹と幹の間から何本もの光の線となって差し込み、緑の苔を輝かせる。
昨日は思いのほかきつかったこの道も、心を新たにして登るのでさほどつらさは感じない。
東天狗から、広大な雲海を望む。雲海から浅間山などが顔を出す [拡大 ]
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樹林の切れ間から、下界が覗いた。下界というより雲が見えただけだ。これは東のほうは規模の大きな雲海になっていそうである。
夏沢峠に上がる。風はそれほどでもない。思った通り、佐久方面にすごい雲海が広がっていた。奥秩父山塊も雲に没しているので、本当に雲だけの眺めだ。金峰山の標高は2599mだから、ここ夏沢峠よりも高い。自分より高い所にある雲を見下ろしているような、不思議な視角である。
再び樹林の緩い登り。大きなザックの人を追い越す。テント背負って黒百合平、あるいはもっと先まで行く予定だろうか。
自分は八ヶ岳をテントで稜線縦走したことはない。純粋に展望を楽しみたいので、軽い荷物で歩いてばかりだ。北アルプスとは歩き方が違う。
箕冠山の山頂もシラビソの森の中だが、木々の間から展望のいい山頂がいくつも見えている。下っていくと一転、砂礫の展望地へ。根石山荘の向こうには中央アルプス、御嶽山、そして今日は北アルプスも見えている。
浅間山や黒斑山が雲海に浮かび、まるで大海原に浮かぶ島のように見える。金峰山もいつの間にか雲海から顔を出していた。東は雲海、西の茅野市方面は平野が見えているのはよくあるパターンだ。
根石山荘のコマクサはもう終わり、草だけが残っていた。昨日硫黄岳で見られたトウヤクリンドウもない。14年前の同時期は、トウヤクリンドウがこのあたりいっぱいに咲いていて、コマクサも咲き残っていた。今年は全体的に季節が前倒しになっていたのか。
オーレン小屋からの登山者も含め、根石岳山頂は人であふれていた。砂礫の地からの眺望がさらにダイナミックになる。岩の積み重なった最高点は、天狗岳より眺めがいいかもしれない。
鞍部に下って、天狗岳は岩の多い登りとなる。若い人でも岩場に苦労している人もいる。自分はこれまで何度か歩いた経験がよみがえり、がぜん元気が湧いてきた。鉄製の橋も軽快に通過して、東天狗山頂に到達する。
東天狗は冬も含めて何度も登っているが、やはりここからの眺めは格別。北アルプスが鹿島槍、白馬岳まで全部揃っている。
今日は西天狗のほうも登っておく。東と違い丸っこい山頂は、冬は360度展望の地だが、今の時期はハイマツ越しの眺めになる。それでも東より少し北アルプスに近づいたので、その分大きく見えている気がした。
茅野市方面から、雲が湧き上がってきた。今日は風が強くないので、次第に八ヶ岳それぞれの峰も雲がまとわりついてくる。今日の山の天気は、いつものように午後にかけて下り坂だろう。
東天狗、さらに下って本沢温泉への下り口まで行く。白砂新道を下って本沢温泉へ戻る。
この道は前回は登りにとったが、夏沢峠の道と比べて急坂が多く、登山道も荒れ気味だ。実際下り始め、ダケカンバが斜めに伸びて登山道を寸断していたりで、危険度が高い。
今回は今までずっと足元に不安のない道ばかりで、ここにきて初めて緊張する歩きとなった。
ダケカンバ帯が終わりシラビソ、コメツガの針葉樹林の森に入ると、斜度も緩くなって落ち着いた道になった。それでもこれまでの道に比べれば険しさはワンランク高い。
目印に「本沢温泉」「白砂新道」と書かれたピンクテープがペアで木にかかっているのを何度も見る。道がクネクネ曲がり、はっきりしないところが多いためか、テープの数は尋常ではない。それこそ10~30mくらいの間隔でテープがついていた。
白砂新道の距離は1.5kmくらいなので、30m間隔として単純計算すると、何と5000箇所にテープがついていることになる。下部ではもう少し少ないだろうが、それでもこれだけテープをつけるのは大変な作業だったろう。
方向を間違えないように注意しながら高度を落とし、「本沢温泉まで20分」の標識を見る。沢を2回渡り、ようやく建物が見えてきた。白砂新道を1時間、本沢温泉そしてキャンプ場に到着する。
昨日、今日と快晴・絶景の八ヶ岳を堪能することができた。もしかしたら今までで一番の八ヶ岳ブルーだったかもしれない。テントの前で昼食にしてから、撤収し下山となる。
帰路も林道を下っていくのみ。樹林越しに見上げる空は青い部分がいつしか減って、稜線は雲に覆われていた。8月下旬ともなれば、日の差さない1600mの登山道は少し肌寒い。今年の夏山もこれで終了である。
高度を落としていくと再び青空が大きくなる。ゲートで今回最後の休憩をする。最後のひと踏ん張り30分、本沢温泉入口に戻ってきた。昨日に比べて車はずいぶん減っていた。
帰りは行きとは反対に、北側へ下りていく。舗装道路がありがたい。ところどころで眺めが開け、今年最後の夏山を目に焼き付けていく。
稲子湯を通過してどんどん高度を落とし、八峰の湯に立ち寄っていく。八千穂高原ICから高速に乗る。今後はこのルートが八ヶ岳アプローチのメインになるかもしれない。
2021年の夏山は、2日間続けての、超絶展望で締めくくることができた。8月は雨の週末が連続して中だるみもあったが、北アルプスと八ヶ岳でテント泊できたので全体的には上出来である。
来年こそはコロナが治まり、もっとのびのびとした夏山山行を期待したい。