7月の4連休は天気の悪いのもあったが、まさかのステイホームでどこにも出かけられなかった。自分だけではなく、巷の登山者はみな同じだったようだ。
なかなか梅雨が明けない今年だが、8月最初の土日はようやくお日様が主役になってくれそうだ。ここを逃すと、次はいつ出かけられるかわからない。行けるうちに行っておくことにした。
今年の北・南アルプスは山小屋どころかテント泊にも予約が必要なところが多い。どっちみち土日ではあまり遠出はできない。通い慣れた八ヶ岳とする。
赤岳鉱泉は8月より小屋の営業が再開された。一方行者小屋は今年、小屋の営業はなく、テント泊のみとなっている。売店もやってないらしいのでちょっと不便かもしれないが、かえって空いているのではないかと思い行者小屋をベースとする(しかし実際はテント設営地は満員だった)。
行者小屋テント場から、梅雨明けの赤岳 [拡大 ]
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土曜日の暗いうちに家を出発、中央自動車道を飛ばす。東京都から都県境にかけては激しい雨、山梨県に入っても厚い雲となっていたが、雲の切れ間から南アルプスや八ヶ岳の峰々が覗いていた。低い雲海の上は晴れているようで、期待が膨らむ。
登山口の美濃戸口に着いたのは5時過ぎ。早めの到着と思っていたが、150台近く収容される駐車場はすでに7割がた埋まっていた。久しぶりの夏山を期待して、早朝から歩き出した人が多いようだ。
登山届を投函してから出発。久しぶりの重い荷物だ。しばらくは林道を歩く。美濃戸まで車で入れるが、ここはいつも歩くようにしている。
昨年の台風や大雨で壊れてしまった橋も、今は立派なものに付け替えられた。林道をショートカットする登山道を登っていく。林の中は思った以上に涼しい。林道は美濃戸まで行く車がひっきりなしに通る。
山荘の立ち並ぶ美濃戸に着く。今年は休業しているやまのこ村の建物の上には、阿弥陀岳が朝日に輝いている。赤岳山荘のほうはやっていた。駐車場は満車近い。ここの駐車料金は1日1000円と高く、日帰りの利用が多そうだ。
美濃戸山荘からは、赤岳鉱泉に至る北沢ルートを分けて南沢に沿って行く。北沢ルートがまだしばらくは林道なのに対し、こちらはここから土の道である。ゴールの行者小屋は赤岳鉱泉より標高100m以上高いので、当然こちらのほうが歩きでがあるし、体力を使う。
堰堤を越え、木の橋で南沢を渡る。ホテイランの咲く場所があり、「ここにホテイランが咲きます」との紙が吊るされていた。以前はこんなものはなく、自分は15年前の6月、ここがホテイラン自生地であることを人から聞いて見に来た。今はずいぶん情報がオープンになった。
登山道は緩やかに高度をあげつつ、南沢を木橋で何度も渡り返す。石ゴロ、木の根の張り出し、崩れやすい斜面など、なかなか険しい登山道だ。
北沢ルートを選んでいれば、まだ林道をのんびり歩いている時間だ。美濃戸口から行者小屋まで標高差900mほど。行者小屋~赤岳間よりもずっと高度差がある。
常に南沢の大きな沢音を聞きながらの歩きだが、眺めが開けることはなく、シラビソの深い森の中を淡々と進む。よく言えば静かで落ち着いた道、裏を返せば単調でつまらない登山道、ということになる。
登山者は前後に多い。行者小屋に行くならテント装備ばかりのはずだが荷物の小さい人も多い。おそらく赤岳天望荘に向かう人だろう。他に日帰りのランナーも何人も見かける。
形のよい滝を右に見ると、やや視界の広がった沢沿いの道に出る。登山道脇に累々と積み重なる石からは、強い日差しを受け盛んに湯気が出ている。沢沿いとシラビソ林帯を交互に歩いていき、ようやく白河原(しらっかわら)という開けた河原に出た。正面遠く、横岳と思われる岩峰がそびえている。稜線の後ろにはすでに、雲が背高く湧き上がっていた。
下山してくる登山者ともすれ違うようになり、急に人通りが増えて賑やかになってきた。さらに進むと赤岳も視界に。河原の末端から台地に上がったところが行者小屋だった。最後は左膝に痛みがきてしまったが、久しぶりのテント装備でそれなりの標高差を登ってこれた。まずは一安心だ。
行者小屋は営業されておらず、テント泊のみ。スタッフの姿も見かけないのでテント受付をどうしていいのかわからない。とりあえず先に設営してしまおう。
しかしまだ9時なのに、テン場はすでにかなりの混みようだ。以前も同じようなことがあった。夏山シーズン土日の行者小屋テン場は、午前中でほぼいっぱいになってしまう。
今年は、北アルプスのテント場は予約制の方が多い一方、ここは予約が不要であることはありがたい。でも八ヶ岳全部のテン場がそうではないらしく、白駒池などでは予約がいるらしい。今年は非常時であるとはいえ、テントは予約制が必要なのか、疑問があった。
前回と同じく、林の中の奥まった場所に幕営する。正面に赤岳が大きい。まだ昼前だが、膝の痛みがあるため今日の行動はここまでとする。売店がないので酒やビールは自分で担いできた。
眼上の赤岳、横岳、阿弥陀岳は雲に隠れたり、日に照らされたりを繰り返している。山と雲、空を見ながら長い時間を過ごす。こんなに山でのんびりできているのは久しぶりだ。下界のコロナ感染のことを一時忘れられるし、マスクもしなくていい。
でもこのまま夕方まで過ごすのはやはり時間を持て余すので、手ぶらで中山乗越を往復する。展望台からは赤岳や阿弥陀岳が大きく見えた。
行者小屋のトイレは外トイレで、手洗い場にはハンドソープのほかにハンドジェルも置いてある。ここは水が豊富だから安心だが、稜線上の水の乏しいテン場は衛生面で気になるところがある。また、個室は不特定多数の人が入れ替わり入ってくるので、時間差ではあるがこのテン場で唯一の「三密」の場となる。マスクをして入った方がいいと思った。
小屋前のベンチにも、多くの人が集っている。皆気持ち的に解放されているのか、リラックスして大きな声での会話もはばからない。そう、ここは東京ではないのだ。普段の都内で見られている緊張感がまるでない。こういう風景を見ると、屋外と言えども若干不安になってくる。
テントで寝ていいたら、小屋スタッフの人がテント料の集金にやってきた。テント1つ1つ回っているようだ。さすがにマスクをしていた。
明日は晴れてくれるだろうか。夕方の低い雲がそのまま残り、夜空に星は現れなかった。