●二岐温泉
二岐渓谷、自分はこの地名をつげ義春氏の同名の漫画で知っていた。登山ガイドを読んで二岐(山)の名を見たとき、これはぜひ行ってみたいと思った。
二岐温泉
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二岐温泉大和館
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二岐温泉は秘湯と言われているが、今はシーズンとなれば多くの客で混み合う。紅葉の季節を選んで、平日を挟んで訪ねてみた。今回は山登りもそうだが、温泉や渓谷の風景を楽しむのも大きな目的だった。
この二岐山、男岳と女岳の双耳峰が特徴的だ。まるで2つの山をくっつけたような、乳房にも似た姿には謂れがある。昔、とてつもない大男がいて、それがこの山をまたいだときに股間のモノが山に当たり、2つに分かれてしまったとか。
ただし、この地の「二岐」という名の由来は、山からではなく、むしろ温泉の方から来ているようだ。
昔、ある賢者が天皇の命を受け霊泉を捜し、ついに発見した時疲労で倒れ亡くなった。傍らにいた従者が、その賢者の股の間からお湯が涌き出ているのを見て、二岐(二股)温泉と名付けたそうだ。
7つある温泉宿のうち、大和館(やまとかん)に宿泊した。岩風呂風の温泉は無色透明でほのかな香りがある。源泉が46度近くあり、(おそらく)うめていないのでかなり熱い。露天風呂のほうは川のすぐほとりにある。男女の別はないが、女性専用の時間帯が設けられている。
ここの露天風呂、二年前までは川の向こう岸にあり、板張りの橋を渡って入るようになっていたそうだが、台風の影響で橋が流され、こちら側に作り直したそうだ。向こう岸を見るとたしかに、石で出来た湯船らしきものが落葉で埋まっている。
野趣あふれる露天風呂は温度もちょうどよく、とても気持ちがいい。
また、大和館隣りの湯小屋旅館も、昔そのままの建物で味わいがある。
北登山道の紅葉
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●北登山口から360度パノラマの山頂へ(北登山口~女岳~二岐山(男岳))
さて翌日もよい天気だ。宿の人が北登山口まで車で行ってくれるという。急坂の続く北登山口を避け、ほとんどの人が南登山口から登る。登山ガイドも多くは南からだが、宿のご主人によると、ここは北登山口から登るのが正式なコースだそうだ。登山コースに正式なものとそうでないものとがある、というのは初めて聞いたが、これも話のタネだと思って、北登山口まで車で送ってもらうことにする。
北登山口の林道付近は見事な紅葉だ。山道に入るとすぐに鳥居があり、そこから登ることになる。ここの取り付きは、アルペンガイドに描かれている地図に比べると、もう少し手前(東寄り)に位置しているように思える。
しばらくはなだらかな傾斜の道をのんびりと歩いて行ける。あたりは黄葉の回廊である。朝のすがすがしい空気に身も心も清められる。
二岐山頂上
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二岐山頂上からの展望
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だんだんと傾斜がきつくなり始め、ロープの張られる場所も増えてきた。やがて周囲の木々の葉付きもまばらになり、背後に展望が得られてくる。かなりきつい登りだ。この急傾斜を登山道はほぼ直線に付けられている。手をつき、ロープにつかまってやっと体を引き上げる。そんな状態がかなり長い間続く。この坂は下りも大変そうだ。いやかえって下りの方が危険が大きいようにも思える。
胸ポケットに入れておいた登山ガイドのコピーがいつのまにか無くなっている。
あえいだ末、やっと祠のあるピークの一角にたどり着く。北側の展望が広い。眼下に風力発電用の白い風車がいくつか並んでいる。双耳峰のひとつ、女岳山頂はこのすぐ先だ。
しばらく平坦な道を行き下る。男岳への登り返し。これはさほどきつくなく、シャクナゲの葉の茂る男岳山頂だ。360度ぐるりと一周、福島県の山が見渡せる。
登山ガイドのコピーを落してしまったため、いっしょに綴じておいた展望図で山座同定が出来ないのが残念だ。南側に小白森山、旭岳。北に猪苗代湖が見える。その向こうは吾妻連峰だそうだ。
山々は皆、オレンジ色か茶色で冬支度に入っている。こういう風景を見ると、夏色の緑の山が恋しくなる。
最初は山頂にひとりだったが、やがて南側から続々と登って来て、たちまち10名以上に。やはり北側を登路に取ったのは自分だけだった。
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