山の写真集 > 東北 > 額取山から大将旗山
  • -郡山と会津を結ぶ縦走路-
  • 滝登山口-額取山-大将旗山
  • 猪苗代湖周辺
  • 福島県
  • 額取山(1009m), 大将旗山(1056m)
  • 2013年5月5日(日)
  • 8.6km
  • 4時間25分
  • 569m(滝登山口-大将旗山)
  • ホテルアルファーワン郡山(前日泊)
  • 御霊櫃荘 北の湯
  • マイカー
天気1

 

地図
2013年5月5日(日) 前日泊
18:00 ホテルアルファーワン郡山 6:15
  県道6号,29号
県道長沼・喜久田線
滝登山口 7:15
7:42   熱海コース分岐
8:37 額取山 9:05
9:20 小ピーク
9:35 指導標
10:00 大将旗山 10:40
11:50 額取山 12:10
12:50 熱海コース分岐
13:10
滝登山口
  県道長沼・喜久田線
県道29号他
御霊櫃温泉立寄り
16:10 郡山南IC
  東北自動車道
北関東自動車道
19:50 大田桐生IC
  国道50号他
20:30 パークイン桐生(泊)

 

郡山市から西、郊外の田園地帯の先にそれほど高くない山稜が壁のように続いている。南北に連なるその山容は穏やかで、今日登る額取山(ひたいとりやま)と大将旗山は(たいしょうはたやま)その主峰である。額取山は市民の間では「安積(あさか)山」と呼んだほうが通りがいいようだ。
2004年に額取山に登ったとき、山頂から大将旗山への伸びやかな稜線を目にしていた。ここはいずれ必ず歩きたいと思ったので、今回ようやくそれが実現する。

前日の蓬田岳・一盃山へ 翌日の鳴神山へ

この山稜は福島県の中通りと会津地方との境界をなしており、ちょうど日本の太平洋側と日本海側を分かつ上越国境稜線のように、ここが福島県の天候的な分水嶺になっている。稜線は強風が吹くことがあり、天候の見極めが大切な山域である。


大将旗山から額取山の間は、展望のいい爽快な縦走路となっている

滝登山口の注駐車場

駐車場

背の低い笹の稜線は歩きやすい

まだ冬枯れの尾根道

ショウジョウバカマ(額取山直下)

ショウジョウバカマ

額取山山頂。強風が吹き荒れるため樹林が生育せず、展望360度。左奥が大将旗山

強風の山頂

大将旗山目指し縦走路を進む

縦走路へ

キクザキイチゲ

キクザキイチゲ

縦走路はいくつかの小ピークを越えていくが、急登・急下降はなく穏やかな道が続く

小ピークを越えて

大将旗山山頂

大将旗山

大将旗山から磐梯山と猪苗代湖を望む

磐梯山と猪苗代湖

早朝、郡山のホテルを出て車で西進する。向かう山稜には雲が被っている。あれっ、ちょっと降っているのかな。今日はゴールデンウィーク中、一番天気のいいはずの日である。
山村に分け入っていき、滝集落の畑地を走る。芽吹きの緑と桜が目に鮮やかだ。農道を車で入っていく。そう言えば9年前はここを歩いていった。登山口まで、のどかな農道をのんびり歩いてアプローチするのが福島の山の魅力でもある。ここを車で足早に通り過ぎてしまうのはもったいない。
未舗装のでこぼこ道を少し通って、5台ほどの駐車スペースがある滝登山口に着く。登山口を挟んで少し進んだ先には、もっと車を停められる広場があるようだ。

上空でゴーゴーと、風がうなりを上げている。風は最も避けたい山なので、大丈夫だろうか、不安が頭をよぎる。それでもとにかくスタートする。
登山口の川沿いは淡い新緑がきれいだったが、登山道入口の緩い坂を登っていくにつれ芽吹きは薄くなる。足元にはまだシュンランも咲き残っているくらいだから、さすがここは北の山である。
福島県中通り、浜通りの山は南関東の山と咲く花の種類はあまり変わらないように思う。違うのは個体数と咲く時期だ。
単調な登りが終わると自然林の中となり、周囲はほとんど冬木立とはなる。しかし雰囲気はよく、山の深さを感じる。磐梯熱海コースを合わせると、まだ見上げる位置にある額取山山頂に向けての尾根歩きとなる。展望は乏しいが細かなアップダウンがあり、変化のある道だ。
そしてカタクリの花が現れ始めた。9年前と同じ、道の真ん中に咲いていたりする。誰かが花の周りに小石を置き、うっかり踏みつけることのないようにしている。このあたりのカタクリはもう咲き終わり気味だが、標高を上げればもっと見れるであろう。

樹林の背が低くなり、周囲は低潅木が目立つようになった。風がうなりを上げている。額取山の標高は1000mを少し越えるくらいであるが、この程度の高さで森林限界の様相を呈しているのは珍しい。これも風の強い山域である証であり、穏やかな気候の南関東の山と性質を大きく異にする。
潅木の下にはショウジョウバカマがたくさん咲いていた。岩棚に上がると、春霞の中、安達太良山が見えた。そして中通り地域の広い平野をそれこそ一望のもとに見渡す。山頂は目と花の先である。
風の強さは最高潮に達し、一応空は青いもののほとんど台風状態の中、額取山に到着する。磐梯山や猪苗代湖を望む360度の展望もそこそこに、わずかに生える潅木に身を隠す。風が強くて息もしづらいのだ。

ケルンのある西側の最高地点に行ってみるが、風に足をとられ、ヨロヨロと数メートル動いてしまった。体重78キロの自分が風に飛ばされそうになるのだから、想像を絶する強風とはこのことである。かよわき女性は山頂下まで落っこちてしまうかもしれない。
大将旗山への縦走は、その風上に向かって、まずはガレ場の急坂を下らなければならない。とてもそんなことはできそうもない。せっかくここまで来て山頂ピストンで終わってしまうか・・・と考え始めたとき、風にあおられよろめきながら、縦走路から一人の女性が登ってきた。こんな状態の中を登ってきたのにびっくり。見れば上下とも完全冬山、防風装備である。
自分はこの間の守門大岳の学習のかいなく、今日も冬用の帽子を持ってきていなかった。

それでも、縦走してくる人がいるのだから、この山頂さえ注意深く下れば何とかなるかもしれない。一瞬風が弱まったのをきっかけに、急なガレ場に足を踏み入れる。数分で風の弱まった場所に下り着くことが出来た。ホッと一息である。

御霊櫃峠から大将旗山までは、1時間ほどの眺望のいい登山道が伸びている

御霊櫃峠方面

縦走路は風の吹き込みにくい南面に若干樹林が生えている

明るい笹の道

風が強いため、まるで冬山のような防風装備で歩く人が多い。右奥が額取山

防風対策

雪が溶けたところにはカタクリが咲く

カタクリ

縦走路には一部残雪あり。額取山への登り

残雪あり

樹林帯の道端に咲くカタクリは、小石の柵で囲われている

小石で囲って

滝集落にある弘法清水。弘法大師がここに泉を湧かせたという言い伝えがある

弘法清水

麓の滝集落から額取山を望む

滝集落の風景


すぐに残雪の上を歩くようになる。雪の溶けたところにはカタクリやキクザキイチゲが可憐な花を咲かせていた。縦走路から先は、郡山の山というよりは、残雪の会津の低山の趣きである。太平洋側から日本海側に移ったように、これだけ雰囲気がガラリと変わるのも珍しい。
その先、時々強風は吹くものの道は至って穏やかで、残雪歩きも楽しんで通過できる。磐梯山が大きく望め、キクザキイチゲが随所で見事な花をつけている。
しかし、上空には大きな雲が太陽を遮っていて、なかなか日差しが届かない。周囲は青空で郡山の麓の平野も明るくなっているのだが、こちら山の上はずっと曇りである。

小ピークを2つほど越えていくと、進む先にいよいよ大将旗山が大きくなってきた。登山者も次第に増えてくる。やはり標高の高い御霊櫃(ごれいびつ)峠から大将旗山に登頂後、この縦走路を歩いてくる人のほうがずっと多い。額取山から来るほうが少数派である。
すっきりした尾根歩きから、大将旗山への最後の登りになる。風の影響の少ない南東側には少し樹林が生育している。しかし高度を上げるにしたがい再び風が強まり、大将旗山山頂に出たとたん、ものすごい風をもろに受けた。展望を写真に収め、山頂裏側の樹林帯へいったん退却する。
腰を下ろし軽食を取りたいので座れる場所を探す。少し戻ったところに郡山市方面の眺めのいい場所があったので休憩する。

風が弱くなったところで再度、大将旗山山頂に足を運ぶ。何しろ9年越しの待望の山頂である。西側はるか下に御霊櫃峠の駐車場らしきものが見え、車がたくさん停まっていた。登山者もどんどん登ってくる。御霊櫃峠からここ山頂までのルートは展望がよく、手っ取り早くこの山稜を楽しむなら峠からの往復がよい。
大将旗山からは磐梯山が大きく、猪苗代湖もさらによく見えるようになったが、展望としては額取山のほうに軍配が上がる。

車なので、来た道を戻らねばならない。縦走路を歩き返すことになる。この稜線にもようやく日差しが降り注いできた。往路とは違い、明るい尾根道歩きとなった。縦走はやはりこうでなくちゃならない。
残雪は輝きを増し、カタクリなどの花も春の日を楽しむかのように生き生きとしてきた。早足で歩いてしまうのが惜しく、写真を撮りながらゆっくり歩く。
額取山に到着。風は先ほどに比べるとずいぶんと弱まった。安達太良山などの眺めを目に焼き付け、下山とする。滝登山口までの樹林帯の道も暖かい春の雰囲気に満ち、輝きを取り戻していた。

高度を落としていくにつれ、周囲はは鮮やかな新緑となってきた。登りのときと同じものを見ているのだが、これほど緑鮮やかだったろうか。新緑のペースは別に昼間止まっているわけではないから、たぶん自分が上に登っていた数時間の間にも、ずいぶん新緑が進行したのではないかと思われる。満足度の高い縦走だった。

滝登山口から林道を走り、広い畑地に出る。一部田植えが始まっていた。弘法清水という水場の脇に車を停め、しばらく農村の風景をぼんやりと眺める。心が静まっていくのを感じた。
行きにも思ったのだが、山登りの魅力のひとつにこうした日本の原風景を見て歩くことがある。自分も9年前、この福島の山を歩いて実感していたのだ。その後、車によるアプローチで見逃してしまっていた風景もたくさんあったに違いない。何もそう急ぐことはないのである。
福島の山は自然を楽しむことの本来の楽しさを思い出させてくれたような気がする。集落から国道に向かう道から振り返って見た額取山~大将旗山の稜線は、集落の佇まいと見事に調和していた。これこそ日本人が忘れてしまった風景である。
しかし、そんなのどかな集落の道には「線量ゼロを目指して除染作業中」の看板が立てられており、この国の現実を思い知らされた。

アトピーに効用ありという御霊櫃温泉は、昼間でも薄暗く静かで冷え冷えとした、昔ながらの宿だった。けっこうお気に入りな温泉となったが、こういった昭和時代の宿も今はめっきり少なくなってしまったような気がする。

楽しい福島の2日間だったが、新緑の山をこのゴールデンウィーク中にひとつは登っておきたい。帰京する予定を変更して、群馬県南部の山を目指した。

前日の蓬田岳・一盃山へ 翌日の鳴神山へ