2003年から4年の春の時期、福島県の郡山の山をいくつか巡った。今回久しぶりにこの地に足を運ぶ。
前回額取山に登った際、大将旗山への縦走コースに魅力を感じたので今回はこれをメインとし、好天の見込める2日目(5/5)に登る。
初日は阿武隈の山を訪ねた。初めての山域である。
端正な山容の蓬田岳
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阿武隈山地は、地理的には宮城県南東部から福島県の浜通り・中通りの東側部分を縦貫して茨城県北東部までに渡り、ひとつの山域としてはかなり広い。準平原の山とも言われるように、いずれもなだらかな山容で優しい雰囲気を持っている。
ほとんどが標高1000m以下の低山でありながら登山口の標高はある程度高い。すぐ登れてしまうので東京に住む者にとっては秩父や中央線沿線の山と近いイメージを抱いてしまうかもしれない。しかしそこは東北の地であり、季節の進みはかなり違って、特徴をつかみづらい山域である。今回訪れて、芽吹きや新緑のペースは南関東の同標高程度の山に比べて2週間、北関東(西上州や前日光)と比べて1週間は遅いように思った。
蓬田岳(よもぎただけ)は郡山市・須賀川市・平田村の市村境界に位置し、平田村から見上げるその端正な山容から平田富士とも呼ばれている。阿武隈の山を調べていて、誰でもまず目につくのが蓬田岳であろう。
ゴールデンウィーク後半の2日目、東北道や関越道は朝から激しい渋滞だが、常磐道は空いておりスイスイと走れた。あぶくま高原道路を走り小野ICで降りる。
道の駅から望む蓬田岳は写真で見る通り、美しい形をしている。しかし、まだ茶色の山であり新緑ラインは上がっていないようだ。
山麓の芝桜の鮮やかな色も見えるが、今日の登山口はもう少し北側である。糠塚(ぬかづか)登山口のある養豚場を目指す。はっきりとした確信はなかったため迷ったが、現地で調達した郡山市のハイキングコース紹介のパンフレットを頼りに、田母神(たもかみ)の交差点から少し郡山市寄りの林道を上がり、どうにか養豚場にたどり着いた。
未舗装の道を少し進むと、糠塚登山口である。5,6台ほど駐車可能だが、今日は自分の車が最初の到着だった。芽吹きの雑木林を背に、登山道は薄暗い杉林の中から始まる。
沢沿いの道を静かに登高していくとすぐに分岐となる。右は一般コース、直進は岩登り(上級者)コースで、ここは直進する。糠塚登山口から登り始めたのは、このコースを歩いてみたかったからである。アケボノスミレやヒトリシズカが咲いていた。見る花は南関東の山と同じ顔ぶれのようである。
杉林を抜けると明るい尾根に出る。急登が続き、大きな岩がいくつも現れた。鯨岩を過ぎると見晴らしのよい展望岩に出る。広い眺めだが、海のほうが見えているのだろうか。今日は雲がちょっと多い。
展望岩のすぐ先、積み重なった大きな岩の小さな隙間をくぐる。太り気味の自分が通れるか心配だったが、ザックを担いだままくぐれた。しかし左に巻き道もあったようである。
以後も大きな岩をまたいでいく箇所が多くて面白い。もっとも「岩登りコース」という呼び方はちょっと違う気もするが・・・。
一般コースが合流し、笹の多いヤセ尾根をなおも登っていくとブナが多くなってくる。阿武隈の山にはブナが意外と多いのは発見だった。
最後のひと登りで蓬田岳山頂に到着。一等三角点のある明るい山頂だ。周囲を低木に囲われ展望は今ひとつの感もあるが、岩の上に乗ると安達太良、吾妻の雪山がよく見える。アンテナ施設の先に菅船(菅布祢)神社がまつられていた。山頂の回りにもブナがあり、新緑の時期もいいだろう。
阿武隈の山はツツジが多いので、5月中下旬が一番のシーズンになりそうだ。
下山は表参道の蓬田新田コースである。一番多く歩かれているコースで、すぐに何人もの人とすれ違うようになる。西側から上がってくる沢又コースを分けると、穏やかな自然林の道となる。ブナの巨樹もある。その先でもう1本、沢又方面からの道が合流してきた。こちらは沢又南コースというほうだろう。
その後左に折れて杉林の急な下りとなった。子供から初老の人まで、大人数の家族連れがどんどん登ってくる。ファミリーハイキングには手ごろで最適な山であろう。
参道らしく杉林に囲まれているがそのすぐ外側は広葉樹になっている。スミレも多く咲いている。一直線に下っていくとやがて新緑が復活し、鳥居のある登山口に下り立った。あたりは公園風になっていて、車道沿いに下っていくと、朝見た芝桜の場所に行き着く。横には整地された駐車場があった。
「ジュピアランドひらた」はこの一帯の公園の名称で、今の季節は芝桜祭りで大いに賑わう。下の広場では大勢の人だかりがあり、地元のタレントでも来ているのか「ひらた音頭」を歌っている。「第3回ユニークかかしコンクール」が開かれており、アニメキャラクタや今話題の人物がたくさんかかしになっていた。安倍首相かと思った中央のかかしは、よくみたらルー大柴だった。
明るく元気な福島の人の姿を見て、何か逆に元気をもらった気がする。
芝桜はだいたい7分咲きくらいだろうか。見頃を迎えた秩父の羊山公園と比べても、やはりここは少し時期が遅いようだ。また、このところの気温の低さで霜にやられたのか、ところどころ花がまだらになっているところがある。
糠塚登山口へは、下まで下らずに柴桜の間の道を通り、鉄塔の架線に沿った点検路に入る。阿武隈の山は車で来るとピストンするしかないところが多いが、この蓬田岳はこの鉄塔点検路を歩けば一応周回コースが取れるのである。
蓬田新田とと糠塚登山口の標高はほとんど変わらないが、点検路は小さなアップダウンをいくつも越えていくように道がつけられており、意外と骨が折れる。周囲は枯れ笹で花もそう多く咲いていない。
30分ほどで樹林下の道になってほっとする。ヒトリシズカがあちこちで群落を作っている。その後左に折れ、カタクリの葉が多く敷き詰められた林に入るが、もう花は終わっていた。その先すぐに、朝車で通ってきた林道と合流し、数分で糠塚登山口に着いた。
車がもう一台停まっていた。地元の人が下山してきたところだった。先ほどの鉄塔点検路の整備をしているそうだ。途中で美味しい水場を作ったということだったが、気づかなかった。
すっかり日が高くなり暖かくなった中、林道を下って国道49号に戻る。まだ正午になったばかりなので、蓬田岳の北方にある一盃山(いっぱいさん)にも登っていくことにした。
田母神の交差点から10分ほど、静かな山村の畑地の中を緩く上っていくと登山者用の駐車場があった。こんな小さな山にしてはずいぶん立派な駐車場である。見上げれば山名の元となった、おちょこを逆さにしたような三角形の山頂が望めた。「酒徒には気になる山」と登山ガイドには紹介されている。
農道を歩いて馬場登山口へ。福島県の山は、アプローチの途中で農道を歩いて周囲の広い眺めを楽しむのも魅力のひとつであることを思い出した。「音の岩まで2.1K」との指導標。音の岩とは、一盃山山頂の近くにある展望地である。山頂よりもこの名前を指導標に書いているということは、よほどすばらしい眺めなのか。少し進むと小さな池があり、ニリンソウが咲いている。
杉林の中を黙々と登高していく。車の轍の跡がある林道が縦横に走り、進む方向が少しわかりにくい。明るい広葉樹林に入るとしばらくで「深沢清水」という水場に着く。周囲はほとんど芽吹いていない。
やがて道は分岐し、この山も一般コースと上級コースとに分かれていた。上級コースと言っても、急な登りが続くだけのようなのでそちらに入ってみる。距離はそんなでもなく、あっけなく林道に飛び出た。反対側の斜面に、落石防止用の大きなコンクリート壁が出来ている。
この林道からはとても見晴らしがよく、さっき登った蓬田岳が端正な三角形を見せている。蓬田岳という山は、どの方向から見てもいい形をしていそうだ。
林道を左側に少し歩いて再び登山道へ。急ではないがなかなかきつい登りをこなし、一盃山の山頂に到着する。正確には山頂ではなく、大志の広場という名前のついた芝生の平坦地である。広々としていておそらく50名くらいは腰を下ろせるだろうか。
音の岩へ向かう。ヤセ尾根を数分で音の岩。展望は期待していたほど広くはなく。樹林が少し邪魔をしていた。冬場はもう少し広い眺めが得られるだろう。
音の岩という名は、岩を強く叩くとゴーンと響くような音がすることからつけられたというので、試しに中央の岩を踏み叩いてみたが、響くような音はしなかった。音の岩には、黒甫からの道が上がってきていた。
大志の広場に戻り、北方向に少し歩いてみる。一盃山の本当の山頂(三角点)は5分ほど歩いたところにあった。少し笹などで遮られるものの北西側の眺めがきく。秋や初冬の天気のいい日に、それこを一杯ひっかけながら、時間を気にせずのんびりと過ごすのがいい山であろう。
林道に戻ると、夫婦の登山者が歩いていた。こんな時間に人に会うとは思っていなかった。下りは一般コースを歩いてみるが、ほぼ林道状の登山道だった。下山路はあっけなく、40分ほどで登山口に戻ってきた。
1日に2山と欲張った初訪の阿武隈の山だった。季節的にはもう少し進んだ新緑やツツジの時期、または初冬が似合う山域に思えた。福島県の東側にあり、心理的に足が向きにくい場所になってしまった印象は正直言ってある。だが、矢大臣や鎌倉岳など個性的な山も多いので、時期を狙ってまた来たいものだ。
この地域のもうひとつの穴場的なポイントとして小町温泉を狙っていたが、電話してみたところ日帰り入浴は現在受け付けていないとのことだった。今日はこのまま宿泊地である郡山へ向かうことにする。