朝日連峰は2008年8月の縦走以来で、その前はさらに6年前の同じ夏、大朝日岳に初登頂している。紅葉の時期は初めてだ。今回は友人と大朝日岳に登る。
朝日連峰は東京から車で行くには少し遠い。新幹線とレンタカー利用も考えていたが、友人は現地まで運転してくれるというので、今回も甘えてしまった。
昭和の時代にタイプスリップするような、古寺鉱泉の佇まい
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3連休の天気は、始めのうちはいい予報が出ていたので、初日に鳥原小屋まで登って宿泊し、翌日山頂往復する予定にした。栗駒山と並ぶ東北の紅葉の名所である大朝日岳に登った後、古寺温泉でゆっくりして帰るプランはよさそうだ。
宿の予約までしたのだが、その後天気予報がどんどん下方修正され、土日ともに雨予報になってしまった。14年前、土砂降りとカミナリに見舞われた大朝日岳山行の二の舞は避けたい。中止も考えたが、3日目の天気に期待して初日麓泊、翌日から登山の行程で行くことにした。
この場合山中の宿泊は山頂小屋となり、立錐の余地のない大混雑ぶりも14年前に経験している。しかし天気があまり良くないのが混雑の緩和につながると勝手に予想してみた。結果的にこの予想は大外れとなる。
初日、土曜日はゆっくりめの出発となる。古寺鉱泉まで6時間は長い。車は大きめのサイズで自分には扱いづらく、いつも所有者の相方に運転は任せっきりになってしまうのが申し訳ない。雨の中渋滞にもはまり、古寺鉱泉着は16時近くとなった。
久しぶりの古寺鉱泉。昭和どころか、それ以前の時代にまでタイムスリップしそうな建物は、14年前と全然変わっていなかった。歩くとミシミシいう廊下、今にも外れて落ちそうな窓枠、同じである。部屋にはお膳しかない。もちろんテレビなどないのである。
山奥の旅館であっても、最近はどこも垢抜けていく一方で、昔と変わらぬ姿で残っているところはあまり見なくなった。土色の温泉も良く温まる。
鉱泉には同じく明日登る予定の、10名ほどのツアー客もいた。ガイドさんによれば明日の山頂は20メートル以上の強風になるとのこと。もちろんそういう予報が出ていることも知っていたが、実際本当にそんな強い風が吹くのか、半信半疑でいた。
なおその翌日、下山予定の日は寒気が下り、気温が氷点下となる予想もある。予報通りなら、今回はかなりシビアな登山になる。
鉱泉の夕食は山菜が中心で岩魚の塩焼き、山形郷土料理のウドというものなどが並ぶ。新米のはえぬきと自家製味噌汁もおいしく、ガイドさんによる芋煮会の話など、楽しい食事の時間を過ごした。
あとは明日の天気だ。それほど降らずに、強風も何とか歩けるレベルで経過してくれることを念じつつ就寝する。
朝6時半から朝食。外はやはり雨だ。予報では8時か9時ごろに止むとなっているので、少しゆっくりめで行く。外はけっこうな降りにもかかわらず、車で来た登山者が次から次へと、宿の前を通って登山口に入っていく。後で駐車場に行ってみるとすでに満車だった。
8時近くなって予報通り、雨は止む。念のため雨具とザックカバーはつけて宿を出る。他の宿泊者はすでに出発しており、自分たちが最後だった。
そのかいあって、小屋の裏手から尾根に上がるまでの急登、その後しばらくは雨に降られることなく順調に歩を進める。ブナとヒメコマツの合体樹の前後は穏やかな登りで、南東北の山でよく見かけるヒメコマツが多い。
木の枝越しには色づき始めた隣の尾根が見通せる。しかし標高を上げていくと霧雨模様になった。高いところではビュービューと風がうなりをあげている。左手に大きく見上げられる高い山は古寺山のようだ。最初の水場である一服清水には、昨日の夕食でおかずに出たブナハリダケがブナの樹皮についていた。
日暮沢からの道を合わせるあたりで、はっきりした降りとなる。雨の止む予報は所詮麓の予報か。山の上では別の天気の流れがあるのは重々承知である。
古寺山への滑りやすい急な登り。高くなるにしたがい雨風は強さを増す。今日いっぱいはこのような天気と付き合うことになりそうだ。それにしても古寺山の登りはこんなに長かったか。14年前の記憶はほとんど消えている。
三沢清水を過ぎ、なおも雨の中の急登が続く。笹原が現れると傾斜が緩くなって、やがて古寺山山頂に着く。
すでに登山者で賑わっている。後から来た中高年の団体はここ古寺山までとのこと。小朝日岳を正面に見据える展望の良い山なので、それも軽い山登りとしては十分満足のいくものだろう。しかし今日は周囲はガスに隠され、、乳白色の眺めのみだ。
紅葉はそれなりに進んでおり、標高1500mのこのあたりでは、もう数日で見頃になりそうだ。
低潅木と笹の稜線を進む。高度を上げると風がすごい。そのためかガスが飛んで周囲の山々が突然現れた。天気が悪くてもさすが朝日連峰。ひとたび眺めが得られれば大展望である。
目の前の小朝日岳には登らず、巻き道を行く。このあたりで木々の色づきも目立つようになった。枝間から朝日連峰の幾重にも刻まれた支尾根が見える。小朝日岳から下ってくる道と合流し、さらに下る。
宿でいっしょだったツアー客とすれ違った。山頂はすごい風だったという。列を乱すこともなく、淡々と行程をこなしている。このような雨と強風の中、10名以上のツアーを決行するリーダーの判断は結果的に当たったようだ。それとも、ツアー登山なんてのはこのくらいの雨風など決行の判断の対象にもならないのだろうか。
下りきったところの鞍部が熊越。雨風ともおさまっているので、昼食休憩とする。南面の展望がよく、さらに小朝日岳東面の赤を中心とした紅葉が見事だ。この秋は各所て色づきが良くないようだが、ここ朝日連峰の紅葉はそれでも十分に見られる。
腰を上げ歩きを再開。道すがら目にする低潅木の紅葉も素晴らしい。先ほどまで大朝日岳方面も良く見通せていたが、高度を上げていくと再び空模様が怪しくなる。
雨も降り出す中を銀玉水に到着。明日朝までに使う水をここで調達する。ここも含め、今まで通過した水場はいずれも出がよかった。
銀玉水からは石畳の急登となる。雨模様になり風もこれまでにないくらいに強まる。西風なので、大朝日岳に向かって歩くと完全な向かい風となる。吹きっさらしの稜線では先に進めないほどだ。一瞬、今夏のトムラウシを思い出す。
ガスと横殴りの雨の中、日帰りの登山者が下りてくる。この天気でしかも日帰り、一番風の強い時間だっただろう。それにしても登山者は後から後へ、次々とガスの中から現れる。この山の紅葉時期の混雑ぶりは、天気など関係なさそうだ。
雨が体やザックを叩きつけ、小屋はまだかまだかと思う。一本道なので大丈夫だったとは思うが、なにしろ一面ガスなので方向を間違っていてもよくわからない。
何度目かのの急登の末、ようやく目の前に大朝日小屋が現れた。ずぶ濡れで肌寒い登りが続いたがこれでやっと落ち着ける。
中に入るとそこは八畳ほどの狭い踊り場なのだが、ザックや荷物が所狭しと置かれ、何組もの登山者が食事休憩していた。立錐の余地なし。
管理人さんによると二階はもういっぱいで、寝る場所は3階の屋根裏、ザック置き場や食事はこの場所でやってほしいと言う。だがここもすでに芋洗い状態なので、試しに二階に上ってみる。何とか先着者のシュラフとシュラフとの間に二人分の食事スペースを見出し、腰を下ろすことができた。
湿気がひどくゴミゴミした室内。14年前と同じだが今回は相方や周りの人と話をするなどして楽しく過ごした。
夕方にかけて外は風がさらに強まり、小屋が壊れるのではと思うくらい、一晩中ビュービューと吹きすさんでいた。