先週関東甲信に雪が降り、河口湖も積雪を記録した。その後春のような暖かい日が続いたが、山の上はまだ雪があるだろう。三ツ峠に登ることにした。冬、雪のある時期の登山は4回目。青空と眺望や雪質の良さ、いつも期待を裏切らない、満足のいくスノーハイキングをさせてくれている。
開運山山頂 [拡大 ]
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河口湖ICから国道を北へ進む。高度を上げるにつれ道脇には雪が目立ってきたが、路面は白くなく、三ツ峠裏登山口まで凍結もなかった。
しかしバス停から先、駐車場までの数百メートルは、車の轍はあるものの雪が残り、凍結もしていた。無理はせずにバス停付近のスペースに駐車する(今の季節はここまでくるバスはない)。車から下りるとそこは標高1500m近い冬山。北側なのでまだ日も差してこないのでかなり寒い。
「ここからどのくらいで上がれる?」長靴姿の人が聞いてきた。1時間くらいだが、雪があるのでもう少しかかると答える。それを聞いてスタスタと登っていった。自分も歩き出すと、後からやってきた車が1台、駐車場までの雪道を上っていった。案の定途中で立ち往生し、苦労してバックで引き返していった。
その駐車場には、おそらく山荘の人の持ち物と思われるジープと、除雪の重機が数台置かれていた。北口登山道は幅広の林道で、登山道と言うには少し語弊がある。今日のような10㎝前後の積雪があるくらいが、登山らしくていい。
アイゼンがすぐ緩んでしまい、何度か付け直す。今日のアイゼンはバンドで締める昔ながらの6本爪である。こんな旧式のものは最近は全く見なくなった。雪が緩いと歯の部分に雪団子ができやすい反面、締まった雪にはしっかりかみ合い、歩いていて気持ちがいい。それでも年度初めで最初に使うときは、いつも取扱いに苦労する。
先に出発した長靴の人が、「リタイヤしました」と言いながら下りてきた。上は予想以上に雪が多いのかもしれない。ジグザグの道を登っていく。雪はやや柔らかめだが、団子になることはない。
北斜面のためなかなか日が差してこず、いつまでも寒い。その幾度となくジグザグを切っていく道には変化がなく、同じような景色がずっと続き単調だ。さっきの人はそんな面白みのない道に嫌気がさしたのかもしれない。この道を何度か歩いた人は、山頂付近の展望のすばらしいのがわかっているので、我慢して登っていく。
登山道の途中にも山荘のジープや除雪車が止まっている。どれもナンバープレートを付けていないのに気づく。公道を走らなければ車はナンバープレートがなくても違反にはならないのだろうか。もしかしたら免許がなくても運転可能?そんなことはないだろう。
高度を上げるとだんだん積雪が増えてきた。進む先に日光が届いた一角が見える。そこを越えると木無山の山頂に出た。大きな富士山とのご対面である。
この辺りで積雪量は20㎝から30㎝。数日前に春のような暖かな日が続いたので、これほど雪が残っているとは思わなかった。三ツ峠山荘の前を通り、三ツ峠最高峰の開運山が見える台地に出る。南アルプス、八ヶ岳が勢揃いだ。
南アルプスは年初、雲取山から見たときよりも白い部分がずっと多くなっている。八ヶ岳の左に遠く見えるのは北アルプスか。三角形の端正な山は常念岳だろう。今日は日本海側の天気が悪いので北アは見えないかと思っていた。
四季楽園を過ぎ、贅沢な眺めに囲まれて最後の登りに入る。
三ツ峠の最高峰、開運山に着くとさらに展望の高度感が増し、今まで見ていた山々がもう一段、高い所からの眺めとなる。富士山も大きく、愛鷹連峰や丹沢山塊、その先に見える地平線は地球の形そのものだ。日の光をいっぱいに受け、不思議と寒さは感じない。
標高1785mの山頂は、計算ではおそらく氷点下5度くらいになっていると思われるが、日当たりがいいので実際は0度あたりまで上がっているだろう。人間の気温感覚というのは当てにならないことが多い。
御巣鷹山まで足を伸ばすことにする。稜線伝いに、アンテナ施設をいくつか経ていく。トレースはついているが数人しか歩いておらず、30㎝くらいの深さの足跡を忠実に拾っていく。トレースをはずしたらちょっとしたラッセルになる。30㎝くらいの積雪でも、トレースがなければワカンやスノーシューが役に立つ。
眺めの開けたススキの原に出て、ひと登りで電波中継塔の大きな建物が占拠する御巣鷹山山頂だ。樹林越しに富士山や南アルプスが見えるが、腰を下ろせるスペースが狭く、あまり居心地のいいところではない。今日はここで引き返すため休憩していく。
御巣鷹山から戻るには巻き道もあるが、もう一度眺めのいい開運山に登り返して富士山、南アルプスを再確認する。
登ってくる人が増えてきた。全く自分より少し年上の、中高年のグループもやってくる。雲はほとんど沸き立っておらず、パノラマ展望が継続していた。今日この山を選んで登ってきた人は大儲けだろう。
下っていくと、ジープが登山道で止まっていてその手前で雪かきをしている人がいた。聞くと四季楽園の山荘の人で、やはりジープを走らせるために雪かきをしていると言う。いくら車で上がれる道であっても、20~30㎝の雪が積もれば車は通りにくい。三ツ峠山荘の除雪車も稼働していた。
考えてみると、標高1700mの場所に通年営業の山荘が2軒もあるのは、ここと丹沢くらいしかない。三ツ峠は日帰り対象の山の代表格のようなものだが、写真家を中心に宿泊の利用者が多いのだろう。自分も冬に1度、四季楽園に泊ったことがある。いわゆる山小屋という感じはなく(食事や設備は山の上らしく質素だが)、雰囲気的には麓の旅館のような感じである。
除雪車やジープが通った後の登山道は、しっかりした轍が雪面につき、登りの時より格段に歩きやすくなった。トイレのある駐車場でアイゼンを外し、登山口まで下りる。舗装道路上の雪はずいぶん溶けていた。でもまた今夜、凍結するだろう。
思った以上の雪景色が楽しめ、冬の三ツ峠山行は今年も満足度の高い内容となった。温暖化や少雪傾向でいつもと勝手の違う今年の冬だが、あとは他の雪が降るべき場所にもしっかり降って、例年通りの雪山行ができるのを期待する。