梅雨の晴れ間がまた土日にあたってくれた。河口湖駅から歩き始める。
今日は三ツ峠。最近は車利用で手軽に登ることが多かったが、今日は長い距離をじっくりと登る。
天上山下のカチカチ山展望台。昔話「カチカチ山」の舞台でもある
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駅界隈は昔からのほうとうの店に加えて、多国籍料理やインド料理など、変わった食べ物屋が増えた。これもインバウンド効果だろうか。
舗装道路を少し歩き、護国神社の前からあじさいハイキングコースに入る。遊歩道化された登りの道は、アジサイがたくさん植えられており、青、白、ピンクと様々な色合いが楽しめるが、見頃はまだ少し先である。途中で富士山のよく見える展望地に出た。
さらにひと登りして、ロープウェイの頂上駅であるカチカチ山展望台に着く。ウサギとタヌキの像が置かれており、タヌキの背負う薪に兎が火をつける様子が再現されている。
昔話「カチカチ山」は、お婆さんを殺した悪者のタヌキをウサギが退治をするという話なのだが、自分が子どものころ童話として読んだカチカチ山は、お婆さんが殺される場面はなかったと記憶している。どうしてかタヌキがいじめられるのだろう、かわいそうだ、との印象が強かった。また、昔から伝えられている本来の物語は、かなり猟奇的で恐ろしい仕立てになっている(かちかち山 Wikipedia参照)。
ただし、時代の変遷、また地方に語り継がれていく中で物語は改変され、ウサギとタヌキのどちらが悪者なのか、解釈は変化しているようだ。
さるかに合戦・桃太郎などこういう勧善懲悪の昔話は、日本にはいっぱいある。現代のネット社会のように、必ず誰かを悪者にしないと気がすまない風潮はいかがなものかとは思うが、日本人は元来こういう話が好きで、体に染み付いてしまっているからこういうことになりやすいのだと思った。はるばる日本にやって来て、カチカチ山でこういう昔話に接する外国人はどんな感想を抱くだろうか。
ウサギとタヌキの案内で三ツ峠への登山道に入る。さらに少し登って天上山の山頂。樹林の中だが木の間から富士山が見える。
緩く下って、これからは三ツ峠まで長い登りとなる。以前逆方向を歩いた時は標識があったと思うが、全く見当たらない。もっとも尾根上の一本道なのでなくても問題ない。
広葉樹が多く、春秋はそこそこ楽しめそうだが、しばらくはほとんど平坦で登りがない。トレランにいいのかもしれない。
霜山の直下になるとようやく傾斜のついた登山道になるが、急なところはない。登山道は山頂を巻くので、薄い踏み跡を辿って三角点のある霜山に立つ。
腰を下ろして休んでいると、何か小さなものがガサゴソと音を立てて近づいてきた。一瞬身構えたが、体長30cmほどの子どものイノシシだった。バフッ、バフッ、と鼻を鳴らしながら餌を探している。つぶらな瞳と尻尾が小さくて可愛い。こちら人間の存在には気づいていないのか、どんどん近づいてきて目の前までやってきた。あまり動かないものに対して、子どもは認識しないのかもしれない。
やがて草むらにもぐっていったが、近くに親イノシシがいると危険なので、すぐに山頂を辞す。登山道が掘り起こされているのはあのイノシシの仕業だろうか。次の小ピークは富士山の眺めが良い。女性が一人休憩していた。
再び平坦な尾根道となる。二ガナ、クサタチバナ、フタリシズカをあちこちで見る。上暮地への下山路を分け、緩く登って送電鉄塔の立つ台地に出た。ここは周囲が切り開かれて、西側の稜線には黒岳、十二ヶ岳、釈迦ヶ岳といった御坂の山が緑豊かな姿を見せている。
富士山もよく見えるが、雲がまとわりつき始めていた。シモツケ、ミヤマオダマキなど中亜高山の花も見られる。
鉄塔から先は尾根筋から少し下の部分を歩く。ここへ来てようやくはっきりした登りが続くようになり、岩の出た少し険しいところも越えていく。下山の人ともすれ違うようになり、朝からもうずいぶん長い時間を歩いてきたとことに気づく。
急登となり、ガレ場を越える。やがて開けた場所に出る。アヤメがあちこちに咲いている。母ノ白滝からの道を合わせるとようやく、木無山に到達した。
河口湖駅から3時間あまり、意外に早く着いた。道中危険な場所は皆無で、単調ながら三ツ峠の登山道の中では一番歩きやすかった。
ちょうど空いたベンチに腰を下ろす。空は雲が増え、富士山は八合目から上は全く見えなくなっていた。
三ツ峠山荘、四季楽園の前を通って開運山に向かう。岩壁を見るとロッククライミングをしている人がたくさん。
サラサドウダン、サンショウバラともに花期を過ぎていた。オオバギボウシはまだ花をつけておらず、夏の花は全体的に出遅れているがアヤメはそれなりに花数が多い。
御坂峠から最短コースを合わせ登山者は急増。賑わう三ツ峠(開運山)山頂に着く。南アルプス、八ヶ岳なども雲の中で、周囲の山の眺めだけだがそれでも展望の楽しめる山である。西湖や精進湖も見えるのは意外だった。
この山も外国人が多く、やはり半袖短パンの出で立ちである。
下山はダルマ石経由のルートをとる。14年前の初登時と逆コースとなった。四季楽園の有料休憩所の間をすり抜け、アヤメ咲く中を下っていく。道幅の狭い急坂となって、木の階段が出てくる。別に危険と言うわけではないのだが、今までが今までなので険しく感じる。
屏風岩の基部まで来るとクライミングの人が大勢いた。男も女も、若い人も中年も、また痩せ型の人に混じってクライミングはどうかと思われるちょっと太めの人もいた。登山ブームに比例してクライミング人口も増えているのか。
岩の縁を回り込むように進む。ところどころで水が染み出し、木の橋がかけられている。やがて尾根上のはっきりした下りになって、道は安定した。しかし急坂が続き、やはり登路とは好対照である。今日の登り下りの組み合わせは三ツ峠のコースとしてはなかなかいいかもしれない。
八十八大師を過ぎてさらにどんどん下っていく。20名ほどのグループや、外国人を追い抜く。正面が開けた股のぞきに下りつく。14年前にはここで富士山が見れたことをはっきり覚えているが、今日は無理だった。
イチヤクソウが咲くのを見届け、さらに高度を落としていくとダルマ石の置かれた社の前に下り立った。漢字でもない、記号のような字が書かれた不思議な岩である。
ダルマ石から先は舗装された林道を歩くことになる。駐車場と公園風の広場があり、トイレを利用させてもらった。
滝経由の遊歩道が分岐しているがそのまま車道を歩く。どうも遊歩道のほうが近道だったようだ。14年前に1度しか歩いていないので、ほとんど記憶がない。道路脇にはアジサイが多く植えられていた。ここもまだ花期には早いようだ。
キャンプ場やスポーツ施設のあるグリーンセンターは賑わっていた。入浴も出来るので立ち寄ってもよかったが、混んでいるのではないかと思い遠慮する。西桂町の住宅地に入り、振り返ると壁のように巨大な三ツ峠が黒々とそびえていた。
下界はやはり暑い。汗を拭きながら三つ峠駅に到着する。
南関東・甲信の山2000m以下の山は、新緑の春や紅葉の秋がいいのだが、花の多く咲く高原の山、三ツ峠は夏の似合う山である。また、雪の積もった厳冬期も展望がすばらしい。夏と冬がお薦めの山はこの山域ではでは貴重な存在だ。
富士急行線、中央線と乗り継いで帰京する。