久しぶりの奥多摩へ。今年一度も登頂していない鷹ノ巣山も考えたが、天気もよさそうなので青空の下、紅葉が映える日原へ出かけた。タワ尾根を篶坂(すずさか)ノ丸まで登り、オロセ尾根を下る。10年前の逆コースとなる。
奥多摩の紅葉というと、三頭山や鷹ノ巣山などが人気だが、長沢背稜の西半分や天祖山、そしてここタワ尾根など日原付近がやはり一番であろう。日原の森は樹林が密で、さまざまな木の種類があって見ごたえがある。
そして何と言っても、ここが東京であることを忘れるくらい静かで山が深いのが日原の山の特徴だ。木の精、森の精に触れることのできる山域である。
タワ尾根の鮮やかな紅葉
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青梅線にイノシシがぶつかったとのことで、少し遅れての奥多摩駅到着となる。駅の回りの山はすでに紅葉が始まっている。
バスは2台となった。途中の川乗橋で半分が下り、東日原へ到着。それほど寒くはなく、気持ちよい青空の中を歩き始める。稲村岩尾根も中段はきれいに色づいていた。
バス乗客のほとんどは鷹ノ巣山の登山口に下りていく。鍾乳洞方面は自分以外に一グループだけだった。その鍾乳洞近辺はまだ日が差さず暗いが、車の客も朝早くからやって来ていた。今週あたりから紅葉目当ての観光客が多く集まりそうである。
一石山神社から登り始める。この先の籠岩に登る道から取り付きたかったが、神社のすぐ先で林道が通行止めになっており、この先の浄水場からの登山口まで行けない。震災からの回復のための工事が長くかかっているようだ。
看板では工期が来年の11月までとなっている。小川谷林道から三又~酉谷山の山行も久々にしてみたいので、工事終了を待つばかりだ。
神社からの登りは急登だ。踏み跡が薄く、二手に分かれていて右のほうをとったらさらに傾斜は増し、落ちそうで冷や汗をかく。やがてはっきりした道が左から合わさる。先ほどの分岐は左のほうがよかったようだ。
ベンチのある場所に着く。指導標の行き先部分が折られている。杉林の中を尾根通しに登る。道が付け替えられており、ロープが張られた内側には再び行き先が折られた指導標があった。籠岩からの登山道が分岐していたと思うのだが、通行止めの影響なのか、一本道で行くことしかできなくなっている。
急登はさらに数十分続き、広葉樹が目立つあたりでようやく楽になった。色づいた木も多くなる。黄色はイタヤカエデ、鮮やかな赤はオオモミジだろうか。傾斜がさらになくなって、伸びやかな尾根道に移ると、一石山の山頂に着く。
細長くて適度の広さのある山頂は、見事に赤く色づいたカエデなど、前後左右、頭上も含めて周囲をぐるっと紅葉で囲まれていた。一石山は紅葉がきれいと聞かされていたが、実際見たのは初めて。確かにこれは素晴らしい。苦労して登ってきたのが十分報われる景観である。
ここから先の行程にも期待を抱きつつ、先へ進む。山頂には以前、ここから先は通せんぼの棒切れが置かれていたが今はない。
左手に杉林を見ながら高度を上げ、再び自然林に囲まれた尾根歩きへ。男性が一人降ってきた。どちらまで?と聞かれたので篶坂ノ丸まで、と答えたがあまり通じなかった模様。けれど風貌から、かなりの奥多摩のベテランさんと見える。その時は気づかなかったが、もしかしたか山野井さんだったのではないか。
赤、黄、オレンジの錦色は樹林だけでなく、登山道も同じ。カラフルな落ち葉道が続く。尾根が広くなって二重山稜のようになると、左手の高まりに金袋山のミズナラが鎮座していた。もうずいぶんとご老体になったが、存在感は以前のままだ。
さらに右の尾根筋に乗ると、ここにもミズナラの大木があった。以前このあたりから分岐して、ブナ・ケヤキの合体樹を経て籠岩方面に通じるもう一本の登山道を歩いたことがあったが、今日はその入り口も見つからない。
ミズナラやカエデの黄色いトンネルをくぐり、人形山に着く。先ほどの巨樹は人形山の手前にあるのになぜ「金袋山のミズナラ」と呼ぶのだろうか。
人形山にも、象形文字のような字体の山名板がある。また、鳥の絵が描かれた手作りの山名プレートもかかっていて、これがなかなかいい雰囲気である。
さらに尾根を進む。2000年に歩いた時の背丈を越えるほどの笹薮は完全に消滅し、広い尾根でありながら見通しがいい。木の枝越しに長沢背稜の山並みがよく見えるようになった。
今日の最高点「篶坂ノ丸」や、ヨコスズ(横篶)尾根など、日原の尾根には「篶」(すず)の文字を使った地名が出てくるがこれはもちろん、スズタケの意であろう。かつては猛烈な笹藪の道だったと聞く。自分が初めて登った16年前のときも、場所によっては背丈を越えるスズタケをこいで行った。それが今は完全に無くなり、あまりにもすっきりし過ぎた尾根道に変貌している。
なぜ奥多摩のスズタケが枯れたのか、いまだ原因はわかっていない。自然のなせる業に「何故?何故?」ととことん追求するのもいいが、一方でそのまま事実として受け入れる姿勢も大切に思う。
紅葉はこのあたりでそろそろ見納めとなり、落葉した木々が目立ってきた。
金袋山は今までで一番広い山頂で、中央の木に山名板が3枚かかっていた。たしかに、とても縁起のいい山名である。金袋→小判→猫に小判?または招き猫ということで可愛い猫のイラストもある。来年は雲取山が標高の山(2017)でもあるし、験担ぎに雲取山から金袋山への縦走というのもいいかもしれない。
ほぼ冬木立の尾根をさらにゆるく登って行く。篶坂ノ丸へはいつの間にか着く感じだ。時間がゆっくりと流れている山頂で、居心地がとてもいい。
それにしても意外と歩く人が少ない。奥多摩の紅葉といえば日原だと今回再認識したのだが、やはり破線ルートであるからだろうか。
オロセ尾根で下山する。10年前に登りに取っているが、このバリエーションルートは下りだと少し注意が必要と思っていた。上部は尾根の形をしておらず、確たる踏み跡もないためだ。篶坂ノ丸山頂からの下り口もよくわからず、テープでもあるかと探してみたがないようだ。
適当に斜面を下ってみるとすぐに尾根筋に乗り、木に赤テープもついていた。これで一安心、かと思ったがすぐ右手にももう一本の尾根が下っており、急坂を辿って行くうちにそちらに引き込まれてしまった。
数十メートル登り返して軌道修正。しかし気づいたらまた右の尾根に入っていた。意識して左方向に進路を取るよう、しばらくは地図とGPSを絶えず確認しながら気をつけて下る。
そんなわけで、オロセ尾根の紅葉はあまり余裕を持って楽しめることが少なかったが、時々振り返るとこちらも見事な錦繍の森だった。
火気注意の丸い標識まで来ると巡視道に出会う。ここはそのまま尾根通しに下り、檜の植林帯の手前で再度巡視道に入る。植林下の巡視道下りがその後はずっと続いた。もう迷うようなところはないが、やはり植林の道は味気ない。上部は檜林、下部は杉林になっていた。どんどん下って再び明るい雑木林に入ったと思ったら、すぐ下に林道が見えてきた。
その孫惣谷林道に下り立ち、明るい日差しの中を20分ほどで八丁橋。ここからは日原林道を歩くのみだ。
高いところは日差しが届いているが、東西方向に深く切り込まれた日原の谷は、この時期はほとんどの山の斜面が日陰になっている。1日を通して日が当たらない場所もあるのではないか。
渓流釣り場が見えて来るとやがて小川谷橋、そして朝通った鍾乳洞バス停に至る。鍾乳洞へ向かう車が、この時間になっても次々とやって来る。車のナンバーも全国的である。日原鍾乳洞はそんなに有名だったのか。
車道を20分ほどで東日原バス停に到着。付近の民家もすでに日陰になり、稲村岩の上部だけが斜光に照らされ浮かび上がっていた。
歩いた時間はそれほどではなかったが、電車バスの山行は久しぶりだったせいもあって少し疲れた。奥多摩駅到着後、もえぎの湯まで歩いて行く体力が残っておらず、近くの旅館で入浴していく。後で聞くともえぎの湯は混んでいて入場制限がかかったらしいのでよかった。
帰りのホリデー快速も超混雑。一本後の各駅停車で帰る。