~奥多摩の最も山深い秘境を登る~
|
奥多摩の秘境とも言われるほどのタワ尾根は、普通の登山ガイドには掲載されていない。笹ヤブの続く難所と聞いており、自分にはとうてい手が出ない場所と思っていたが、あおむしさんから声がかかり、ついに挑戦することとなった。 参考書としてnosakuさんの「ウトウの頭」「タワ尾根縦走」の2つの山行記を持って行った。赤テープの位置、現地の地形判断材料に、非常に参考になった。
●一石山神社からウトウの頭へ 東日原バス停から一石山(いちいしやま)神社まで車道を歩く。神社の階段を上ると左に社務所、右に境内がある。社務所の右脇から登って行く。 のっけからはっきりしない道、しかも急登だ。エアリアマップなどでは、一石山までは登山コースの線が書かれていル。以前は鍾乳洞へ行く遊歩道とされていたようだ。 一石山は尾根の末端で、ここからタワ尾根の長い道が始まる。「この先行き止まり」の板を乗り越えて、ゆるやかな道を登って行く。
左にスギの植林、右に自然林となる幅広の気持ちいい尾根を進む。 途中、右方向を指し示す矢印の板がありそれに従ってしまったが、こちらはどうやら小川谷林道へ下りる支尾根のようだ。ガイド本「奥多摩の尾根と沢」での当ルート記録では、林道からこの支尾根を登ってきているようにも思える。ひとまずここは主尾根に戻ることとする。 とにかく尾根(回りより高いところ)を忠実にたどるようにする必要がある。この先は縦走路に合流するまで指導標は無く、地形判断と赤テープを目印に登ることになる。 また、このあたりが人形山のようであったが山名標識は見つけられなかった。2人の男性が休んでいた。 先行しているあおむしさんは快調にどんどん進む。しかし自分もまだまだ元気だ。
だらだら坂を登って行くと、林道と交差する。この手の林道では最近よく目にする、赤い鉄製の標識がある。 尾根道は林道に挟まれた形で先にずっと続いているが、この先はいよいよ笹ヤブをくぐっていくこととなる。あおむしさんがまず笹ヤブに入る。それに続いて自分も入っていく。「入っていく」という表現がぴったりするようなトンネル状の笹ヤブだ。 笹ヤブの中であるが、尾根は再び幅広い道となる。山名標識を見つけられた。「金袋山」だった。 タワ尾根にはいくつかのピークがあるが、三角点である「ウトウの頭」を除けば、ほとんどがピークらしくないピークであり、うっかりしていると気づかず通り過ぎてしまう。しかもヤブ漕ぎしながらなのでなおさらである。
金袋山からは幾分笹が深くなる。また、笹が薄いところは岩がちのアップダウンとなる。時々右手に長沢背稜の展望が得られる。 次の鈴坂丸のピークがなかなか見つけられず、まだかまだかと岩っぽいやせ尾根をがむしゃらに登って行くうちに、いつの間にかウトウの頭に着いてしまった。ともかくホッとする。 奥多摩登山者にとって、この山名標識を見れるのはひとつのステータスシンボルではないかと思ったりする。 樹林に囲まれた狭い山頂はちょっと肌寒いが、深山の雰囲気が有る。ここで昼休憩にした。 ●笹ヤブの海を越えて縦走路へ出る タワ尾根の難所はここからだ。山頂からはまず、岩尾根をなだらかに下り、大きな岩の左手に赤テープを認める。 そこからかなり急な坂を下る。登り返しを考えると悲しくなるくらい下り切ったところが大京谷のクビレだ。酉谷避難小屋や長沢背稜からタワ尾根を見ると、このクビレの所がガクンと下がっているのがよくわかる。このクビレには標識があった。 再び大きく登り返し、前にも増して猛烈な笹ヤブとなる。高いところでは2mを越す篠竹は茎が固く、顔に当たるとビシビシと痛い。眼鏡をかけていると幾分気が楽かもしれない。 カラ滝の頭は単なる通過点、相前後して急登+笹ヤブの上に、倒木が行く手を阻む。この倒木が曲者で、ただでさえわかりにくい踏み跡をますますわからなくしてしまっている。 もうひとつ大変だったのは、先行者との距離の取り方だ。近過ぎると先行者の払った笹ヤブの直撃をもろに受ける。しかし5m以上離れると、今度は先行者の進んだ先がわからなくなる。それほど深い笹で視界を閉ざされている。
傾斜が幾分弱まり、あたりは広い笹原状になった。踏み跡が入り乱れ、あおむしさんの姿が見えなくなった。どこに進んだのかと右往左往していると、ポッカリと周囲が開けた。長沢背稜の縦走路に出た瞬間だった。 その場に座り込み、大きな息をつく。笹ヤブの出口付近は、何本かの笹を赤テープで束ねているもののほんの小さな穴でしかない。もし下山路として使うのなら、ここを探すだけでもひと苦労かもしれない。(そもそもこの道を下る人がいるのかは疑問だが) 顔は痛かったが、面白かった。何かたまっていたものを思いっきり吐き出したような爽快感があった。縦走路に出たときの達成感、それはどこか目指した山頂に立った時の感動と通じるものがある。 ここからは縦走路を歩き、酉谷山避難小屋へ向かう。今までとうって変わった極楽の道!と思ったは最初だけ。疲れが足に来ていて、小屋までの距離が非常に長く感じた。 避難小屋には3時少し前に到着した。先着者が1名、その後何人か到着し、この日の宿泊者は結局6名となった。 うち2人(いずれも単独行者)は明朝、酉谷山を経て熊倉山へ縦走するという。その中でも水戸から来た30代半ばの男性は、三峰・芋ノ木ドッケから1日でここまで来ているということで驚く。この人は奥多摩の気象条件や小屋の混雑具合が事前にわかりにくかったそうで、30kg位のフル装備で来ていた。 この日は、終日雲ひとつない最高の天気。気温も高く、室内温度は夕方でも15度。厚着すればシュラフカバーでも寝られそうなくらいだった。 |