3週ぶりの山となる。山地はすっかり冬の装いとなった。土日は南関東にも寒気が入るとのことで、低山でも相当冷えそうである。ネックウォーマーやしっかりした手袋など、冬のアイテムも一斉に出番となった。
今日の白岩滝ルートは初登である。日ノ出山の登路としてはそれほど知られていない。同じく初めての愛宕尾根と合わせて植林の中を歩く箇所が多そうだが、途中の麻生山は伐採により眺めが良くなったそうだ。
展望がよくなった麻生山から、都心方面を見渡す
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行きにホリデー快速に乗るのは珍しい。いつもはもっと早い時間に出発するので中央線は各駅停車しか動いていない。前回ホリデー快速で山に行ったのは15年前の甲斐駒ヶ岳、そして偶然にも同じ年の、吉野梅郷~日ノ出山山行でも乗っていた。新宿から武蔵五日市駅まで乗り換えしなのはうれしい。
つるつる温泉行きのバスに乗る。乗客は自分一人だけ。着いた白岩滝バス停はまだ日陰でうすら寒い。タルクボ沢沿いの林道をしばらく歩くと公衆トイレの先に案内板の立つ白岩の滝入口があった。雨乞橋を渡ってから登山道らしくなってくる。
小さな放射状の滝を見た先で、すぐに白岩の滝が現れた。小さいながら滝壺もある。周囲はモミジの落ち葉で敷き詰められており、もう2週間くらい前ならなかなかいい紅葉ポイントとなっていたかもしれない。
沢沿いの緩い登りがしばらく続く。小さな滝もまだいくつか見る。荒れ気味の林道を横断すると、やや薄暗い植林の中の道となった。水処理の会社名のついた「麻生平」の看板が立っており、つるつる温泉を示す細道が分岐しているが、自分の地図にはその道の記載はない。
植林の道が続き、淡々と登っていくと、やがて前方が突然明るく開けて麻生山林道に出た。ライダーが三人、休憩している。東面が広く伐採されていて、麓の町並みや都心の高層ビル群、スカイツリーなどが一望である。これから向かう日ノ出山山頂のあずまやが見えるほか、広大な関東平野から奥多摩や奥武蔵の尾根が始まっているのもよくわかる。師走に入り低山を取り巻く大気もずいぶん澄んできたように肌で感じる。
林道の背後が麻生山のピークになっており、登山道はその急斜面にすぐ取り付く。一帯は杉の幼植林が植えられており、ここも結局は10年も経たないうちに眺めは悪くなるだろう。そして再び皆伐され展望の山へ。これが繰り返されることになる。
登山道は麻生山の北側を巻いていくため、途中で尾根伝いに直登して麻生山の山頂に達する。ここも同じように東斜面が開けているが、高度が増した分、眺めは林道からのそれよりも良い。関東平野の最奥に筑波山もよく見える。ただし日ノ出山は角度的に見えない。
山頂の反対側は、以前来た7年前と同じく鬱蒼とした杉林である。
日ノ出山への道を行く。植林の道だが急坂はなく、右手が伐採で開けているところも多い。御岳山への道と分かれ、つるつる温泉から来る林道が近づいて来ると行き交う登山者も増えた。南面には大山、三峰山など丹沢の山の稜線がよく見える。
道が合流すると日ノ出山までは標高差120m弱、それなりの登りとなる。トイレのある尾根に乗ると、御岳ケーブル駅から来たような観光客も見かける。
最後のひと登りで日ノ出山山頂に到着する。大勢の登山者で賑わっていた。ここからもスカイツリー方面の眺めがよく、丹沢、奥多摩の山々の後ろに富士山が頭だけ姿を見せていた。微風で日差したっぷりなので寒さも気にならない。好天の休日の山頂はすでにこの時間で満員御礼、隅から隅まで人が座っている。子連れの若い夫婦や、宴会のように車座になって鍋をつついているグループも。
東側に伸びる吉野梅郷ルートに入る。15年前に登りにとって以来だ。その時は梅の季節だったこともあり、歩く登山者が後をたたなかった。
急坂を下り杉林に入るとさっきまでの喧騒が嘘のように、静かな山となる。少し前までは吉野梅郷の梅もよく咲いておりこのルートの見どころとなっていたが、その後大規模なウィルス感染が判明し、一昨年、付近の民家のものも含めて梅の木はことごとく全て切られてしまった。そのためこの登山ルートは魅力を失って歩く人も少なくなったようである。
植林の道が続く。しかし15年前に一度歩いたきりだと、道の様子などほとんど記憶がない。初めて歩く道のようだ。
いったん自然林の一角に出るがすぐにまた植林帯へ。道は尾根の南面かなり下を巻くようになる。尾根筋に上がる分岐があったが、そのまま巻き道を進む。大きな電波中継塔が見えてきて、いったん舗装道路となる。そのまま着いたところが梅野木峠だった。
林道が乗っ越していて切り開かれ、久しぶりに眺めがいい。何人かが休憩していた。ここで755mの高峰を巻いて来てしまったことに気がつく。さっきの尾根筋への分岐に入れば到達できたかもしれない。奥多摩150山に入っているのでピークは踏んでおきたかったのだが、もう引き返す気力はない。
峠から先も薄暗い杉林。今の時間から登って来る人が結構いる。やがて「三室山→」と書かれた手書きの標識があったので、登山道を外れてそちらへ進む。珍しく露岩の多い登りだ。
二俣尾駅に下る分岐のすぐ先が三室山山頂だった。狭いところだか三角点があり、都心方面の眺めが少しだけ得られる。多分ここは初めてである。自分の15年前の記録によるとこのピークを踏んだことになっているのだが、おそらくそれは間違いでその時は巻いてしまっていたと思う。地味な山頂の割には何人もの登山者が行き交っていた。
先ほどの分岐に戻り、二俣尾駅への下山路に入る。ここ愛宕尾根も初めてだ。日ノ出山を絡むルートしてはあまり歩いたという記録を見たことがないが、道は整備されちゃんとした標識も立っている。ここも杉林の尾根道で、最初の小ピークでカンアオイを見ることができた。
やがて突然大きな建物が現れる。愛宕神社だった。古い木造だが手入れはされており、土地の人が定期的に参拝で登って来ているように見える。建物の奥の木には「愛宕山」の表示があった。
さらに下ると愛宕神社参拝のための丁目石があり、また「山内新四国八十八ヶ所霊場」と書かれた立派な石塔が立っていた。石塔はこの先に何塔も立っており、書かれている数字は八十八からひとつずつ減っていき、五十くらいまで続いていた。どうやらここは四国の八十八箇所の札所巡りが代替できる道ということだろう。四国の八十八ヶ所にあるお寺まで行かなくても、ここをひと通り参拝すれば同じご利益が得られるということで、このような代替地は全国各地にあるようだ。
一本の尾根道に集中して八十八もの霊場があるとは、愛宕尾根はかなり畏れ多いパワースポットということになる。地味な登山道の中にもひとつの大きな存在価値を見出すことができて、何だか得した気分である。
即清寺への道を分けてからは石塔も見られなくなり(即清寺は山内新四国八十八ヶ所霊場の入口ということである)、木々の間から見えてきた明るい町並みに向かって下るのみ。愛宕神社の下社の前に出て登山道は終わる。急な石段を下って二俣尾地区の里道へ。空はまだ青く、冬のきりりとした空気で満たされていた。
ここに下山したのは初めてで、まだ見たことのない二俣尾駅を見るのを楽しみにしていたのだが、駅舎も何もない、ただ跨線橋が線路の上に通っているだけの味気ない無人駅だった。
青梅線はすぐにやって来てしまったので、そのまま滑るように乗り込み帰途につく。