奥多摩の山も、ツツジが咲き始めたようだ。アカヤシオを求めて、久しぶりに真名井北稜を歩く。
前回は11年前、3月に積雪の中を登った。それ以前にもここを歩こうとしたのが2回あったのだが、いずれも取り付き口を間違えて別の尾根に登ってしまった。
今は歩く人も増え、ネットなどで情報も溢れているから、こんなことはないだろう。いい思い出である。
アカヤシオ咲く真名井北稜
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立川駅で青梅線に乗り、発車を待っているとびっくり、sanpoさんが声をかけてきた。昨年の黒川鶏冠山、先週の高尾スミレオフに続いて、今回も同じところを歩くことになった。
車窓から望む奥多摩の山々は、青空の下、麓から萌黄色に染まりつつある。ゴールデンウィークに入り天気も上々。今日は賑わう山になりそうだ。
川井駅のバス停は、青梅街道沿いに少し移動していた。上日向でバスを降り、真名井橋を渡る。道路沿いにはシダレクラがきれいに咲いている。
林道から2分ほどで右手の山道に入る。取り付き口の目印は「秩父線38号に至る」の黄色い標柱である。11年も経てばずいぶん痛んでいる。尾根に上がるまでの20分ほどは急登で一汗かかされた。
緩やかな尾根歩きがしばらく続く。41号鉄塔は下を巻き、42号鉄塔はすぐ下を歩く。ところどころで伐採が入り眺めがよい。sanpoさんによれば、以前にはなかった伐採地のようである。右手の雑木林はすでに淡い新緑で、ミツバツツジも混じって色鮮やかな稜線だ。また、この尾根にはアシビも多く、植生にバラエティがある。
頭上に見えていた送電線がいつの間にか去り、やがて左側が大きく開ける、広い伐採地に出た。これは11年前にもあって、自分もよく覚えている。今日は、11年前に自分が書いた山行記録をコピーして持ってきているが、アシビが多いこと、広い伐採地のことなど、なかなか正確に書いていて我ながら感心?する。
赤杭(あかぐな)尾根が余すところなく眺められ、新緑やヤマザクラが、稜線めがけてどんどん駆け上がっているのがよくわかる。それでも下のほうに大きな残雪が見える。どうやら林道の斜面を埋めているようだ。この林道は赤杭尾根の上部で登山道と交差するものである。
伐採斜面は枯れ笹が繁茂するもスミレが多く、タチツボ、ニオイタチツボ、エイザン、アケボノ、マキノスミレが見られた。自分が気づかず通り過ぎても、sanpoさんがしっかり見つけてくれる。
また斜面には、鹿除けの防護ネット筒があちこちに立っていて、植林作業がなされている様子だった。今日はこれ以降も植林の施された場所を多く見ることになる。
新緑色が淡くなり、全体が明るい自然林に包まれる。ミツバツツジが回廊のように頭の上に咲き続く。ここ数年はツツジが不作が続いていたが、今年はどうやらミツバツツジなど当たり年になりそうだ。
やがて尾根は急登となり、露岩も目立ち始める。目の上のピークは右から巻き、さらにヤセ尾根を直上。前回歩いたときも、このコースはきついという印象があったので、11年も足が遠のいていたのかもしれない。いったん傾斜が緩やかになり、ホッとする。1002m点のあたりはほとんど芽吹いていない。
この先の急登も半端ではなく、後ろにひっくり返らないように注意して登る。目の前に大岩が立ちはだかる。ここでようやくアカヤシオが見られるようになった。岩角に上がり、アカヤシオを前景に春霞の奥多摩を遠望する。
さらに登りをこなし、1168m点に到達。狭いピークだが木々を透かして北東に棒ノ折~槙ノ尾山方面、西側に赤杭尾根が眺められる。真名井北稜の登りはこの先、赤杭尾根に合流する真名井沢ノ頭で終了である。アカヤシオが咲き、イワウチワも見られた。
また、北斜面には大丹波川へ没する急な尾根筋が下りていて、踏み跡もある。見える範囲では、アカヤシオがずっと咲き続いている。sanpoさんは当初この踏み跡を使う予定で、自分もアカヤシオ目当てでそれに乗ることも考えていた。ただ、この尾根の下部はおそらく花は終わっていると見て、ここを歩くのはまたの機会とした。
あとは赤杭尾根まで、緩やかな登りを残すのみだ。ミツバツツジはよく花を付けていたが、アカヤシオは期待したほどではなかった。花期のピークを過ぎていたのかと言うとそうでもなく、地面に落ちている花びらもあまり見られなかった。
真名井沢ノ頭に到達する。以前見た山名板はなくなっていた。そのまま赤杭尾根を登り、川苔山へ歩を進める。
もう近いとわかっていても、なおも急登の続く今日の行程はなかなかつらい。けれど、この時期は冬のなまった体を夏仕様に改善させていくために、少々オーバーワークな登山プランのほうがいいのである。
谷間にいまだ残雪の見られる中、川苔山東の肩に着く。川乗橋から川苔谷を経て山頂に向かうコースはいまだ通行禁止となっていて、ロープが張られている。
最後の登りで川苔山山頂。大勢の人で賑わっている。それにしても本当に若い人が増えた。雲が多くなったので富士山は見られない。
開放的な山頂だが、樹林の背が高くなってきたのが気がかりだ。おまけに、山頂直下の斜面にはカラマツの幼植林が植えられている。おそらく、花粉症の原因となる檜や杉を切ってほかの樹林を植える活動の一環なのだろうか。東京都がそういう事業に乗り出したという話を、以前聞いたことがある。
川苔山も、いずれは樹林に囲まれた山頂になってしまうのだろうか。
踊平経由で大丹波林道に下ることも考えたが、横ヶ谷平~大丹波川沿いが通行禁止であることが気になったので、今日は赤杭尾根を下ることにした。
真名井沢ノ頭まで戻り、さらに尾根通しに下る。このコースはいったん林道に下るのだが、その手前にちょっとした潤いの場所がある。植林下の斜面にハシリドコロ、ニリンソウ、カタクリなどが点々と咲いていた。スミレもヒナスミレ、フモトスミレと顔ぶれにバラエティが出てきている。ただ、スミレはきれいなフイリ(斑入り)の葉がなかなかない。
赤久奈山で休憩の後、標高1000mを切ると淡い新緑が復活してきた。思い出したようにカタクリがポツポツと現れる。
分岐で古里駅に下らず、今日はさらに尾根通しに下る。すぐにズマド山への分岐、その方向に進みズマド山北峰、さらに鞍部から三角点のある南峰に登る。
南峰からの下りが急斜面で大変だった。数年前に登りにとったことがあるが、こんなところを登っていたのか記憶がない。もしかしたら違うところからズマド山に上がっていたのかもしれない。
ズマド(頭窓)山、気になる名前の山である。
あとは植林の尾根を下るのみだが、ここにはスミレが多く咲いていて飽きさせない。普段あまり見ないマキノスミレがここには当たり前のように多く咲き、さらにヒナスミレ、シロバナタチツボスミレを見る。ギザギザの大きな葉をつけた濃紫はもしかしたらオクタマスミレかもしれない。
今日はアカヤシオが第一目的だったのだが、私たちを忘れないで、という声が聞こえるように、途中でスミレが主役にとって代わったようだ。
車の音が聞こえるようになって尾根を外れ、里道に下りる。川井駅がすぐ下に見えて簡単に下りられそうだが、標識もなく少し迷う。駐車スペースのすぐ下の道に入り、青梅線の線路のすぐ横まで出る。民家の脇をすり抜けて青梅街道に下り立った。
奥多摩の春を1日堪能した山行だった。今年もこの季節がやってきた。川井駅でドリンクを買い、青梅線に乗り込む。