翌朝は5時半に朝食。日の出は6時50分で、東京は年間で今の時期が一番遅い。そのため小屋で食事をとってから出発しても日の出には十分間に合う。
連なる山並みと富士山。鷹ノ巣山山頂より [拡大 ]
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まだ暗い6時10分に雲取山荘を出発する。冷え込みはさほどでもないが、上部から風の吹きすさぶ音が聞こえた。
再び雲取山山頂。しばらくして石尾根の上から赤い日が昇ってきた。昨年は山の上で泊まったのが2日しかなく、最初は林の中でのテント泊、2回目は曇りだった。山上で日の出を見たのは実に一昨年夏の飯豊以来となった。
今日は石尾根を縦走する。もう10回近くやっているが、体力の落ちた今となっては、日のあるうちに奥多摩駅まで歩けるのか不安だ。半面、少しワクワク感もある。
天気は上々。昨日は雲をかぶっていた南アルプスもくっきりと白い姿を見せている。7時10分に歩き出す。
この時間の石尾根稜線はまだ日が届かいていないが、風はピタッと止んだので、耐えられないほどの寒さではない。ヨモギの頭から先は雪も薄くなったのでアイゼンを外す。
石尾根は南アルプスの展望台だ。縦走していくと、見える南アルプスの山がどんどん変わっていくのが面白い。始めのうちは隣りの飛竜山が大きくて後ろの甲斐駒や白峰三山は見えない。奥多摩小屋からカラマツの稜線に入ると次第に北のほうが見えてきて、農鳥、間ノ岳、北岳と順番に姿をあらわす。塩見、荒川、赤石、聖と合わせて一直線に見えるようになる。
ブナ坂から登り返して高度を取り戻すと、さらに仙丈、鳳凰三山、甲斐駒が加わり、まさに南アルプスオールスターズだ。
七ツ石山に到達。開放的な山頂は変わらず雲取山や石尾根、日原の山がよく見えるが、南面のカラマツが伸びて富士山がずいぷん見にくくなった気がする。10年くらい前に撮った写真と比べたら歴然だった。
下っていくと、山名の由来となった7つの石を背後に、七ツ石神社が新しく建てられていた。小さな鐘もあるので叩いてみたら、乾いたとてもいい音があたりに響き渡った。
新潟では二王子岳や五頭山など各地の山の山頂に鐘があって、多くの登山者が登った証として記念に鳴らしていく。信仰の山の名残として鐘があるのだろうか。けれど、東京の山にも鐘があったっていい。まさか住宅街の除夜の鐘のように「音がうるさい」などという苦情はこないだろう。
千本ツツジ山頂を踏み、下った鞍部からは巻き道で行こうと思っていたが、木橋が崩落の恐れありということで通行止めになっていた。
先に進むには高丸山を巻かずに登らなければならない。きつい山なので巻きたかったが仕方がない。
登る途中で出会った登山者によると、通行止めは高丸山の巻き道部分だけということだった。高丸山から下って再び巻き道に出会う。今まで巻いた部分にはやはり通行止めのプレートがかかっていたが、ここから先は大丈夫そうで安心した。通行止めは昨年の11月からのようなので、これも台風19号の影響だろう。
日陰名栗ノ峰を巻く部分は入り組んだ入江状の地形をなぞっていく。ここの巻き道は体力セーブとなるが、時間的には尾根道とあまり変わらないように思う。
鷹ノ巣避難小屋で休憩してから鷹ノ巣山に向かう。この山には昨年の1月に登っていた。七ツ石山と並ぶ石尾根の主峰で、山頂を巻く道はあるが、縦走するときには心理的に巻けない山である。
再び雪の増えた稜線をたどって鷹ノ巣山山頂。南面には富士山を中心に丹沢、大菩薩、御坂の幾重にも連なる山並みはいつ見てもすばらしい。
南アルプスはまだ勢ぞろいしているが、白峰三山には少し雲がまとわりつき始めていた。
日原へ下る稲村岩尾根の入口には、日原街道崩落のため下らないでほしいとのプレートが。これは雲取山や石尾根のいたるところで見られた。
日原街道は現在、仮設の迂回路(歩道)が通じたようだが車は通れず、集落は未だに陸の孤島状態に近いようだ。人が来ないために野生動物が麓を闊歩し、畑を荒らしまくっているという。
崩落箇所の暫定復旧は早くても4月以降になるとのことで、完全復旧になると全く見通しが立っておらず、一部では3年かかるとも言われている。路線バスの運行開始時期が気になるが、早期の再開は望み薄のようだ。
「たかが台風1個」で、こんな状態になるとはだれが予想しただろうか。その上、今年の夏も同じような台風が来ない保証はどこにもない。日本の国土は破壊の方向に進み始めたのではないかという危惧を持つ。
鷹ノ巣山からさらに東進。峰谷への下山や榧ノ木尾根への転進という誘惑を断ち切り、石尾根縦走を続ける。
水根山~城山にかけての樹林帯に入ると、倒木の数が格段に増えた。台風19号以前もこの部分は倒木が目立っていたが、老齢樹が多く、寿命で倒れたものも多い。
今日目につく倒木は若く細い木だったり、幹の途中で引き裂かれて半倒れになっていたりで、明らかに外圧で倒れたものばかりだ。城山のブナ大木は無事だった。
将門馬場に下り、六ツ石山北面の長い登り返しに入る。城山以降めっきり目立たなくなった積雪が、ここへきて急に増える。ほぼ真北向きの斜面に沿って登山道がつけられているところで、こういう場所は石尾根の長い縦走路の中でも数えるほどしかない。凍結もしているのでアイゼンを再び使おうかと迷っているうち、六ツ石山の肩に着いた。
5分ほどの苦しい登りで六ツ石山へ。眺めは芳しくないが今日最後のピーク。ゆっくり休憩してから行こう。どうやら暗くならないうちに奥多摩駅まで歩ききるめどがついた。
大岳山や御前山を見上げながら、幅広の防火帯を下っていく。雪はほとんど見られなくなり、凍結したところもなくなった。
三ノ木戸山の巻き道もまた、石尾根の北斜面につけられた数少ない登山道のひとつだが、標高が下がったおかげで雪はほとんど残っていなかった。
もちろん年によって違うが、冬の石尾根はこの場所を通過するまで、アイゼンは履ける状態にしておいたほうがいい。
長い植林帯の中を数度下って、いよいよ石尾根縦走もクライマックスとなる。小さな社を見るとその先で、木の間から奥多摩のセメント工場が覗く。久しぶりに見る下界の様子である。
石尾根登山口に下り、舗装された林道をしばらく下る。羽黒神社の境内に下り立って、石尾根縦走の行程はほぼ終了となる。
氷川の静かな町並みの中を歩き、奥多摩駅の交差点で右折し、もえぎの湯に寄り道していく。明日も休みなので時間を気にせずのんびり湯に浸かる。
久しぶりの雲取山、山中一泊、そして石尾根縦走。やりきれたことの充実感、そして雲取山のすばらしさをあらためて実感した山旅となった。