昨日の大雨の余波で天気はあまり良くなさそう。
けれど5月中旬、奥多摩は新緑輝く季節に入った。川苔山へグリーンシャワーを浴びにいくことにする。
眩しいほどの新緑(赤杭尾根)
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川井駅に着いたとたん、朝の山里の静けさをつんざくようにサイレンが鳴り響く。北朝鮮がミサイルを発射したようだ。
東日本大震災以降、日本はこういう有事に対してとても神経質になってしまった。でも、こんなところでサイレンを鳴らされたってどうすることもできない。何を求めているのだろうか。
うがった見方をすれば、何も知らせずに後で批判を受けることのないよう、とりあえず鳴らしておけ、という意図がうかがえる。バスが来るまで時間があるので、とりあえずは国のマニュアル通りに、頑丈な建物(駅舎)の中に入っていた。
明るい緑が鮮やかな中、バスは山深く入っていく。棒ノ折山に行く団体といっしょに終点の清東橋で降りる。このバスは以前は朝の便が上日向までだったが、清東橋まで入ってくれるようになって、車道歩きの時間が少し減った。
奥茶屋キャンプ場を過ぎ、大丹波浄水施設を見て車道をゆるく登っていく。緑濃く、白い木の花を見るくらい。フジの花ももう終盤か。山の上のほうは雲がかかり、時折り霧雨のようなものを頬に感じる。
ヘリポートを過ぎて林道が未舗装になると、やがて登山道入口が左の沢方向に下っていた。林道はこの先も続いていて、登山道もそこから入れるはず。ここはいつも判断に迷うのだが、林道歩きを早く終わらせたいのでここから山道に入る。
草深い道で、朝露が体にかかる。さらに左手に山道が分岐していたので試しに入ってみる。沢に木橋がかかり、その先に登山道が伸びていた。曲ヶ谷沢ルートはまだ先であり、この道の存在は今まで知らなかった。川苔山まで登れるのだろうか。
行ってみたい気もしたが、濡れた細い木橋を通過せねばならず、少々恐かったのでやめた。
元の道に戻り、沢沿いに進む。途中で何度も木の橋を渡る。壊れかかった橋を渡るのも嫌だったがそれよりも、雨で濡れているため慎重に足を運ばないとスリップしそうで、そちらのほうに神経を使う。
この大丹波川沿いの道は、今の時期新緑がすばらしく花も多くて、路面が乾いていれば快適な沢ルートとなるのに、今日はずいぶん勝手が違う。濡れた木橋は、直接渡渉するよりもむしろ危険度は高い。尾瀬などでは骨折してヘリで運ばれる人もいた。大股で早く渡り切ろうとして転びそうになり、冷や汗をかいた。足の筋肉に力が入って疲れる。
左岸に移り高巻きの道を通過。落ち着いたところで足元に目をやるとニリンソウ、サワハコベ、キケマン、ムラサキケマンなど、どれも派手さはないが花の種類は多い。シコクスミレも見られた。
林道から降りて来る道を2回合わせ、さらに沢沿いに進む。谷が狭まり、山深くなってきてわさび田を見る。杉林の脇を登っていくと獅子口小屋跡に出た。
やれやれ、腰を下ろしてしばらく休む。ここまでコースタイムを40分もオーバーしてしまった。いくら雨で濡れて危険な場所が多かったとしても、これは少し時間がかかり過ぎだ。最初の登山道入口を見送り、林道をもう少し歩いた方が結果的には早かったであろう。
踊平への登路は崩落で今なお通行止になっている。山の上の方はガスがかかっていた。おまけに雨粒が落ちてきたので、雨具の上だけ着てから出発する。
沢筋からようやく離れ、急登の尾根となる。水の音が聞こえなくなるとあたりはほとんど無音状態に。空模様がこんななので、鳥のさえずりもあまりない。しかし中腹は見事な新緑模様だった。
傾斜は急だが、道はよく整備され歩きやすい。
やがてガスの立ち込める高度まで来ると、そのグリーンシャワーも霞み気味になった。上部の稜線が見えてくるとほどなく横ヶ谷平で、都県界尾根に合流する。
稜線はガスで見えづらいが、淡い新緑となっていた。川苔山は全く見えず。草むらにフイリフモトスミレを見る。小さいのはニョイスミレだろうか。
アカヤシオの花が一輪、奇跡的に残っていた。これではシロヤシオなどはまだまだかな、と思い曲ヶ谷北峰付近で周囲の樹林を見渡すと、白い花芽がたくさん付いていた。そして開花しているものもいくつか見ることができた。
ただ花はみなしおれ気味で下を向いており、咲いたのではなく、昨日の雨でふやけて花の中が見えてしまっているだけかもしれない。
百尋ノ滝からの道を合わせると、多くの登山者とすれ違うようになる。こんな天気でも、人気の山に来る人の数はあまり変わらない気がする。それだけグループで登る人が多いのだろう。ソロだとやはり、山に登るかどうかは天気に左右される割合が高くなる傾向があるようだ。
ハウチワカエデ、ウリハダカエデなどカエデ類は今が花の季節で、瑞々しい若葉の下に赤やクリーム色の小さな花をたくさんぶら下げていた。
川苔山山頂に着く。ガスで何も見えないにもかかわらず登山者であふれ返っていた。山頂部から一段下がったテラス状のところで休憩する。淡い新緑は山頂まで上がってきていた。
しかし歩き始めから4時間もかかっての登頂である。この間の城峯山と同じように、今までで一番遠い川苔山となった。
赤杭(ぐな)尾根で下山する。急に人が減った。山頂の人の多さと比べると、こちらを歩く人は極端に少ない。なんだかわざと人のいないところを歩いているかと思われそうだが、そんなことはない。
防火帯の尾根を少し下るとガスは無くなり見通しが効いてきた。しかしこのルートで展望の良いところはほとんどなく、一箇所西側が開けるところも今は樹林が伸びて、背伸びしないと大岳山などが見えづらくなっていた。
それでも周囲は鮮やかな新緑がどこまでも続いていて、身も心も清められる感じだ。エビ小屋山を巻いて林道に下る途次では咲き始めのヤマシャクヤクがあった。
赤久奈山でひと休みしてからはひたすら下ることに努める。ズマド山経由の道は今日はやめておき、普通に古里駅へのルートをとる。
「アリ地獄」と勝手に呼んでいるザレた危険地帯を慎重に通過し、集落の上段に出る。最後は日差しも復活し、思いがけず暑ささえ感じる中、古里駅に下った。
久しぶりに天気の悪い中での登山となったが、まともに降られないでよかった。梅雨入りする前にもう一度、奥多摩の緑の山を楽しみたい。