奥多摩の御前山はカタクリで有名だが、一頃に比べ花は減っていると言われる。
6年前の同時期に登ったときはまさかの雪で、カタクリを見ることはできなかった。春の御前山はそれ以来である。
カタクリ(御前山山頂付近)
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平日にもかかわらず、奥多摩駅からのバスは座席が全部埋まった。
眩しいくらいの春の日差し。奥多摩湖バス停付近はソメイヨシノがよく咲いていた。標高の低い部分の樹林は芽吹き盛んで、茶色から萌黄色のグラデーションにツツジのピンク、桜の白が鮮やかに映える。
暖かいわりには北風が強く、周囲の眺めにもやっとした感じはない。そのため山がよく見える。三頭山へ続く稜線は冬の姿のままだ。
今日は水久保沢登山口から小河内峠に上がるルートを行く。湖畔歩道「いこいの路」に入り、芽吹きの山肌や桜を見ながらくねくねと進む。入り江が深く、けっこう時間がかかる。
橋を渡ったところの水久保沢登山口から入山する。しばらく沢沿いを進むが、どうも様子が今までの記憶と違う。以前はすぐに尾根に取り付いた気がするが。ほどなく、見覚えのある「←おくたまこ」の手書き標識があり、そこから急な山腹を登り始める。
ジグザグに登り、岬から伸びる尾根に合流する。ここからは見慣れた登山道だが、携帯のGPSで確認するとこのあたりはすでに標高790mで、今まで考えていたよりはずいぶん内陸側(南側)で合流していることがわかった。登山地図などでは、今登ってきた道はもっと奥多摩湖側に引かれている。
GPSを使うようになって、今まで歩き慣れていた登山道が実際は想定のコースとずいぶんと違っていると気づくことが多い。
尾根上は背の高いカラマツやヒノキが多いものの総じて日当たりはよく、芽吹き始めた木も多い。スミレやミツバツツジも見る。
小河内峠に着くと、風が音を立てて吹いていた。気温が高くても風があるとさすがに少し肌寒い。木の間から奥多摩湖や石尾根の稜線がよく見える。
惣岳山に向けて尾根通しに登る。2000年に初めてカタクリの群落を見た、思い出深い尾根である。途中から植生保護のための柵が現れる。さっそくきれいに花をつけた一輪を見ることができた。しかし、吹きさらしの尾根筋はまだ少し開花期には早かったのか、それ以降しばらくは葉が出ているのを見るくらいで、花はない。花芽が伸びているかと言ったらそうでもなく、葉っぱばかり。やはり全体的に株数が減ってしまったようである。
以前は「カタクリは7年めで花をつけます」などという解説図表付きの看板もあったと思うのだが、そういうものも今はない。
登山道は尾根南側を回り込んで、いくぶん明るくなる。スミレがたくさん見られるが、カタクリはない。カタクリは北斜面に群落を作ることが多いような気がする。暖かい南側だと他の植物に負けてしまうので、長い年月をかけて競争の少ない北の斜面に住処を見つけたのではないか。
細尾根となって惣岳山への急登が始まる。尾根が幅広さを取り戻すと、再び柵が出てくる。カタクリもまた、ポツポツと花を付けたものが見られるようになった。岩陰や木の根元などによく見られるのは風除けのためであろうか。
急登が終わり、振り返ると山並みの奥に富士山が大きい。やはり北風の吹く日は空気がよどんでいないせいか、雪冠がはっきり見える。
惣岳山まではひと登り。日当たりがよくカタクリも増えてきた。惣岳山山頂から向きを変え、御前山との間の鞍部まで下る。このあたりもカタクリが多い。今日は標高を上げるにつれカタクリがよく見られる。またバイケイソウも鮮やかな緑の葉を伸ばしていた。
右手に、鹿の食害調査のための網柵に囲われた一角があり、その中はもっとカタクリが咲いていた。やはり御前山のカタクリが減ったのは、他の山と同様、野生動物が食べてしまったことによるところが多いのか。今まで柵の外で見られていたものも、木の根元や階段の脇とか、鹿が食べようとしても頭がつかえて届かないようなところばかりのような気がする。
最後の登りで御前山山頂に到着。樹林に囲まれ眺めはよろしくないが、落ち着いた雰囲気がいかにも奥多摩の山らしい。富士山は木の間から見えるだけでいい。
しだくら尾根から栃寄へ下ることにする。惣岳山への登り返しは思いのほかきつい。惣岳山山頂の奥多摩湖側に立つ指導標に、「山道」と示した方向の尾根に入る。道は足ざわりが急に柔らかくなった。
ここ「しだくら尾根」は基本的にはバリエーションルートではあるが、上部は「しだくらの道」として奥多摩体験の森のルートの一部になっており、途中にコース案内図付きの標識も立っている。北面には木の間ながら石尾根の東端部、そしてその奥に都県境尾根も見える。
アセビの広場でしだくら尾根と別れ、右手の植林帯に入っていく。どんどん高度を落としていくと、あずまやのあるヒノキの広場に下り立った。惣岳山からの一般登山道と合流する地点であり、そちらからは何度か下ってきたことがあるので、覚えがある。あずまやの周囲にはウッドチップの歩道もある。
この付近は名の通りヒノキの植林地で、地面ものっぺりした場所なのだが、あちこちにカタクリの葉が出ており、花も咲いている。こういう場所にカタクリが咲くのはほかであまり見ない気がする。あずまやの奥にあるモノレールの向こう側は日当たりがよく、カタクリがたくさん咲いていた。
ヒノキの広場からさらに下り始めたところの斜面は、ハシリドコロの葉で埋め尽くされていてちょっと圧倒された。その後登山道は自然林となり、芽吹きが見られるような標高にまで下りてきた。カタクリも数は少ないながら継続して見られる。減ったとはいえ、御前山はやはりカタクリが似合う、と言うよりカタクリに気に入られた山なのだなあと思う。
栃寄上部の登山口に下り、あとは1時間余りの車道歩きを残すのみ。栃寄森の家付近ではソメイヨシノ、花桃、ミツバツツジなどが咲き競い、桜のトンネルをくぐりながらの歩きとなった。
その後栃寄沢登山口の横に出るが、土砂崩落により再建工事が行われていて、通行禁止の表示がかかっていた。重機も入っている。工事期間は平成28年3月までと書かれているので、少し時間がかかっているようだ。
北風も治まり、暖かさを感じながら境橋バス停へ下る。橋付近は新緑が始まっていた。