12月に入り、日もどんどん短くなるのに加え、寒さも急に厳しくなってきた。初冬は秩父の低山ハイキングの適期であるが、初冬を飛び越えて真冬になってしまった。
奥武蔵の山上集落「定峰」(さだみね)は下山地として何度か歩いているが、今回は逆に登山口としてみた。
夜祭期間中のため、西武秩父駅前ロータリーにあるバス停が、操車場のほうに移動になっていた。また、この期間は秩父駅などの市街にバスは入っていかないため、走行時間が短くなる分、バス発車時刻も多少変更になっていた。
天気は芳しくなく、武甲山さえ霧の中で見えない。
雲間から山の稜線が現れる。眺めのいい定峰集落
|
秩父の町をバスは走っていく。まだ紅葉が鮮やかである。定峰バス停で支度をしていると、バスの運転手さんが「山ですか?この先の田んぼの中に細い道がついているから、それを上がっていけば近道だよ」と教えてくれた。
車道を上がり、定峰神社を見る。境内の裏側の林が尾根状になっているので、山道でもあるかと入ってみたが、途中で藪になったので引き返す。
民家がポツポツと現れると定峰集落である。静かな里の道をさらに上がっていく。カエデの紅葉が鮮やかだ。やがて背後の眺めがよくなり、雲海の上に山の稜線が姿を現した。日が差し込んでちょっと幻想的な風景である。
散歩していたおばあちゃんに「大霧かい?」と声をかけられる。道脇には手製のベンチがしつらえてある。おそらく地元の人用のものだろう。時間がゆっくりゆっくり、流れている
その先にある時計台の指導標は、前来たときから新しくなっていた。
緩く坂を上がり、車道に合流。道なりに進み、仕事道を1本左に見送った先に登山口があった。小さな標識が立っているが見過ごしやすい。
急なところもない穏やかな山道は、むかしの峠道の趣だ。雑木林を抜け杉の植林帯となる。登るにつれ、下の方から聞こえる里の生活の音は小さくなるが、消えることはない。
杉林の中、薄暗い稜線上に出る。旧定峰峠に着いた。大霧山に登る道とは反対に、南へ緩やかな尾根道を進む。回りが自然林になると、笠山の姿が見えてきた。少しの登りで獅子岩の上に立つ。深い落ち葉の絨毯になっているが、まだ木々の紅葉も残っている。
ふと気がつくと、周囲は霧で視界が閉ざされていた。あれっ?と思ったら、パラパラと降ってきた。人工林に入ったのであまり雨に当たらないのが幸いだが、それなりの降りになってきたので、雨具を着ることにする。
雨は急に強まり、やがて霰のようになった。茶屋と休憩所のある定峰峠に下り立つと、霙交じりのどしゃ降りになってしまった。休憩所は屋根付きなので助かった。MTBの人たちも雨宿りしにきている。やがて、茶屋の中から声がした。「寒いからこっちであったまったら?」おばさんの薦めにありがたく中に入らせてもらう。お茶まで出してくれた。
定峰峠の茶屋に入るのは初めてだ。聞くと、この茶屋を建ててから40年たつと言う。当時は舗装道路ではなかったが、すでに車は入れたらしい。奥武蔵の山は上のほうまで車道が通っているが、車道が出来る以前はどんな山だったのかが興味がある。山歩きはできたのだろうか。
今日は思わぬ12月初日の雪でびっくりしたが、ここ標高700m程度の定峰峠は10年ほど前、1月に60cmの積雪があったらしい。車での下山が大変だったとおばさんが言っていた。昔、秩父の冬は寒かったのだ。外の霙も収まって、笠山が現れた。定峰峠からの笠山は大きく美しい。今日は白石峠を経て笠山まで縦走する予定で、行動を再開したがすぐに天候再び悪化。今度は正真正銘の雪となった。
下界は晴れているようだが、山の上は雪雲がなかなか切れそうにない。今日は縦走をやめて下山しよう。昨年登った白石車庫からの登山道を下る。目の前の笠山がどんどん高くなっていく。
するとどうだろう、あれほど悪かった空模様はみるみる回復し、途中のうどん店に下ってきたころは真っ青な青空の快晴になってしまった。
対象が高い山だったのなら、あきらめて次のバスで帰るところなのだが、澄み切った青空にそびえる笠山を見て、やはり登りたくなった。白石車庫からも1時間と少しで登れるので、一度下山してばかみたいだが、ここから登り返すことにした。
日をさんさんと浴びる白石の集落の中を縫うように、山道に入っていく。植林帯で味気ない道が続くが、今日はいったん体が出来上がっていたせいか、足ははかどる。林道を2回横切り、さらにがんがん登って笠山峠からの稜線に出る。10分ほどで笠山西峰に着いた。
赤城・榛名山の山並み、関東平野が広く望めた。谷川岳など上越国境は雲の中。赤城山のてっぺんはかなり白くなっていた。
東峰にも寄った後、萩平方面へ下る。自然林の豊かな北斜面の山道からは両神山、浅間山などが眺められた。展望台というには大げさだが、休憩にいい場所である。ただし冬は風が冷たいだろう。
ひとしきりの急な下りは落ち葉がいっぱいたまっていて、しかも滑りやすい。七峰縦走の標識を見ながらどんどん下り、萩平集落に下り立つ。
以前写真に撮っていた朽ちた道しるべは、さらに劣化が進みぼろぼろになっていた。自分が山を歩き始めてずいぶん時間が経ったのを感じる。けれどここ萩平は昔と変わらない、静かで眺めのいい場所である。観光農園があり、みかんがなっている。奥武蔵一帯はみかんの北限地域でもある。
今日は定峰、白石、萩平と3つの集落を結んで歩いた。奥武蔵の山歩きはこうした山上集落を登下山の途中で通ることが多く、その風景を眺めるのが魅力のひとつである。他に破風山の大前、伊豆ヶ岳の八ヶ原、大持山の浦山など印象が深い。
皆谷から、路線バスで小川町駅に戻る。