友人と笠取山に登る。例年5月下旬はこの山のシャクナゲの時期である。ただ花つきは年によってずいぶん違う。今年はどうだろうか。
笠取山三角点付近から、トウゴクミツバツツジ越しに大菩薩嶺を望む
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作場平橋の駐車場には8時過ぎに着く。ほぼ満車近かったがまだ停められた。
空は雲が多い。ただ来る途中、高速のパーキングからは富士山も見えた。前日の雨で大気中のモヤモヤが洗い流されたと見え、ガスさえなければ展望は楽しめそうだ。
登路は一休坂を選ぶ。木々の緑は濃くなり、見られるツツジの種類はヤマツツジとなっていた。奥多摩と違って、奥秩父の山中にはまだスズタケが枯れずに残っているところも多く、見通しのあまりよくない薄暗い登山道は以前の面影をそのままとどめ、懐かしささえ感じる。
と、登山道の20m先に鹿が佇んでいた。角があるのでオスだ。こちらを凝視し、逃げる様子もない。しょうがないのでこちらから近づいていく。5mくらいの至近距離になるとようやく左側のスズタケの中に潜っていった。
しかし数分登るとまた登山道上に鹿。今度は角もなくやや小型だ。さっきの鹿の子供か。しかもこちらへ歩み寄ってくる。同じようにすぐ手前までやってきたところで草むらに消えた。
これだけ人間に対して警戒心をなくしたのは、やはり人間に餌を求めているのだろうか。
傾斜が緩くなって穏やかな山腹の道をしばらく行く。小鳥のさえずりをかき消すように森に響き渡るのは、エゾハルゼミの合唱だ。今日は太陽がなく気温も低いのだが、セミにはあまり関係なさそう。
登山道には東京都水道局による、森や水に関する案内板があちこちに立つ。ここは山梨県だが、東京都の水源林として都が維持管理をしている。指導標は真新しく、どれも東京都水道局の文字が書かれている。
東京都は前々都知事のあたりから、山野の維持管理に力を入れてきた。綺麗な避難小屋が多いのもその一環だろう。先週雲取山で会った埼玉県在住の人は、埼玉県はこういったことにあまりお金をかけていないので、登山道の整備も後手後手になっていると言っていた。
沢沿いの道には、ニリンソウが多く咲いていた。花が小さいのでサンリンソウのように見えるが葉の形状が違う。馬止への道で昨年、サンリンソウを見ている。ほかにクリンソウが花をつけ始めていた。
よく整備された道を登り、最後に小高い丘をひと登りで笠取小屋に着く。営業小屋、無人小屋など3棟の平屋が立つ。木の間からは大菩薩嶺が形よい。すでに人の往来は活発で、もうテントを設営している人もいた。
笠取山に向けて出発する。木道を緩く登っていくと草原地が広がる。雁峠への道を分け、さらに小さな分水嶺は帰りに寄ることにして笠取山南面の巻き道に入る。カラマツやモミの樹林越しに、おにぎりの形をした笠取山が見えた。ガスもかからず、山頂部からの眺めは今日も良さそうだ。
道の両側には鹿除けの防護ネットが張り巡らされているが、樹皮が剥ぎ取られている木も散見する。やはり鹿は増えているのだろう。
初夏の笠取山は草原にレンゲツツジがたくさん咲いたそうだが、もうずいぶん昔のことのようで、自分も見たことはない。動物による食害が原因とされている。
水場への道を見送り、ほどなく水干に着く。多摩川の最初の一滴はここから発するということだが、今は枯れていた。
周囲はトウゴクミツバツツジがたくさん咲いている。ツツジ越しに富士山も見えた。曇っていても眺めはいい。すぐ先の水干尾根入口あたりはトウゴクミツバツツジの並木道のようになっていた。これは壮観である。
先々週の都県境尾根、先週の長沢背稜と至るところでトウゴクミツバツツジ街道になっていたが、今日が一番すごい。山にツツジの木ってこんなにあったのだと再認識する。
水干尾根の短い急登。稜線に出ると、北斜面にはアズマシャクナゲがたくさん花をつけていた。ただし、日当たりのいい尾根の背ではすでに散り花が目立ち、全体的に開花のピークは若干過ぎていた。それでも量は多いので見ごたえはある。
岩尾根を登り下りする。体の向きが不規則に変化するので、こういう動きは腰に負担がくる。腰痛がぶり返さないように注意する。
最初のピーク、そして次の笠取山三角点からは新緑の山稜を眼下に、トウゴクミツバツツジを前景に富士山がよく見える。そして西の方には南アルプスがくっきりと。北岳など白根三山、塩見、悪沢、赤石、聖岳、南端には笊ヶ岳の2つのピークまで見えた。この空模様でこれだけの大展望は儲け物だ。
シャクナゲ回廊を経て笠取山の展望台へ。国師岳など奥秩父の山も加わり、さらなる大パノラマが広がっていた。富士山も見え続けている。太陽は時々、おぼろげながら顔を出すだけなのだがそれほど寒さは感じず、気持ちのいい山頂での時間を過ごした。
正面の急斜面を下る。こちら側には不思議とトウゴクミツバツツジはほとんど見られないが、斜面に一本だけ、作られたようなすごく濃いピンク色の花をつけた木があった。
小さな分水嶺から笠取山をもう一度見上げる。おにぎり山は楽に登れて展望よく、花もたくさん見られる今年も魅力いっぱいの山だった。
ヤブ沢峠から沢沿いの登山道で下る。テント装備で今から登ってくる人もいる。一休坂分岐でまたしても鹿が斜面を駆け上がっていくのを見る。朝見た鹿と同じだろう。
作場平橋駐車場には14時過ぎの到着となった。汗もほとんどかかず快適な山行だったことに感謝。しかし今日もいつ出るか不安だった腰痛を直さなくては。