~晩秋の避難小屋泊まり歩き、奥秩父の核心部へ~
タイトル
白泰尾根から十文字峠、入川谷 2000.11.3.~5.
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日に輝く苔
日に輝く苔

●展望の大山を往復し十文字峠へ(四里観音避難小屋~四里観音~大山~十文字峠)

朝。雨も上がった。朝日が小屋を柔らかく照らす。

四里観音までは少しの登り。途中で北西側の展望がよくなる。十文字山、梓白岩などの三国峠へ向かう尾根道だろう。

原生林の中、地面を彩る苔のじゅうたんに光が差し込む。あとで下る予定の、股ノ沢林道への分岐を確認し、十文字峠-甲武信岳間の道に合流する。このいい天気の下、少しは展望を楽しみたいので大山に登る。ここから40分ほどだ。


大山山頂からの展望
大山山頂からの展望

山頂直下の岩を鎖を使って登り、展望ほぼ360度の山頂へ。ここへは1年半ぶり。前回はシャクナゲがきれいだった。今日は見渡す限りの大パノラマを楽しむ。

東側は一面の雲海、白泰尾根、眼下に股ノ沢、真ノ沢の渓谷が深い。南側に三宝山への稜線(甲武信岳は隠れて見えない)、雁坂峠へ続く縦走路が横たわる。北面に両神山のぎざぎざ。西側に八ヶ岳と、眼下には黄葉したカラマツ林に囲まれた川上村の高原野菜畑がくっきりと見える。

大山は、地図に標高も載っていないような山だが、この展望を前にして、そのまま通り過ぎる人はまずいない。見上げれば、どこまでも澄みきった秋の空がある。

川上村の高原野菜畑
川上村の高原野菜畑
大山山頂
大山山頂

十文字小屋
十文字小屋

十文字峠へ下りる。小屋のおかみさんと話す。四里観音避難小屋の場所に、旧十文字小屋があったことを初めて知った。
昨日は何かの記念打ち上げで楽しかったとのこと。四里観音に泊まったと言ったら、来ればよかったのにと言われた。柳小屋へ下ってから飲むつもりで、缶ビールを買う。

十文字峠は樹林に囲まれ、しっとりとした雰囲気で2000mの高所にいる感覚がしない。しかし、わずかに展望の利くところに行くと、雲海が眼下に広がるので不思議な感じがする。居心地と標高がアンバランスで面白い。
水汲みついでに、かもしか展望台に足を伸ばしてみた。ちょっとした平坦な場所で、北面の展望が得られる。大山からの眺めには負けるがお昼休憩にいい場所と思われる。


●柳小屋での出来事(十文字峠~四里観音~股ノ沢林道~柳小屋)

四里観音まで戻り、柳小屋を目指す。股ノ沢林道に入った途端、道は細くなる。しばらく行くと踏み跡程度のところも随所に見られるようになり、あまり歩かれていない感じを抱かせる。
林道といっても登山道であり、白泰尾根の歩きやすい峠道に比べれば数段険しい道である。すぐにガレがあり、赤テープに沿った迂回路がつけられている。以降も要所要所に赤テープが出てくる。
全体的に高巻きの道が多く、ガイドなどの地図からは読み取れないような細かい道の曲がりやへつり道があり、またしても思った以上に時間がかかった。

股ノ沢林道
股ノ沢林道

濡れた落葉に何度も足を取られる。また、谷側の足を何度か踏み抜いてしまう。何箇所か渡渉する場所はあるが、さほど恐いところはない。但し、大雨の後の増水時には、渡れないこともあるそうだ。
なお、十文字峠から柳小屋の間は、地図を見るとたいしたことの無い短い距離に見える。さらにエアリアマップや現地の案内板には下り2時間と書かれてあったりするが、それはよほどの健脚の人が好天時に歩いた時である。少なくとも案内板に書けるような数字ではなく、天気が悪ければ、下りでも4時間くらいかかるとみておいたほうがいいかもしれない。

標高を少し下げると、紅葉に彩られた道になっていく。周囲の山肌も次第にカラフルになる。
途中で山仕事の人が残して行ったのか、テントが張られていた。さらにそこからも長いが、やがて眼下に沢(真ノ沢)が見られ、下り切ってその沢を吊橋で渡る。真ノ沢林道への分岐点を過ぎれば間もなく柳小屋が見えてくる。
真ノ沢林道と同様、股ノ沢林道に対しても「崩壊につき通行不能」などと書かれた標識があるが、これは過去のものだろう。

柳小屋(正しくは柳避難小屋)は股ノ沢のすぐ脇にあり、回りは豊かな落葉樹の森で紅葉がきれいだ。沢の流れも清々しい。
この日の泊まりはキャンプで連泊の人が5人、登山者も5人の計10名だった。登山者でもここに連泊する人がいた。

いつのまにか日も傾き、少しうとうとしていると、1人の登山者が入ってきた。真ノ沢林道をピストンしてきたそうだ。
真ノ沢林道は柳小屋から甲武信岳へ直接向かう、ベテランにのみ歩行を許される難路である。ガレが多く地図が全く役に立たない、ルートファインディングと勘が要求される道無き道だそうだ。

モミジの紅葉
モミジの紅葉

聞くと、もう1人の同行者が途中で落としたカメラを拾いに行き、なかなか下りてこないと言う。その人はヘッドランプを持っていないそうだ。このへんの深い森でヘッドランプ無しでは、夜は絶対に動けない。
日が完全に落ちても帰ってこないので、その人はついに同行者を探しにもう一度真ノ沢林道に向かって行った。

あたりは真っ暗、しかしその人もなかなか帰ってこない。さすがに心配になって来た。このまま深夜になってしまい、自分たちも何か行動を起こさなければならない時が来るのだろうか。

待つこと2時間弱、やっとその人が同行者を連れて戻って来た。自分も、他に小屋にいた人たちも安堵の表情を浮かべた。
ヘッドランプが無いその同行者は、迎えが来るのを信じ、登山道でしゃがみ込んでいたそうだ。もしあちこち動き回っていたら見つからなかったかもしれない。また、先に帰っていた人が、過去に真ノ沢林道を何度も歩いていたのが幸いしたようだ。
二人は回りの人に心配をかけたことを詫びて回っていた。


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