那須の三本槍岳を福島県側から登る。一般的な栃木県側からのルートに比べ人も少なく、何と言っても紅葉がいいとのことだ。
一昨年の10月に来たものの、天気が悪くて登るのを諦めたルートだ。今回は大丈夫そう。
9月に入って気温の低い日が続いているが、紅葉の進み具合はどうだろうか。一週間早い気もするが出かけてみることにした。
三本槍岳の山頂付近は紅葉が見ごろ
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ルートは以前、大倉山・三倉山に登ったときと同じ、下郷町の大峠林道を起点とする。鏡ヶ沼を経て三本槍に登り、大峠に下る周回コースである。
大峠林道は車でないとアプローチが難しく、林道も未舗装部分が悪路ではあるが、登山道のほうは急なところも危険箇所もなく、標高差も手頃であり、まさにマイカー登山向けのコースである。
東北道を白河インターで下り、国道289号を西進。南会津町の天気はいいようだ。
那須といえば栃木の山というイメージが強いが、会津地方からもよく見え存在感も大きい。甲子温泉から甲子山~坊主沼~三本槍岳と続く登山道は奥那須の隠れた名縦走路である。
道の駅しもごうを過ぎ、すぐに右手の細道を下っていく。大峠林道は自分の車のカーナビに入っていないので、とりあえず観音公園のある方向へ行く。前回は途中で道がわからなくなり1時間近くロスしたが、今回も一箇所曲がるところを間違えた。
野際新田の集落跡のあたりは林道の右手が開け、那須連山の稜線がよく見える。上の方はそれなりに色づいていそうだ。
道が森の中に入るとアップダウンが多くなり、日暮滝から先はデコボコの未舗装に変わって心細くなるが、林道終点にある駐車スペースに着くと車が数台、すでに停まっていた。
ちょうど出発する夫婦がいたので聞いてみたところ、大峠から三斗小屋温泉、隠居倉を経て朝日岳~三本槍と縦走し戻ってくるそうだ。ここ大峠林道を起点とするルートはコースもいろいろあって、体力に合わせたプランが作れる。
自分も支度をして出発。今日は鳴り物をザックにつけておいた方がよさそうだ。ここは以前の会津街道であり、昔の面影を残す石標も立っている。
15分程で大峠への道と分かれ、左手のカラマツ林につけられた木段に取り付く。標高はすでに1370mで、鏡ヶ沼までは標高差150m程度。きつい登りはない。道は刈り払われており歩きやすい。
ダケカンバの林を過ぎるとガレた枯れ沢状の少し急な登りになるが、程なく一段上の台地に出る。やがて広々とした笹原が眼前に広がり、正面に奥那須の稜線や三本槍岳方面の高まりも見上げられた。標高の高いところはもう、かなり色づいているようだ。
鏡ヶ沼はそこから少し下ったところにあった。大きくはないが、澄んだきれいな水をたたえている。周囲の木々はまだほとんど緑が優勢だが、ここは紅葉するとそれが水面に映って鮮やかになりそうだ。ここまでの登山道がかなりはっきりしていたのも、山に登らずこの鏡ヶ沼を目的にやってくる人が多いからだろう。
反時計回りで沼のほとりに行きつくと、そこで行き止まりになってしまう。稜線は上に見えているのだが、どこから登っていくのかよくわからない。沼の入口まで引き返すなどして取り付きを探す。結局、さっき行き着いた沼のほとりのさらに先に、目立たない踏み跡が伸びているのがわかった。
ここから稜線までは笹の刈り払いが十分でなく、半分は藪漕ぎだ。この道を登る人はそれほど多くないのか。
しかも手を使うような急登に転じ、段差や倒木が多くて思いがけず汗をかく。長いロープが2箇所で垂れ下がっていた。
20分ほどこらえ踏ん張っていくと頭上がにわかに明るくなり、あっけなく奥那須縦走路の稜線に出る。ここで標高は1700mくらい。周囲はツツジやナナカマドなどの低潅木で、思った以上に紅葉が進んでいる。
三本槍岳がもう目の前だが、須立山に寄り道していくことにした。前回の縦走の際は反対の福島県側から登っていて、この須立山がすごく高く苦しめられた思い出がある。
分岐点から15分程、色づいた中を緩々と登っていく。その間、突然携帯に緊急通報が鳴った。西郷町の土砂災害警戒情報、もちろん「訓練警報」である。こんな情報を山登りの途中で受信してしまうとは、とんだ世の中になった。
着いた須立山山頂は眺めがよく、北には旭岳、南に三本槍、そのほかにも多くの那須や福島の山々が見渡せる。須立山は那須連山の中では目立たないが、きりっと締まった形のいい三角錐の山である。
稜線分岐に戻って、三本槍岳に向かう。腰痛がぶり返しつらいが、急な登りでないのが救いだ。
登るほどに背後の展望は広がり、潅木の色づきは鮮やかさを増してくる。那須の朝日岳を前景に見事な錦の山肌が展開する。
那須は関東の中でも一番早く紅葉時期を迎えるがまだ9月、例年なら北海道や北東北で見頃になっているくらいなのに、昨年、今年と紅葉のペースはかなり早まっている。
ここ数年の傾向としては、北の地方や高い山では紅葉が早い一方で、南関東など太平洋側の地方、標高の低い山は年々遅くなっている。これはやはり温暖化の影響が大きいのだろう。地表近くに暖気がたまりやすかったり、さらに海水面の温度上昇とも相関関係がありそうだ。
ガレ場を過ぎ、傾斜も少し急になる。大峠からの道を合わせると、三本槍の山頂部に人が大勢いるのがよく見える。そのまま紅葉と展望の道を歩いて、三本槍岳山頂に到達した。
反対側の朝日岳、茶臼岳方面もかなり紅葉しているが、三本槍はやはり北面のほうが紅葉の色づきも鮮やかだし、山の眺めも素晴らしい。大峠へ下る伸びやかな尾根道の先には「ミニ飯豊」とも呼ばれる大倉山、三倉山の堂々とした山並みが続く。さらに北には南会津の山や安達太良、吾妻、飯豊連峰も。
早い紅葉の訪れをしっかり聞きつけてきた人も多かったようで、山頂はかなりの混雑である。隅っこにスペースを見つけ休憩する。中には腰を下ろす場所を見つけられずに、山頂からはみ出た草地に足を踏み入れている人も多い。ちょうど居合わせた自然保護監視員の人から、そこを出るよう促されていた。
山頂に散らばっているように見えるいくつかの手前の石積みは、そういう場所にに入らないようにしていたようだ。
とにかく登山者が後から後からやってくる。ほとんどは栃木県側から登ってきて、鏡ヶ沼や大峠方面から来る人はあまりいない。人混みに押し出されるように山頂を辞す。
大峠へ下る稜線は紅葉がきれいで眺めもよく、気持ちがいい。休憩できる場所もあるのであらためて腰を下ろす。鏡ヶ沼もよく見える。
大峠へは標高をかなり落とすので、高山植物の咲き残りも多い。エゾリンドウ、ウメバチソウ、ウツボグサ、ヤマラッキョウなど秋の花が涼しげだ。
どんどん高くなっていく大倉山、三倉山の山塊を見上げながら大峠に降り立つ。大倉山方面からの下山グループが休憩していて、飴をもらった。
まだ青空が大きくもったいない気もするが、大峠林道への下山路に入る。ここはブナなどの樹林帯で、きついところはない。
途中で道が二手に分かれる。どっちに行ってもすぐに合流すると思われたが、林道手前に降りるまでのかなりの距離で別の道になっていた。そう言えば朝、鏡ヶ沼に向けて歩き出したときもしょっぱなから道が2本に分かれていたが、あれも結局合流する地点はなかったように思う。
今日歩いたところは距離が短い割には見所が豊富で、那須では一番のお薦めのコースなのだが、標識はあまりないので地図はちゃんと持った方がいいと思われる。
林道を歩いて駐車スペースに戻る。帰りは白河インターには戻らず、会津の旧街道から塩原温泉のほうに抜けていくことにした。田んぼの稲穂はすでに黄緑色から黄色に変わってきており、山の紅葉とタイミングを合わせるように、山麓にも秋の色が目立ち始めていた。
初秋の南会津の風景を見ながら、ゆっくり帰る。