北の山にこの冬ようやく、晴れの土日が巡ってきた。ここ数日気温が上がってきたので雪も締まり歩きやすくなっただろう。
八ヶ岳の三ツ頭や湯の丸、浅間山周辺も考えたがやはり上越国境近い雪の多い山に、一冬に一度は登りたい。昨年悪天で途中撤退した武尊山とする。3年前の同時期にも歩いたが、今日はその時以上の好天が予想される。
中ノ岳から、武尊山と上越国境稜線を望む [拡大]
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最近はこの季節でも歩く人が増えてきたので、朝早くてトレースがないという心配はないだろう。高速渋滞を避けて早出する。関越から見上げる夜明けの谷川岳や武尊山は、雲一つなさそうだ。
川場スキー場の駐車場には7時少し過ぎに到着する。この時間ではさすがにまだスキーやボード客もそう多くなく、そもそもゴンドラの運行開始が8時だった。受付で登山届を提出してから、他のスキー客といっしょにゴンドラの動くのを待つ。装備はダブルストックとピッケル、10本爪アイゼンである。ワカンは車に置いていく。スキーゲレンデの積雪は260cmだった。
外に出ると真っ白な雪山と紺碧の空があった。下のほうはまだ日が差さず暗いが、これから登る剣ヶ峰方面の山稜はピカピカに明るい。ゴンドラを2台乗り継いでゲレンデトップの登山口に着く。
アイゼンとダブルストックで急坂を登り始める。前後に登山者が連なっているが行列と言うほどではない。こんな雪山で、富士山のような押すな押すなの渋滞登山になることなど、まずない。と思いたいが、もう何年かするとそうなってしまいそうな気もする。
最初の急登のあたりは雪質もベタベタ感があって歩きにくかったが、剣ヶ峰を正面した平坦地に上ると軽い雪になった。ひと登りで剣ヶ峰。周囲は群馬や新潟、日光の山が勢揃いとなる。新潟のほうは真っ白だが日光や足尾方面は高山でも黒が優勢だ。今年の冬の山の雪の量は場所によって差が激しく、例年雪の多いところは今年も多く積もったようだが、そうでないところは極端に雪が少なかった。
唯一の難所である剣ヶ峰の北斜面を慎重に下り、緩やかに高度を下げていく。進行方向には武尊の大きな白い壁が立ちはだかる。とにかく雪の白と空の青さがすごい。
そして、今が2月であることが信じられないくらい暖かで、しかも無風である。絶好の雪山日和と言えるだろう。ヤッケは脱いで、いつも南関東の低山に登るときのような服装で歩くことにする。
そして、カメラを構えるタイミングが格段に増える。ダブルストックだと両手がふさがってしまい写真が撮れないのでピッケルに持ちかえた。
武尊山南の斜面はオオシラビソの森となっていて、黒木と雪とのコントラストがきれいだ。木々の間に深く積もった雪が雪紋を刻んでいる。周辺の潅木には樹氷ができていた。
左手には谷川連峰の朝日岳から苗場山まで白い峰続きになっていて圧巻だ。ここからだと谷川岳と苗場山が隣り合って見えるのが面白い。武尊山からは、谷川岳のように新潟の純白の峰々を見渡すことはできないが、上越国境の長い壁を真正面にしたこの山ならではの眺めが得られる。
前回も晴れていたものの、強風と低温で、周囲を見る余裕があまりなかったかもしれない。
山頂は近づいてはきたがかなり高度を落としており、ここからの登りは長い。主稜線に到達すると反対側に巻機山や尾瀬、会津の山が見えてきた。燧ヶ岳や至仏山は意外と雪は少ないように見える。
凍り気味の雪道を登り、登山者で賑わう武尊山山頂に到達する。風はそよ風程度で暑いくらいの日差し。今日は何の障害もなくゆっくりと山の眺めを楽しむ。
山頂の先、稜線上にまだトレースが続いていた。出発が早かったおかげで時間に余裕がある。隣りに見えるピーク、中ノ岳まで往復することにした。武尊山はほとんどの人が川場スキー場から山頂を往復するだけだが、天気がよければその先を行く人も少なくない。
トレースを追い東に伸びる稜線を進む。尾根の背を歩けば踏み抜くことはないが、ズボズボと膝上まで潜りながら歩いている人もいる。好きでやっているのだろう。
尾根の背は一番日当たりがいいので雪が緩くなりやすいと思われがちだが、一度溶けた雪が夜以降また凍って硬くなっていた。こういうところは逆に足跡が残りにくいのでトレースが見えなかったりする。雪山歩きの面白さはこういう意外性にあるようだ。
日本武尊像のあるコブを越え、さらに東進。振り返ると武尊山の丸いピークの上にたくさんの登山者が動いていた。
ヤセ尾根の登りになる。北側からトラバースしていくトレースもついていたが、尾根の背に乗りやせた尾根を直登する。下から見るほど急峻ではなかった。
そのまま尾根伝いに中ノ岳に到着する。狭いピークだがここも展望はすばらしく、日光白根山や皇海山がよく見える。燧ヶ岳も少し近づいた気がする。
この稜線は夏に歩いたことがあるのだが、中ノ岳というピークを越えたという記憶がない。それもそのはず、夏道はこのピークの南を巻くようにつけられていた。
武尊山まで戻る。登ってくる人はさらに多くなった。空はまだ雲ひとつない、完璧な山日和で、登山者の笑顔も絶えない。名残惜しいが下山とする。
日が高くなり、さすがに少し雪が緩んでいる。進行方向の南側には浅間山を始め赤城、榛名、八ヶ岳、奥秩父、そして富士山と並居る名峰が勢揃いである。登りの眺めとは全く違った顔ぶれなのがすごい。
剣ヶ峰は逆光を受けて巨大なオブジェに化していた。
最後の急坂を下り、スキーゲレンデを見下ろす地点まで来ると雪は急にベタベタしてきた。同じ武尊の雪山でも、剣ヶ峰の手前と奥とでは違う山のようだ。
ゲレンデトップの登山口に下り、雪山登山は終了となる。前回と違い疲労はそう残っていないのに、何だか少し気が抜けて、アイゼンを外すのにすごく時間がかかった。
下りのゴンドラでは膝の上に置いておいたストックを落としてしまい、あとでパトロールの人に回収に行ってもらう羽目に。でも見つかってありがたかった。
川場温泉いこいの湯で温まってから帰途に着く。高速は延べ50kmの激しい渋滞。この季節の好天日の関越は、こうなっても仕方がない。事故を起こさないようにゆっくり帰る。
武尊山頂から見渡す純白の峰々。朝日岳(左)、大烏帽子山(中央左)、柄沢山(中央右)、巻機山(右)
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山頂からのパノラマ |