昨年の谷川岳に続いて、奥利根の雪山に登った。数年前、紅葉の時期に登った群馬県川場村の武尊(ほたか)山である。
武尊山は谷川岳の隣りに根ざした山塊で冬の積雪量は多いが、日本海からの季節風を谷川連峰がブロックしてくれるため、冬の気象条件は谷川連峰よりは安定している。それでも他の山域に比べれば晴天率は格段に低く、天気のいい土日にめぐり合えることはひと冬のうちにそう何度もない。
2月最後の土曜日、群馬県北部の天気予報は、前日時点では曇り朝晩雪だった。しかし日中は晴れ間の時間もあるようなので、とにかく出かけてみることにした。だめなら先週と同じく、他の山に転進である。
当日の朝になって、天気予報は晴れに変わっていた。
剣ヶ峰付近の稜線
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関越自動車道は朝から大渋滞である。沼田インターを下りるまで、事故現場に3回出合った。どれもが渋滞中の追突によるもののようだ。インターからは沼田の町を通って川場スキー場まで上っていく。
自分は大学時代(1980年代前半)スキーの同好会に入っていたが、川場というスキー場があったという記憶がない。調べてみたら、ここは1989年開業で、その後運営会社の倒産もあって、本格的な営業は21世紀に入ってからだったようだ。
沼田市街地には道脇に雪が残っていた。スキー場までかなり標高を上げるのだが、道路は除雪されていた。高速の渋滞で出遅れ、到着は9時過ぎとなった。川場スキー場の受付やレストランのある建物(カワバシティー)は1階から6階までが立派な機械式駐車場になっていて、しかも無料である。都心からのアクセスがよいため、今日のような日は多くのスキー客、ボーダーで賑わっている。
エレベータで7階まで上がり、受付で登山届を提出してリフト券を買う。冬の武尊登山はここでの登山届提出が必須である。行程や下山予定時刻、そして車のナンバーと駐車場の場所を記入するが、車を停めたのが何階の駐車場だったか覚えてなく、結局戻って確かめる羽目に。今度来たときは、停めた階と自分の車のナンバーをちゃんと控えてから上に上がることにしよう。
なお下山に使うリフトは15時45分が最終のため、それまでに戻ってくる必要がある。
外に出て、スキーヤーやボーダーに混ざってリフトを2つ乗り継ぐ。積雪は2メートル、スキーには申し分のない銀世界である。リフトは距離が長く、かなり上まで運んでくれる。これでリフト代が往復1800円とは安いほうだ。(なお、受付では保証料500円込みで2300円支払う。何の保証料か解りかねるが、下山時に返金される)
標高1860mの登山口で、ダブルストックと10本爪アイゼンで出発する。出だしからいきなりの急登だ。雪も深く、足を踏み外さないように一歩一歩確実に登る。
高台に出て、しばらくは緩やかな登りとなる。土曜日で登山者は多く、トレースもしっかりしていた。風もなく暖かささえ感じる。もうひとつ小さなピークを越えると、剣ヶ峰が眼前に待ち構えている。
先行していた中高年のグループが下りてきた。武尊山まで時間がかかりそうなので、剣ヶ峰で引き返してきたという。
登りついた剣ヶ峰は南北に細長いヤセ尾根状で、高度感があり眺望も満点だ。すでに標高2000mを越えたこのピークからは正面に武尊山がデンと構えている。まだ先は長い。左手にはたんばら高原・鹿俣山からの稜線が伸び、獅子ヶ鼻山の特徴ある岩峰が連なっている。
遠くの眺めはと言うと、谷川連峰は見えるもののもやがかっていて、くっきりした姿は捉えられない。新潟県側の天気が悪いせいなのか。一方頭上は雲ひとつない青空で、歩く稜線も太陽の下で明るい。
剣ヶ峰からの下りが、このルートで一番の核心部とのことだ。急傾斜で道が細く、途中で方向が細かく変わる。滑ったりするとたしかに落っこちてしまいそうだ。ただ、この日はつかまる岩角が出ていて、雪質もよかったので難しいことはなかった。アイゼンが効かないような雪が多量に積もっていたら注意が必要だろう。
難所を過ぎてもしばらく下りは続き、雪面を滑り降りるように高度を落とす。鞍部は広い雪原になっていた。ところどころ潅木やブッシュが出ており、一面の銀世界ではない。場所によっては土が見えているところもあって、ひところに比べ雪ははずいぶん減ったようだ。
標高1900mくらいまで下りると、武尊山がすごく高く見えるようになっていた。その斜面には何人もの登山者が登っている。ここから標高差200mくらいあり、自分は本当に今からあそこまで登れるのか、不安になる。
以後もしばらく小さなアップダウンの稜線が続く。剣ヶ峰のような大きな登り下りはなく、快適な歩きになった。右手が大きくえぐれた斜面に出ると、雪庇ができていた。反対側は穏やかな樹林帯となっており、非対称山稜の様相を呈している。も風の通り道なのだろう、武尊山でもこういう地形があるのだ。
この先の登りに備え、ストックからピッケルに持ち替える。武尊山は近づくにつれ、ますます高くなって見えた。目の前の斜面を一つ一つ上がっていく。
このあたりで登る人と下る人が多数行き交うようになる。積雪量が増え、下山者の中にはシリセードで下る人もいた。
左の小ピークを回り込むように急斜面を登る。やや風が強まり、気温も急降下してきた。その小ピークからは谷川連峰や剣ヶ峰などのパノラマ展望が広がっていた。
次のピークの先にもうひとつ上があるかと思いながらもひたすら高度を上げていくと、見覚えのある標識が。そこが武尊山の山頂だった。よく登ってこれた。感動の瞬間である。
しかし山頂は寒いの一言。強風が雪を舞い上がらせ、顔にあたって痛いくらいだ。自然にできた雪の壁を風除けにして休憩する。カップ麺にお湯を注いで食べようとするが、麺を容器の中から口に持っていく時には冷えていた。
次第に風もやみ、ようやく回りの景色を楽しめるようになった。巻機山・至仏山・皇海山など、ぐるりと360度の展望がすばらしい。霞んでいるのが残念だがこれだけ見られれば壮観である。
道中ずっと見えていた谷川連峰も、ここ武尊山からだと近くの白毛門から茂倉岳、万太郎山まで幅広く、さらに苗場山まで見ることができる。
やはり寒さには勝てず、滞頂30分くらいで下山に入る。
登頂を果たせたのであとはのんびり展望を楽しみながら来た道を戻りたい。しかし、鞍部付近で地吹雪が強まり、これだけ多くの人が歩いているにもかかわらずトレースが見えなくなっていた。地吹雪と言うのは恐い。雪庇脇を歩くときは細心の注意が必要である。
その地吹雪も次第に止んできて、剣ヶ峰への登り返しに最後のひと踏ん張りをする。往路では霞んでいた谷川連峰もいくぶんはっきり見えるようになっていた。
剣ヶ峰を下り、最後の小ピークでパノラマ展望に別れを告げる。赤城山がかすかに見え始め、足元にリフト発着場が見えるとホッとした。足任せに下り、そのリフト脇の登山口に到着したのが14時だった。
終わってみれば行動時間3時間半と、昨年の谷川岳よりも時間はかからなかったが、変化に富んだひとランク上の雪山ルートで、かなり目一杯だった。自分の雪山登山のレベルもこのあたりが限度かもしれない。
川場スキー場の建物の受付で下山報告をし、保証料の返金を受ける。これも冬の武尊山登山のルーチンワークである。
まだ日も高く、スキーやボードに遊ぶ若い人たちは家路に着く時間ではないようだ。登山者は一足先に下山となる。
帰りは川場温泉「いこいの湯」に立ち寄っていく。民家のような建物で、昔ながらのいい温泉である。山里には雪がそれほど残っておらず、沼田市街地とあまり変わらない。今年はやはり、雪がずいぶん少なかったようだ。
谷川岳やこの武尊山は都心からのアクセスもよいので、もう少し雪の多い年に天気のいい日を狙って再挑戦したい。