7月中旬の3連休は加賀の白山に登ってきた。早くから暑い週末になる予報が出ていたので、未踏の高山としては白山以外考えられなかった。
しかし前夜発の高速バスの予約がいっぱいだ。新幹線は値段が高い上に初日が午後からの歩き出しになってしまう。キャンセル待ち状態でようやく夜行バスの切符が取れたのが4日前。準備が慌ただしかったが何とか準備はできた。バス供給元は、奥多摩でよく利用している西東京バスで、なんとなく親しみがある。
南竜ヶ馬場の雪田は、暑さのため激しく蒸化していた |
金沢駅への到着予定が6時なのだが、乗り継ぐ予定の白山登山バスの一番便も6時発車である。幸い金沢駅には定刻の15分ほど前に着いた。登山バスの停留所はすでに長蛇の列。3台に増便されての出発となる。登山口の別当出合到着は少々遅れた。
すでに大勢の登山者が出発の準備をしていた。8時台なのにすでに日差しギラギラ、今年初のテント泊装備で歩き始める。
今日の予定は、オーソドックスに砂防新道を登り、南竜のテント場に直行の予定である。橋を渡るとミズナラやカエデの樹林帯の登りとなる。関東甲信で見る樹林とあまり違いはない。北陸の山は一昨年の荒島岳、さらに過去には医王山や富士写ヶ岳に登っていた。遠いので土日だけではなかなか来れない。
少し高度を上げるとブナが現れた。多くの高山植物の名前が付けられたことで知られる白山だが、ブナ林の良さも有名である。釈迦新道、チブリ尾根、岐阜県側の平瀬ルートでブナがよく発達しているとのことだ。平瀬ルートにはおおいに惹かれるものがあったが、先日の西日本豪雨の影響で平瀬温泉バス停が使えなくなっていた。また、釈迦新道も橋が崩壊して通行禁止である。
今回は帰路にチブリ尾根を下ることにしているが、ここ砂防新道のブナ林もなかなかのものだ。純林ではないがスラッとした高木で、容姿端麗なものが多い。サワグルミやトチノキなどの巨木も見られる。
サンカヨウが青く結実し、エンレイソウの実は大きく黒い。ブナ林は登山ガイドだと登山口からせいぜい1km程度とあったが実際にはブナの見られる距離は長く、最初の休憩場所である中飯場の先にも立派なブナがあった。
白山のブナについては日本ブナ百名山のページに掲載している。
日差しは強いものの、ここまでは樹林の道ということもあり快適だった。中飯場を過ぎ、やや急な登りをこなしていくとやや疎林になり、次第に頭上が明るくなる。直射日光をまともに受けることが多くなってくる。進む方向には鮮やかな緑の稜線が展開し始め、眺めは素晴らしい。
ナナカマドやミネカエデの花を見るうち、足元にもミヤマキンポウゲやゴゼンタチバナなど高山植物が目につくようになる。樹林帯にはズダヤクシュやハナニガナ、ミヤマシシウドも斜面に大きな姿を見せていた。登山者が後から後から登ってくる。これだけ賑やかな山は久しぶりだ。
開花している笹がある。ここのところ、南関東甲信以外の山でも、こうした笹の花をよく見るようになった。
道が北側を巻くようになると低潅木で日差しが遮られホッとするが、すぐに再び南面となり日光をもろに受ける。甚之助避難小屋は明るい台地に立ち、いよいよ白山付近の稜線が目の前に広がった。しかし、こんなに暑さに苦しめられるとは思わなかった。登山者が所狭しと休憩中で、小屋の小さな軒先にできた日陰で日差しをしのいでいる。
ここで水を補給。砂防新道は随所に水場があり、水不足になる懸念が全くないのが救いではある。水も沢水とか残雪の縁などではなく、蛇口のあるちゃんとした施設になっている。小屋もトイレもきれいで、避難小屋というよりちょっとした営業小屋風である。
まだまだ高い白山の稜線を見上げながら、潅木の道を行く。観光新道への分岐、さらには室堂へ通じるエコーライン分岐に来ると、高山植物の豊富な草付の斜面となる。ニッコウキスゲ、テガタチドリ、ヨツバシオガマ、モミジカラマツ、イブキトラノオ、ハクサンフウロ、アオノツガザクラ、様々な色の花が咲き乱れている。
登山者の8割方は室堂方面に進路を変えていく。こちらは室堂への急登を避けての南竜ルートだが、まだ登りがありこれがなかなかつらい。ここはすでに標高2200m。普通なら涼風渡る草原のはずなのだが、今日の空気と湿度は標高500m以下の関東の低山とさして変わらない。
ようやく平坦な道になり、行く先にはようやく南竜の小屋とテント場が見えてきた。牧歌的で気持ちの良さそうな場所に見える。右手には明日歩く予定の別山がいい形である。
もうひと頑張りして南竜ヶ馬場に着く。小屋でテントの申し込みをする。受付のお姉さんに、暑かったでしょうと同情される。この小屋の売店は6時で終わることを聞く。
テント場は橋を渡ったところの高まりにある。そこまでには大きな雪田を横断する。
まだ時間が早いからか、小屋はそれほど混んではいなかったがテント場はかなり埋まっていた。最近はテント泊が人気で、どこのテント場でもかなり早い時間に着かないといい場所が取れないことが多い。今回は運よく平坦なスペースが確保できた。
暑い中、テントを設営してもゆっくりできない。今日中に白山に登ってしまいたいのだ。南竜からは標高差がかなりあり、時間も4時間近くかかる。疲れた体にはきついのだが、明日は別山からチブリ尾根を下るので今しかない。荷物が軽いので何とかなるだろう。
一番近いトンビ岩コースは残雪が多いとのことなので、エコーラインを登ることにした。
エコーライン分岐から広々とした斜面をジグザグに登っていく道は気持ちがいい。白山室堂に上がるルートはいくつもあるが、このエコーラインは展望と花が楽しめそうだ。それでも砂防新道から室堂へは、この1つ前の分岐に上がる人がほとんどのようなので、このエコーラインを歩く人は意外と少ない。
小さな雪田を過ぎると、ハクサンコザクラがちらほらと見られるようになる。白山では多くの高山植物が最学者によって最初に観察され、それらはハクサン~と名付けられた。その一方で白山の固有種の花は見つかっておらず、南竜小屋の壁に写真が貼られていた「ハクサンオオバコ」も固有種ではないようだ。
そういう意味で白山で見る花は他の山でもよく見る、おなじみのものばかりであるが、種類は北アルプス並みに多い。チングルマやコイワカガミも雪解け間もない斜面に咲いていた。いっとき、ここまでの疲れを忘れる。
白山の丸い山頂部、その懐に立つ室堂山荘の建物が見えてきた。が、それは思った以上にまだずっと先にある。エコーラインを登り始めてから1時間以上経つが、室堂まではまださらに30分くらいはかかりそうだ。
高度をここまで上げても、暑さはそう緩和されていない。山頂まで体力が持つだろうか。