外が明るくなっても雨は止まない。それにテントに抜きつける風が、昨晩のそれとは比較にならないくらい激しいものになっていた。
テントの中で軽く食事を済ませ、携帯トイレを初めて使い、しばらく様子を見る。しかし荒れ狂った天気は好転の兆しがない。天気予報は朝方曇り、のち晴れに変わっていた。しかしもちろん麓(新得町)の天気だ。
昨日のうちに登っておけば...。しかし後悔先に立たず。7時を過ぎて、もう行くしかないと思い雨具を着込み空身で出発する。山頂までほんの30分である。
前トム平方面の稜線を見上げると青空がひろがっていた
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一転、暴風雨 |
雨上がりで緑鮮やかなコマドリ沢付近。青空が覗き始める
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緑鮮やか |
シナノキンバイ。またはチシマノキンバイソウ(コマドリ沢)
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シナノキンバイ |
下部の稜線では笹の間から、さっきまで雨風の中だったトムラウシ山頂部がよく見えた
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山頂も天候回復 |
コマドリ沢~カムイ天上間の稜線は四方の眺めが効き、トムラウシも見える
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展望の稜線 |
コマドリ沢~カムイ天上間の稜線からニペッソ山を望む
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ニペッソ山 |
コマドリ沢~カムイ天上間の稜線から、十勝岳方面には端正な三角錐の山が見えた。後に下ホロカメットク山とわかる
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形よい三角錐 |
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下山届を提出 |
JR北海道・根室本線の幾寅駅。映画「鉄道員」の舞台となった無人駅
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ぽっぽやの舞台 |
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駅舎の中 |
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土砂降りの中を20分ほど登り、稜線と思しきところに立つ。しかしここで今回最大の暴風。近頃の天気予報でよく耳にする「いままでに経験したことのない」風に前進することができない。思わずストックで耐風姿勢をとるが、雪山ではないので素直にしゃがめばよかった。とにかくものすごい烈風で、すぐ横にいる相方と会話ができない。
どちらからともなく「これはダメだ」となり、山頂手前100mあまりで撤退とする。キャンプ場まで下るが、再トライの気も起きず、このままテントを撤収して下山することになった。
テントをたたむのも並大抵のことではなく、途中でマットが飛ばされて探しにいくこともあった。
トムラウシ公園へ下る。ザックの小さい単独の人が登ってきた。標識の場所まで下りきり、ひとます危険地帯は脱したが、この先の登り返しで再び暴風雨となる。とにかく稜線沿いは危険である。
それでも次から次へと登山者がやってくる。そのたびに、山頂付近は暴風雨で登頂を諦めたことを、それこそ録音音声のように話す。みなずぶ濡れの雨合羽を着ているので、かなり下から雨は降っていそうだ。
前トム平から下りに入るとようやく、雨は小降りになる。風も止んできた。森林限界の下に潜る頃には、雲を割って日差しが届き、青空まで見えるようになる。振り返り見る稜線はまだ風がすごそうだが、雨は止んでいるようだ。
さっきトムラウシ公園で会った登山者が下りてきた。やはり雨風強く引き返してきたようだ。上の方を見て、「ああ晴れてきちゃった」とお互いに悔しがる。
淡々と下り、コマドリ沢に降り立つ頃には気温も上がって、雨具を脱ぐことにした。どうも雨風が一番ひどい時に山頂を目指していたようである。
以後の空模様はそれこそ、何のためらいもなく急回復。コマドリ沢からの滑りやすい急登を何とかこなすと、昨日以上に青空が眩しい展望の尾根歩きになった。このルートは笹の丈が高いものの、四囲の展望は終始いい、
広がるパノラマの山々は、大雪山旭岳以外はあまりよくわからない。幌尻岳方面の山並みも見えているはずで、その先には津軽海峡を越えて八甲田山も見えるようだ。今回は展望の下調べが不十分だった。
カムイ天上からはらトムラウシの頂きもすっかり見えるようになっていた。今日は遅く出発した人は、トムラウシの登れたかもしれない。自分たちはトムラウシのリベンジはまたしても果たせなかったが、登りがいのある登路やお花畑、伸びやかな草原など北海道ならではの風景を十分に楽しめたので満足度は高い。
しかし山頂は、登れる時に登っておいたほうがいい、との反省もある。短縮登山口に着いた時は、うそのような快晴になっていた。
トムラウシ温泉で汗を流し、今夜の宿泊地である吹上温泉へ向かう。車で150キロくらいあるので、あまりゆっくりしてはいられない。暴風雨の南沼で、あれ以上様子を見ていたらさらに時間に余裕がなくなっていたことになる。
ドライブがてら昼食をとりたいのだが、何しろ前方には、広大な農地の真ん中に、一本まっすぐな道が通っているだけ。建物すら見当たらない。新得駅方面へ戻るように走って、ようやくラーメン屋を見つける。またラーメンだがしょうがない。
吹上温泉は自炊なので、食材を調達に幾寅駅のコンビニに立ち寄った。この無人駅は、映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地での駅となったところであり、今も撮影当時の食堂や理容室のセットが残されていた。昭和の香りのする懐かしい駅舎がいい雰囲気である。
車は富良野の台地を走る。日も沈み、地平線の向こう、車窓いっぱいに広がる茜色の空は息をのむほどに美しく、神々しい。やがて十勝連峰の大きなシルエットの中に車は入っていく。夕方5時ごろの到着を想定していたので、こんなところで夜景が見れるとは思わなかった。吹上温泉「白銀荘」には夜8時過ぎの到着となった。