昨日は真っ暗の中での到着だったため、周りの様子はうかがい知れなかったが、吹上温泉付近はすごく眺めの良いところに建っていた。正面には十勝連峰、背後には富良野の台地と道央や道北の山々がよく見える。
山登りの予定がなければ1日のんびりしたい場所である。
空と雲が眩しい十勝岳の頂へ
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吹上温泉白銀荘。一泊2600円の自炊専用宿泊施設。 食器や鍋は完備している。常連客が多い
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吹上温泉 |
白銀荘から歩き出してしばらくすると沢を渡る。十勝連峰の稜線が見えてくる(下山時に撮影)
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稜線が見えてくる |
吹上温泉登山口から30分ほど、ハイマツ茂る小さなコブに九条武子の歌碑が立っている。 「たまゆらのけむり おさめてしずかなる 山にかえれば 美るにしたしも」 大正15年の噴火が静まったことを喜び歌ったもの
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九条武子の碑 |
富良野の牧草地に見えた、不思議な白い点。ロールベールサイロと言って、刈り取った牧草を白いポリエチレンでラッピングしたもののようだ
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白いポチの正体は? |
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望岳台ルートへ |
望岳台からの道に合流してからは、右手に富良野岳の緑豊かな山が見え続ける
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富良野岳 |
十勝岳避難小屋に到着。ここからは噴火の泥流跡を見ながらの砂礫の登りとなる
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避難小屋へ |
昭和噴火口に登り上がると、右手に十勝岳の山頂部があらわとなる
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本峰が姿を現す |
十勝岳の稜線目指し、泥流跡の刻まれた斜面を急登する
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泥流跡を登る |
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青空広がる |
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十勝岳山頂 |
十勝岳山頂から東側の展望。左は美瑛岳で、その右手にトムラウシ、背後に旭岳。右側遠くに石狩岳。 手前右の砂礫の台地には美瑛岳から伸びる登山道が見える
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美瑛岳,トムラウシ |
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激しい噴煙 |
十勝岳山頂から南側に伸びる山稜。夏道はなく、トムラウシの登山道から見えた端正な三角錐の山、下ホロカメットク山まで続いている
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三角錐の山も |
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今日は十勝岳。火山であり、過去幾度となく噴火を繰り返してきた山である。
大正15年の大噴火では泥流が上富良野の市街地まで到達し、多数の死者・行方不明者を出した。最近では昭和63年に小規模な噴火を起こし登山規制も敷かれたという。それ以後は火山性微動等の現象は発生しているものの、噴火は起きていない。
今回は山中泊はせず、日帰り登山である。美瑛岳まで縦走するロングコースや、カミホロトカメック山を経由するコースなど、案はいくつか考えたが、昨日の行程がきつかったこともあって、結局シンプルに山頂往復とした。
車で望岳台まで行ってしまい、そこから登ったほうが行程は楽そうである。しかし、ここ吹上温泉にも登山口があるので、ここから歩くことにする。山の方の空は白っぽいものの、まずまずの登山日和である。
キャンプ場の背後の少し高い位置から登山道が始まる。短い樹林帯から、十勝岳噴火碑(爆発記念碑と書かれていた)のある場所を過ぎる。沢を渡り、九条武子の歌碑を見て岩屑の敷き詰められた溶岩台地に出る。
と、その岩の上に小さな動物が一匹いた。耳が小さく丸い、かわいい姿をしている。ナキウサギだった。北海道の山なら、ヒグマでなく是非見たいと思っていた。本命のトムラウシでは空振りだったが、ここ十勝岳山麓で見られるとは意外だった。
溶岩台地のルートを緩やかに上り下りする。すでに展望は広がっていて、前十勝岳の白い噴煙が良く見える。望岳台からの道を合わせるとさらに眺めは開け、望岳台の施設越しに裾野のほうがずっと先まで見えた。
火山の山らしく、ザラザラした砂礫の登りがここからずっと続く。こういう富士山タイプの登山道は歩いていてあまり面白くはない。が、ここは周囲の景観がバラエティに富んでいる。大正15年の噴火でこの斜面に泥流が流れたことで、このあたりは高い木が1本もなく、寥々たる風景が広がっている。その分展望はほしいままだ。また前十勝岳のもうもうと上がる噴煙、その白い十勝連峰の隣にそびえる緑豊かな峰は富良野岳。その姿は凛々しく絵になる山である。
振り返れば富良野の大地が青空の下にある。登山道の脇にはエゾリンドウやオンタデなど火山でよく見られる高山植物ばかりだ。
見通しのよい斜面には、直線状の登山道がはるか上まで続いている。土曜日ともあって、登山者が列をなしているのがよく見えた。
しかしあのすごい噴煙を上げる近くを登山道が通っているとは、少々気味悪くもある。噴気口のすぐ上を歩く前十勝岳コースはさすがに通行禁止でロープが張られていたが、今まで見ていた登山ガイドにはそんな道など全く書かれていなかった。
美瑛岳への道と分かれると、十勝岳避難小屋に着く。林の中に埋もれるように立つ吹上温泉の建物も見えた。
富良野の牧草地に不思議な白い物体がいくつも置かれているのが見える。あれはいったい何だろうか。初めは牛か何かが放牧されているのかと思ったが、全く動いていないので奇妙である。
後で調べたらロールベールラップサイロというもので、刈り取った牧草を白いポリエチレンで円筒状にラップしたものだそうだ。
十勝連峰の稜線は雲が多くなってきた。山肌に残された幾筋もの溶岩流の跡を見ながら高度を上げる。風も出てきて、さすがに一枚では寒く感じ、重ね着する。
ようやく稜線に上がる。左側の大きなくぼみは昭和噴火口で、1926年(昭和27年)に噴火した跡だそうだが、現在噴煙は見られない。
そして右手奥にはさらに高い峰が控えていた。このルートからは初めて見る十勝岳の本体である。あのてっぺんまで行くには、まだある程度の時間と労力がかかりそうだ。思った以上に奥深い山である。
その山頂までは、砂丘のような砂の台地を行く。富士山のお鉢巡りを少し連想する、と言うよりもな何だか地球でない、月面の上を歩いているような感じだ。
左手には美瑛岳がこれまた高い。稜線から先は風が強まり、噴気口からのガスの臭いがかなり強まる。そのガスの影響なのか、これから向かう十勝岳山頂部もうすぼんやりとした眺めになってしまった。視界があるうちに登ってしまいたい気もしたが、もうずっと歩き続けで疲労感もある。吹きさらしの稜線でも風が弱そうなところを選び、昼食休憩とした。
黄色く染まった残雪を見て、山頂手前の急登にかかる。遠目からは壁のように見えたが、取り付いてみると意外とすんなり登れた。稜線に出るとかなりの強風。昨日のトムラウシを思い出したが、今日は進むことはできる。
頂まであと一息。岩ガラガラの緩斜面を登っていくと、これまた意外や意外、頭上に青空が覗き始めた。日差しも復活し、山頂に近づくにつれどんどん明るくなる。
十勝岳山頂に到達。雲は流れ去り、そこは太陽と青空の下、パノラマ大展望の地となっていた。しかも山頂の反対側(南側)に回ると風がピタッと止み、気味悪いくらいに穏やかである。
とにかく晴れの山を勝ち得たことはめでたい。相方とハイタッチする。
眼下には広大な砂れきの稜線、その先に美瑛岳が形よい。さらに尾根続きにトムラウシ、残雪したためた大雪山塊までも望めて感激である。富良野岳側の尾根筋は伸びやかな縦走路のようだ。
南側は上ホロトカメック山から発する一本の尾根筋。その先端には綺麗な三角錐の山が。昨日トムラウシの登山道から見えていた形のよい山はこの下ホロトカメック山だった。
十勝岳山頂からの見所はそれだけではない。来た方向にはもうもうと噴煙を上げた前十勝岳が見下ろせる。東西南北でそれぞれ違う山岳景観が楽しめるのが、十勝岳の魅力であろう。
下りは来た道を戻る。とたんに強風の洗礼を浴びる。しかし空はすっかり青空なので、気分的にゆとりがある。昭和火口跡からは、富良野の大地を真正面にして滑りやすい長い下りが続く。
登りの時に、お父さんと手をつなぎながら一生懸命歩く、小さな女の子がいた。最後は歩けなくなって泣いてしまったが、よく頑張ったと思う。おとうさんにおんぶされて十勝岳避難小屋に下りてきた。
望岳台への道と分かれて車のある白銀荘へ向かう。ナキウサギを見たところでは、もう一度目を凝らして見渡したが、今度はいなかった。吹上温泉の登山口へ戻る。日差しはまだ強く、稜線付近の噴煙もまだくっきりと見える。今回の北海道山行は後味のいい締めとなった。
その日のうちに東京に帰るのは時間的にかなり厳しいので、最終日は麓の白金温泉に泊まることにしている。白金温泉の「しらひげの滝」のある川沿いに立つと、森の向こうに十勝連峰が一直線に並んでおり、吹上温泉では稜線に隠れていた十勝岳の尖ったピークもよく見えた。
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翌朝、飛行機まで時間は十分にあるので、富良野や美瑛の観光地巡りをしていくことにした。白金温泉近くの「青い池」、美瑛の展望農園「四季彩の丘」、ラベンダー畑で知られる「ファーム富田」いずれも色彩豊かな自然郷で、いずれからも十勝連峰の眺めが得られるのが特筆ものである。十勝岳は富良野町と美瑛町のシンボルと言ってもいいだろう。
旭川空港でレンタカーを返却し、帯広で購入したガスコンロをいっしょに引き取ってもらった。
山、温泉、そして広大な北の大地を脳裏に焼き付け、羽田行きの飛行機に乗る。